第44話 秀頼 伊勢に現る

空想時代小説 

今までのあらすじ

 天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。

 朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一と諸国巡見の旅にでた。越後からいっしょだったお糸は琉球で火事にあい、亡くなってしまった。徳川家光は後継ぎとして駿府にもどって、本多忠刻が亡くなったため、徳川家再興となり駿府藩の藩主となっている。平泉から供をしていた元山賊の春馬は震災にあった土佐の村で好いたおなごができて、そこに残った。それに鳴門で秀頼を弟の仇と襲った加代が姫路から同行している。そして今では高取城から連れてきた者どもと一緒に伊賀上野の統治にあたり、3年後、伊賀上野を義慶と加代に任せ、秀頼は再び諸国巡見の旅に出た。


 伊賀上野から伊勢に出た。船で三河に行こうと思い、長太ノ浦(なごのうら)(現在の鈴鹿市)までやってきた。家康公の伊賀越えの旅路をたどろうと思ったのである。家康公は途中、一揆勢に襲われたりして大変な旅路であったが、秀頼の旅は快適だった。だが、ここで足止めをくった。嵐にあったのである。旅籠は船止めにあった旅人たちで満杯だった。しかたなく、秀頼と大助は百姓家に宿をとった。そこにも先客がおり、寝床は馬小屋となった。何年ぶりかのわらの寝床であった。

「大助、吉野の道を思い出すな」

「そうでございますな。あの時の馬小屋は馬糞くさくて大変でございました」

「だったな。ここは馬糞がなくていいが、なんか湿っぽいな」

「馬は別の小屋で飼っていて、ここはわら小屋だそうです。湿っぽいのは雨のせいですかな」

「だろうな。寝られるだけましか」

 と言っているうちに寝入ってしまった。


 翌朝、起きるとまだ雨はやんでいなかった。

「今日も船はでずか・・・またわらの布団だな」

 と二人でいると、二人の侍がやってきて、

「秀頼公と大助殿とお見受けする。いかがでござるか」

 と礼をしてきた。隠す必要もないので、

「そうだが・・」

 と応えると

「殿がお二人をお探しです。ぜひ、お城まできていただきたい」

 ということで、二人について城のある津までやってきた。城主は、藤堂高次(27才)である。先代高虎は数年前に亡くなっている。元々は秀頼の叔父秀長の家臣であったが、才を認められ、伊勢20万石の大名となっていたのである。高次は体格はよかったが、どこか凡庸な感がした。話し方がゆったりなのである。

「秀頼公、よくぞまいられた。伊勢はいかがでござるか?」

 と聞いてきたので、秀頼が応える。

「船で三河に行こうと思ったのでござるが、この大雨で足止めをくらっております」

「そうか、船もでられぬ大雨であったか? 左近、藩内は大丈夫か?」

 と高次は控えていた家老の前野左近に尋ねた。

「はっ、まだ被害の知らせはきておりませぬ」

「うむ、はやくおさまればいいな」

 という調子で、何のために城に呼ばれたのか秀頼はとうとうわからなかった。一緒に夕餉をとり、その日は城内に泊まることになった。

 世話役の目付、松本潤之介に秀頼は思い切って聞いてみた。秀頼を迎えにきた侍である。

「高次殿は、いつもあのようにゆったり話すのであるか?」

「はっ、そうでござる。父君高虎様とは正反対でござる」

「であろうな。二代目にありがちじゃ。われもそうだが、父とは違うとよく言われる」

 大助が厳しい目で秀頼をにらんでいる。(余計なことを)と思っているのである。

「それで、高次殿はどうしてわれを呼んだのだ?」

「さて、拙者にはわかり申さぬ。ご家老のお話では、秀頼公に会いたかっただけということらしいです」

 秀頼と大助は呆れて物が言えなかった。そんなことで寄り道をさせられたのかと思い、しだいに腹立たしくなった。

 その夜、秀頼と大助は激論をかわすことになった。

「大助、今回の高次のこと、どう思う?」

「城主としての器量はありませぬな」

「われもそう思う」

「ですが、嫡子が継ぐというのは世の習い。嫡子以外の者が継げば争いの元になりまする」

「しかし、器量のない者が城主になれば、家臣どもが困るであろう」

「確かに、そうでございますが、能力のある家臣が側にいればいいのでは?」

「だったら、その能力のある家臣が城主になればよいではないか。現に義慶はそういうことであろう。あのように、入れ札をして家臣の中から城主を決めればいいではないか?」

「うまくいけばいいですが、後継ぎとされていた方との争いにもなります」

「だから入れ札の候補にその後継ぎもいれればいいのではないか」

「それとて、藩内を二分する可能性があります。後継ぎの方が自ら身を退けば別ですが、そういう方はなかなかおられませぬ。秀頼公ぐらいなものです」

「なんだ! われは変人か!」

「変わり者でないとお思いか! 天下を取る機会があったのに、こうやってわしを連れて旅をなさっているではありませぬか!」

「お主は旅に不服か!」

「不服ではござらん。ですが、秀頼公にはもっとやることがあると思っております」

「旅以外になんじゃ!」

「それは日の本の統治です。殿が天下をとれば、無能な城主を替えることもできまする。探題の器量ではできませぬ」

 そこで秀頼は黙ってしまった。大助の本音を初めて知ったような気がした。その日は、別間で寝ることになった。秀頼は天下の治世について思いめぐらしているうちに寝てしまった。

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