第40話 秀頼 大和で山賊になる?

空想時代小説

今までのあらすじ 

 天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。

 朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一と諸国巡見の旅にでた。越後からいっしょだったお糸は琉球で火事にあい、亡くなってしまった。徳川家光は後継ぎとして駿府にもどって、本多忠刻が亡くなったため、徳川家再興となり駿府藩の藩主となっている。平泉から供をしていた元山賊の春馬は震災にあった土佐の村で好いたおなごができて、そこに残った。しかし、鳴門で秀頼を弟の仇と襲った加代が姫路から同行することになった。秀頼の旅の供は4人となったのである。


 秀頼らは紀州九度山から大和に入った。ずっと山道である。

 大和の国は元々秀頼の叔父羽柴秀長の領地であった。本拠地は大和郡山城であるが、平城なので万が一の場合に備えて、山奥に堅牢な高取城を造った。攻め口が一本しかないまさに守りの城である。

 秀長が亡くなった後、幕府は大和の国を分割し、小大名が乱立することになった。幕府崩壊後も、畿内探題の大野治長に逡巡した領主は本領安堵となったのである。高取城がある南大和は筒井家の領地となっているが、独立勢力が支配しているという噂を聞き、確かめにきたのである。


 峠道を歩いていると、ガサガサと音がして10人ほどの侍というか山賊に囲まれた。皆、刀の柄に手をかけている。首領らしき男が

「お主ら、どこへ行く? 旅の者なら通行税を払え」

 と野太い声で脅かしてきた。大助が

「高取城に行くところでござる」

 と応えると、

「なんだ、仕官がのぞみか。おなごもいっしょとは助かる。女手が足りなくて困っておったのだ。そのおなごはだんなもちか?」

「そ、それは・・」

 と大助は口ごもった。そこに、義慶が

「わ、わしの女房じゃ!」

 と怒鳴った。秀頼や加代は驚きというか呆れている。

「なんじゃ、だんなもちか。だがおまえは坊主ではないか」

 と、義慶に近づいてきて問い詰める。

「前は坊主だった。だが、加代といっしょになるために坊主は捨てた」

「そうか、生臭坊主だったのだな」

 と言い残し、ついてこいということで、10人に囲まれながら城をめざした。


 しばし歩いて、一の門に着いた。木の門だが、見張りが多くいる。侵入者がいればすぐに城に伝わるしかけがあるということだ。

 そこで、入山帳に記帳することになった。義慶と加代はすんなり書いたが、秀頼と大助は悩んだ。本名を書いてしまったのでは後々まずいことになってしまう。そこで偽名を書くことにした。秀頼は、木下秀まで書いてしばし悩み、その後に麻呂と書いた。自分でおかしくなった。大助は真田の名を出すわけにはいかないので半田大助と書いた。呼ばれるのはいつも大助だから、これで問題ないと思ったのである。

「木下秀麻呂? まるで公家の名前だな」

 と首領らしき男が言うので、

「父が京の武士だったので、その名をつけた次第」

 ととっさにでまかせを言った。

 二の門に行くと、小さいながらも石造りの上に櫓がある大手門であった。いたるところに鉄板がうちつけてあり、火矢をいかけても破ることはできない造りだ。さすが秀長公のお声がかりで造った城だ。

「小頭のお調べがある。ひとりずつ参れ」

 と言われ、近くの小屋に入った。義慶と加代はなんなくもどってきた。次は大助である。小頭はまさに山賊の首領という感じの男だった。左眼に眼帯をしている。

「半田大助か。出自はどこだ?」

「出は紀州でござる」

 生まれは九度山なので紀州には違いない。

「父は?」

「関ヶ原で敗れた浪人である」

 これも間違いではない。

「父は今でも紀州にいるのか?」

「いや、信州の親戚のところに行くと言っておった。わしは父と別れて木下殿といっしょに旅をしておった」

 半分嘘を言った。

「木下とはどこで会ったのじゃ?」

「大坂の陣である」

「幕府方か?」

「いや大坂方である。豊臣がなくなったので、他に仕官せず諸国をめぐっておった」

 これは嘘ではない。

「なぜ仕官しなかったのだ?」

「木下殿の思いに共感したからでござる」

「それでは、どうして高取藩に仕官する気になったのだ?」

「それは木下殿がそろそろ仕官したいと言い出したからである」

「そうか、お主は完全に木下の家来なのだな」

「そうでござる」

 ということで、大助の調べは終わった。

 最後は秀頼である。

「木下秀麻呂、変な名前だな」

「父がつけた名前でござる。仕官できたら名を変えたいと思っておる」

「そうか、手柄をたてたらわが殿が名をくれるかもしれぬな」

「父は京の侍だということだが?」

「そうでござる。われが幼きころに亡くなった」

 嘘ではない。

「供の大助とはどこで会ったのじゃ?」

「大坂である。ともに戦った間柄じゃ」

 これも嘘ではない。

「大坂方ならば仕官の口はあっただろうに・・」

「お城つとめがいやになったのじゃ。諸国を見てみたかったしな」

 事実である。

「では、どうして仕官する気になったのじゃ?」

「旅は7年におよんだ。そろそろ落ち着いてもいいかと思ったのだ」

 ということで、秀頼の調べが終わった。小頭は大助と食い違いがないので、疑うことはしなかった。変な奴とは思っていたが。


 三の丸の館に入った。男3人は小頭直属の門番役となった。加代は賄い担当である。賄いでは10人ほどのおなごが働いている。食事数を見ると、全体の人数が想定できる。

 数日、門番の仕事をしていて、城の内情が少しわかってきた。まずつとめが門番役と外回り役そして本丸勤めがあり、本丸勤めは城主の側近で護衛と外交をしているということだった。領地はないので、外回り役が旅人から通行税を巻き上げたり、近隣の村から年貢を徴収しているという。年貢というよりは、強奪である。加代の話では100人ほどの料理を作っているという。城全部の分ではないだろうが、少なくともそれだけの人数がいるということである。

 ある日、大助が小頭に質問した。

「小頭、城主の方はどんな方なのですか? それにいつ会えるのでしょうか?」

「城主か、すごい方だぞ。羽柴秀治公である。かの秀長公の血筋じゃ」

 秀長公には血筋はいないはずである。うそっぱちである。

「会うことはめったにない。だが、近い内に出陣があるやもしれぬ。さすればご尊顔を拝することはできるやもしれぬ」

「出陣? どこへ?」

「決まっておるだろ。奈良郡山城じゃ」

「筒井家ですか、強敵ではないですか」

「なーに、筒井家はがたがたじゃ。それに内応者がおる。城に入る手はずはできている」

 そうなったら大事(おおごと)だと思い、そのことを秀頼に話した。

「それはまずいな。大助、太一に連絡つくか」

「はっ、一の門の門番になった時に会えるかと」

「それではたのむぞ」

 数日後、大助は一の門にて太一と会うことができた。さすがに城内に潜入するのは太一であっても困難なようだ。

 だが、数日後、小頭が門番役を集めて

「城内に密偵がいるようだ。変な動きをしている者がいたら、即知らせよ」

 と檄をとばしている。どうやら疑われたのは外回り役で、一人ひとりじっくりと調べられたらしい。

 秀頼が大助に小声で話しかける。

「太一が大和郡山城に伝えたことがもれているようだな。太一が心配だが、しばらく会わぬ方がいいな」

「そうでございますな。こちらから呼ぶことは差し控えまする」

 情報がもれたことで、大和郡山城攻めは延期になったようだ。結局、冬を高取城で迎えることになってしまった。

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