追いかけてきた幼馴染 2
ルキーノ子爵以外の二人の代官を招いての夕食会は、予定通り開かれた。
二人とも穏やかそうな四十半ばほどの男性で、管理を任されている町や地域も問題なく治めているようだ。
それとなくボニファツィオの領地運営税についても訊ねてみたが、ここ十数年は税率は一定だという。収穫量も安定していて、二人が治める地域で飢餓に苦しむ人はいないようだ。貧民層への食糧援助も年に数回行われていると言うが、食べ物に困るほどの貧民はほとんどいないと聞く。
やはり、コンソーラの町がおかしいようだ。
夕食会の日までにいくつか調書が上がったが、コンソーラの町では貧困の差が非常に激しいと報告が上がって来た。
終始穏やかに終わった夕食会から二日後、離宮の書斎で報告書を確認していたアドリアーナのもとに、カルメロが慌てた様子でやって来た。
「どうかしたの?」
「こちらが先ほど早馬で……!」
「あら、オリーヴェ公爵家の封蝋ね。なんて書いてあったの?」
念のため中身を確認するためにすでに封が開けられている。カルメロの慌てぶりを見るに中身は確認済みだろう。
封筒から中身を取り出して目を通したアドリアーナは目を丸くした。
「二日後にジラルドが来るらしいわ」
なるほど、カルメロが慌てたはずである。
ジラルドはアドリアーナにとっては仲のいい幼馴染であるが、彼は国王の甥で上位の王位継承権を持った公爵令息である。王族同等の出迎え準備が必要だ。
「どのくらい滞在するのかはわからないけど、部屋の準備と、あと、当日の夕食のメニューを料理長と話し合ってちょうだい」
ジラルドは穏やかな人なので、出迎えの準備が整っていないからといって怒ったりはしない。けれど、王家に仕えていたカルメロがこのあたりで手を抜くとは思えなかった。
指示を出すと、カルメロが頭を下げて慌ただしく書斎を出ていく。
早馬で届けられた手紙なので、こちらは返信不要だ。出そうと思っても、二日後にこちらに到着すると言うことは、すでに王都を出発した後であろう。
「でも、ジラルドってば急にどうしたのかしら?」
王都のタウンハウスで暮らしていたときのように気軽に行き来できる距離ではない。
わざわざ来るということは、何か問題が発生したのではなかろうかとアドリアーナは顔を曇らせたが、父や兄から何の連絡も入っていないので、その可能性は低いと思いなおす。
(じゃあ、遊びに来ただけかしら? でもいいのかしらね? 王都では社交シーズンがはじまる頃でしょうに)
独身で婚約者もいないジラルドは、独身女性からとても人気が高い。
ジラルドが王都を離れると、がっかりする女性も多いだろう。
(そういえば、そろそろ結婚を考えてもいいはずなのに、ジラルドってばなんでまだ婚約者を決めないのかしらね?)
アドリアーナはジラルドからの手紙を見下ろして、「不思議ねえ」と首をひねった。
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