第41話 秀頼 大和脱出

空想時代小説

今までのあらすじ 

 天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。

 朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一と諸国巡見の旅にでた。越後からいっしょだったお糸は琉球で火事にあい、亡くなってしまった。徳川家光は後継ぎとして駿府にもどって、本多忠刻が亡くなったため、徳川家再興となり駿府藩の藩主となっている。平泉から供をしていた元山賊の春馬は震災にあった土佐の村で好いたおなごができて、そこに残った。しかし、鳴門で秀頼を弟の仇と襲った加代が姫路から同行することになった。そして今は、大和の高取城で独立勢力の手下となっている。


 秀頼らは8年目の春を迎えた。秀頼32才、大助25才、義慶27才、太一23才の春である。加代は年齢不詳である。25、6かと思われるがおなごの年はわからない。

 春のある日の明け方、敵が攻めてきた。秀頼らは二の門の小屋にいたので、門に張り付き、弓を構えた。

 大助が小頭に大声で聞く。

「敵はだれぞ!」

「知れたこと、筒井の連中だ!」

 となると、秀頼らは筒井方に味方しなければならぬ。このまま山賊をのさばらせておくわけにはいかない。だが、筒井方は秀頼らを知らぬ。下手をすると斬られるかもしれない。と思っていたら後方で火の手があがった。内応者が火を放ったのだ。

 小頭が叫ぶ。

「本丸が危ない。野郎ども、本丸を守れ!」

 ということで、一本の矢を放つことなく、本丸の門まで行くことができた。そこで、また弓を構える。昨日まで仲間と思っていた者がこちらに向かってくる。筒井方の侍が山賊に紛れ込んでいたのだ。皆、肩に白布をつけている。それが目印らしい。秀頼らは適当に2・3本の矢を放って、刀を抜いて走った。小頭も刀を抜いて敵に向かっている。指揮系統は崩れた。そこで、3人で本丸館に入った。白布はついていないので、山賊方は味方と思い、かかってこない。だが、奥まで行くと、強そうな侍が2人いて、

「お主ら、何をしている。ここはお主らの持ち場ではないぞ。もどれ、もどれ!」

 とどなられた。大助が

「小頭に殿を守れ! と言われてやってまいった」

 と応えると、

「大丈夫だ。殿はご無事だ。奥におられる」

 と返事がきたので、大助と義慶が2人の侍に斬りかかる。それに秀頼も加わり、手傷を負わせた。扉をあけると、そこに着飾った武将と奥方らしき女性がいた。山賊の頭にしてはやや弱弱しい感じのする武将であった。もしかしたら、山賊どもがかつぎあげた武将なのかもしれない。その者をしばりあげ、本丸の縁側にでた。庭では双方の侍が斬りあっている。そこに義慶が大声で

「皆の者! 羽柴秀治をめしとった。静まれ、静まれ!」

 とどなる。それでも斬りあいをやめない。そこで大助があらんかぎりの声で

「えーい、この方をどなたと存じる。武家監察取締役木下秀頼公なるぞ。今は亡き太閤秀吉公の後継ぎであるぞー!」

 と言った途端に、斬りあいがおさまった。つづけて義慶がどなる。

「えーい、頭が高い。控えい! 控えい!」

 という声で皆が膝をついた。つづけて、秀頼が声を発する。

「われは諸国をめぐって、世の中を見てきた。だが、ここほど荒れているところはない。皆の者は争乱の世を願うのか!」

 皆、だまってうつむいている。

「どちらも言い分があるであろう。しかし、侍が争っていて困るのは民百姓である。侍はよき統治者でなければならぬ。ここはお互いに歩みよって、住みやすい国を造るべきではないのか」

 そこで拍手が起きた。おなご衆からである。その中心は加代であった。

 山賊の中から声が起きた。

「われらは罪人にならぬのか?」

 それに秀頼が応える。

「罪を認めれば、許す。その後は畿内探題の大野治長殿と協議し、そなたらの処遇を検討することを約束する」

 そこで、山賊側は刀を鞘におさめた。それを見て筒井方も刀をおさめた。

 秀頼が羽柴秀治に問う。

「お主はどうして城主となったのじゃ?」

「かつぎあげられただけじゃ。父が秀長公の家臣だったということだけで、小頭たちに城主をせよと言われたのじゃ。わしには何の権限もない」

「どおりで表にでてこなかったわけだな」

「では、ここのまとめ役はだれじゃ?」

 大助の問いに、5人の男が立った。秀頼らの小頭もいた。

「それは我ら5人衆である。元々、大坂の陣で敗れた徳川方の武士だったが、落ち武者となり、ここまで流れてきた。ここ高取城が空き城であることを知り、ここを拠点に大和を支配しようとしたのだ。われらは5人とも同格なので、お飾りとしての城主が必要だったので、大和郡山にいた秀治を仲間に引き入れ、羽柴秀治と名乗らせた次第。責めを求めるならば我ら5人にいたせ」

 それに秀頼が応える。

「潔い態度である。それでは沙汰があるまで、ここ高取城で待て。早速、大野治長殿と連絡をとる」

 と言ったところで、一人の武士がすくっと立った。

「拙者は大野治長殿の目付、飯島弥一である。殿の命で筒井殿とともに高取城の始末をせよと言われてきた。その際、秀頼公に会った場合はその命に従えと言われてござる。殿に代わって、秀頼公の命に従いまする」

 その声に首を垂れた者が100人ほどいた。さすが畿内探題である。秀頼の動きも察知し、きちんと対策を考えていたのだ。

「わかった。それでは、今夜その方らの処遇を検討する。われの命に従う者はここに残り、従いたくない者は今夜までに山を離れよ。ただし、その際は探索方が追うやもしれぬ。その覚悟をいたせ」


 その夜、秀頼・大助・義慶・飯島そして筒井家の代表の5人で話し合いを行った。

 大助が口を開く。

「この者たちに高取城を与えたらどうなる?」

 筒井家の者が応える。

「高取の地は2万石ほどで、わが筒井藩の半分ほどになります。とても相容れませぬ」

「やはり難しいか。飯島殿、畿内で分ける土地はないか?」

「うーむ、ないではないが・・・島でござるぞ」

「島?」

「淡路島でござる。今、代官がいっておりますが、なかなかいつけませぬ。蜂須賀の残党がはばをきかせております」

「そういうところは無理じゃ。そこは蜂須賀の残党に代官をさせればいいではないか。他にはないか?」

「となると、伊賀上野でござる。藤堂高虎殿の領地でしたが、高虎殿が亡くなり、伊勢だけで手一杯という知らせがまいっております。元々、伊賀上野は統治しにくいところで、大野治長殿の領地となっても、代官として行きたがる家臣はないと思われます」

 その話を聞いて秀頼が口を開いた。

「そこだな。われも行って、統治するとするか」

「秀頼公も行っていただけるならば、心強い」

「では、次は秀治殿の処遇じゃ。伊賀上野に連れていくわけには参らぬ。筒井家としても高取城の城主を迎えるわけにはいくまい。飯島殿、大野治長殿に頼めぬか。秀長公の家臣の子となれば豊臣方じゃ。無下にはできまい」

「はっ、かしこまりました」

 ということで、まとまった。


 翌日、秀頼らは100人近い山賊を連れて伊賀上野に向かうことにした。夜のうちに山を下りたのは数人だけであった。

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