第33話 秀頼 宇和島に現る

空想時代小説

今までのあらすじ 

 天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。

 朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一と元山賊の春馬を伴って諸国巡見の旅にでた。越後からいっしょだったお糸は琉球で火事にあい、亡くなってしまった。徳川家光は後継ぎとして駿府にもどって、先年本多忠刻が亡くなったため、徳川家再興となり駿府藩の藩主となっている。


 初夏の雨が多い中、秀頼ら一行は船で四国に渡り、伊予宇和島に来ている。四国が震源ということだが、伊予の国はさほど津波の影響を受けていない。波の向きが違うのではないかと地元の者は言っている。だが、崩れている家は多い。震源地に近いことには間違いない。

 城主の秀宗に会うために、城へ向かった。ところが、城には入れず、城下の旅籠で待たされることになった。大助は太一に城内の様子をさぐるように指示をする。

 翌日、太一がとんでもない知らせをもってきた。城主秀宗が家老の山鹿主水(やまがもんど)を成敗したというのである。秀宗は奥羽探題の政宗の長子である。しかし、母が側室なので嫡子ではない。大坂の陣の後、報償として分家創設が認められたのである。領地は10万石なので先年の諸侯会議にも参加している。

 秀頼は城に乗り込んだ。城主秀宗(32才)は、客間にあわてふためいてやってきた。

「秀頼公、もうしわけありませぬ」

「秀宗殿、なぜ謝っておられる? 何があったのじゃ?」

「はっ、家老の山鹿を成敗いたしました。山鹿は父政宗の近習だったことを鼻にかけて、何やかんや干渉してまいりました。藩政のことならまだしも私事にも口出しをするので、斬ったしだい」

「そうであったか。主人が家来を成敗するのは認められておるが、政宗公が何というやら・・・」

「父は激怒いたすであろう。山鹿をお目付役としてわれに付けたのは父であるからの」

「そうであろうな。あの気性の激しい政宗のこと、ただではすまぬであろうな」


 数日後、政宗から秀宗あてに書簡がきた。秀宗を勘当するとともに、京への召喚状である。諸侯会議を開催するので、そこで宇和島藩の存続を協議するということである。だが、諸侯会議は開催されなかった。二人以上の探題が召集をかけなければ成立しないのだが、政宗以外の探題が賛意を示さなかったからである。

 そこで、政宗(57才)は京から宇和島へやってきた。そうするようにすすめたのは、秀頼である。人づてに話を聞くのではなく、直接二人で話し合うことの重要性を秀頼は訴えたのである。それは父太閤秀吉と関白秀次がすれ違いで、しまいには秀次の自決ということになってしまったという苦い経験があるからである。

「秀頼公、こたびは息子秀宗のことでご迷惑をおかけ申した。申しわけない」

「政宗公、そんなことはござらん。諸国巡見の際に寄ったまでのこと、宇和島は地震の被害も少なく、秀宗殿の治世もなかなかのものでござる。ぜひ、じっくりと話し合ってみてくだされ」

 その後、政宗と秀宗の二人だけの会談が行われた。昼から夕刻まで続いた。

 夕餉の時刻になって、秀頼が呼ばれた。二人の表情はなごやかである。話し合いがうまくいったことを秀頼は感じ取った。

「秀頼公ご心配かけた。父政宗に事情を理解していただいた。お互いのわだかまりはこれでなくなったしだい」

「わしからも秀頼公に感謝申しあげる。秀頼公がご存じのとおり、秀宗は幼きころから秀吉公にお預けし、北の政所に育てていただいたのも同然。母、飯坂の局は近くにいたものの、秀宗は父母の愛情を感じぬまま成長し、大坂の陣に参陣した。だが、そこで功名をなしてもわしの後継ぎにはなれぬ。こうして宇和島に来させられたのは、左遷と同じと思っていたようだ。わしとしては褒美のつもりだったがな」

「父政宗に見放されたと思ったのじゃ。宇和島はあたたかくていいところだが、なにせ仙台からは遠い。それに忠宗が若年ながらも嫡子となり、仙台に帰れるのぞみがなくなったのが大きかった。忠宗が産まれるまでは、長子ということで、いろいろなところでちやほやされていたからな」

 それを聞いて秀頼もうなずき、

「その気持ちはよく分かる。われも大坂にいた時は、ちやほやされておったからな。おだてられたり、ほめられたりばかりされていると、人間だめになるんだと思う。時には厳しくしてもらうことも必要なのだ。それが親の愛かもしれぬ」

「秀頼公から親の愛という言葉を聞くとは思っておりませんでした」

 と政宗と秀宗はお互いに顔を見合った。

 まずは、親子げんかがおさまり、万々歳である。

 数日後、政宗らは土佐に向かって旅立った。土佐の方が地震の被害が大きいと聞いたからである。

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