第34話 秀頼 土佐に現る

空想時代小説

今までのあらすじ 

 天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。

 朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一と元山賊の春馬を伴って諸国巡見の旅にでた。越後からいっしょだったお糸は琉球で火事にあい、亡くなってしまった。徳川家光は後継ぎとして駿府にもどって、先年本多忠刻が亡くなったため、徳川家再興となり駿府藩の藩主となっている。


 秀頼ら一行は伊予の国から土佐の国へ入った。そのとたん、どんよりした雰囲気が村々にあることを感じた。崩れたままの家や、流浪の民がたむろしている。海沿いの村に行くと、その理由がわかった。村ごと流されているのだ。あばら家がたっているところもあるが、塩を含んだ土は畑には向かない。村を捨てるしかないのだ。

 秀頼ら一行は、声もだせずに領主長宗我部盛親がいる高知城に向かった。

 高知城も崩れている。いかに大きな地震だったかがわかる。

 盛親(48才)はすぐに会ってくれた。盛親は憔悴しきった顔をしている。

「秀頼公、まいりました。水も食料も人も何もかもが足りませぬ」

 と力なく言う。続けて、

「井戸を掘っても、しょっぱい水しかでず、畑も塩があるため作物は育たず、町や村から人がいなくなり、復興する人手が全く足りませぬ」

「うむ、それはここに来るまでに見てきた。土佐だけの問題ではないな。日の本みなの問題にせねばならぬな。諸侯に文を書くとするか」

「秀頼公に書いていただけるか。それはありがたい」

 ということで、3日かけて日の本全体の諸侯に文を書いた。すると反応は早く、隣の伊予にいた政宗は自ら兵を率いてやってきた。民百姓からは大歓迎である。政宗の行為は他の大名にも波及し、100人単位の救援隊がやってきた。まずやったのは、川の水を通す堀造りである。政宗は

「朝鮮の晋州城(チンジュソン)で堀造りをしたのを思い出すな」

 と気楽なことを言っている。秀頼も鍬をもって堀造りにいそしんだ。ひと月ほどかけて、堀に水が流れた時は大歓声があがった。

 復興が順調にすすんできたので、秀頼は諸国巡見の旅をまた始めることにした。政宗も船で仙台にもどるという。町や村を捨てた人たちもじょじょに戻ってきていることが大きな要因であった。

「盛親殿、我らはまた諸国巡見の旅にまいる。世話になったの」

「世話になったのはこちらでござる。秀頼公や政宗公が来られたからこそ、土佐は復興してまいりました。お二人が来られなければ、こんなに早くは復興できなかったでしょう」

「いやいや、我らの力は微々たるもの。大事なのは土佐の民のいごっそう精神であろう」

「男だけではござらん。土佐のおなごも強うござるぞ」

「そのようでござるな」

 という話をしながら和やかに別れた。ところが別れはこれだけではなかった。

 春馬が大助を伴って神妙な顔をして秀頼のところにやってきた。

「殿、春馬がおりいって話があるそうです」

「春馬がか、何事じゃ?」

「実は殿、お願いがありまする」

「願いとな? 何かほしいものがあるのか?」

「ものではござらん。実は、土佐に残りとうござる」

「残る? またどうして?」

 そこに大助が口をはさむ。

「実は、春馬は佐川という村で堀を造っていた時に、あるおなごと親しくなりました。堀造りをいっしょにしていて、心が通じたようです」

「春馬がおなごを好きになったか! これはいいことじゃ。もう28だしな。お相手のおなごはいくつじゃ?」

 春馬は恥ずかしがって答えられない。かわって大助が

「18だそうです」

 と答える。

「罪作りなことをしたな。てっきり年増のおなごかと思った」

「そんなー殿!」

「よいことではないか。我らの旅はさみしくなるが、土佐の復興にもつながる。大助、ご祝儀をはずまなければな」

「はっ、秀宗殿よりたんまり路銀をたくさんいただいておりますので大丈夫です」

「祝言の仲人はわれがいたそう」

 と秀頼が言うと

「おそれいります」

 と春馬は涙を浮かべながら頭を下げていた。


 数日後、佐川の村で春馬の祝言が催された。お相手の名前はお千代という。数人しかいない祝言だったが、心のこもったものだった。

 お千代は亡くなったお糸にどことなく似ていた。大助はお千代を見て少しうるっとしている。お糸のことを思い出していたのかもしれない。

 義慶が

「いいなー。拙僧も祝言をあげたくなってきた」

 と言うと、大助が

「生臭坊主はこれだから困る」

 と返す。だが、秀頼が

「義慶、いい相手がいればいつでもいいのだぞ。その時は還俗して名を変えればよい」

 と言うと、大助が

「相手がいればだがな・・」

 と言ったので、二人で追いかけっこをしていた。


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