第32話 秀頼 別府に現る

空想時代小説

今までのあらすじ 

 天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。

 朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一と元山賊の春馬を伴って諸国巡見の旅にでた。越後からいっしょだったお糸は琉球で火事にあい、亡くなってしまった。徳川家光は後継ぎとして駿府にもどって、先年本多忠刻が亡くなり、徳川家再興となった。


 秀頼らの諸国巡見は6年目となった。秀頼30才、大助23才、義慶25才、春馬28才、太一22才の春である。日向での離村問題を見届けたので、秀頼らは骨休めに豊後の国別府にやってきた。熱めの湯に最初はびっくりしたが、義慶は

「いい湯ですな。地獄といいますが、拙僧にとっては天国でござる」

 とご機嫌である。しかし、急に大きな露天風呂が波打った。まるで海である。秀頼・大助・春馬の3人はすぐに湯舟から出ることができたが、義慶は波に飲まれた。

湯舟の外にでても揺れている。地震だ。結構強い。揺れがおさまると義慶が湯の中から現れた。

「死ぬかと思うた」

 と、とぼけた顔であがってきた。大助が

「殿、どのくらいの被害がでたのか、心配でござるな」

「うむ、どこで地震が起きたのか。お山の噴火ではないようだが・・」

 ということで、府内の町へ行くことにした。


 府内は今の大分である。城主は竹中重慶(しげよし)28才。父秀吉の名参謀である竹中半兵衛の縁戚である。秀吉亡き後は徳川家についた旧徳川家臣で知行は3万石の小藩である。九州探題の加藤清正に逡巡したので本領安堵となっている。

 

 府内の町に着くと、町はいたるところで家が崩れている。番所に寄るが、だれもいない。各所で押し込み強盗や、空き巣が増えているらしい。人の弱みにつけこむ輩はどこにでもいるものだ。

 番所ではらちがあかないので、城に直接出向くことにした。城内も混乱のきわみで門番はおらず、すんなりと城内に入ることができた。大助が

「大丈夫でござろうか? これで治安が保たれておるとは思えませぬな」

「うむ、心配だな」

 と秀頼も厳しい顔をしている。

 館に入るところで、やっと門番に止められた。

「これ、どこへ行く。ここはお館さまの屋敷じゃ。入ることはならぬ」

 と言われたので、大助が

「この方は武家監察取締役木下秀頼公である。諸国巡見の途中でこちらにまいった次第。そこで地震にあい、その状況を確かめに参った。ご家老かお目付の方にお取次ぎいただきたい」

 と言うと、

「武家監察取締役木下秀頼? 聞いたことがないぞ。怪しいやつらだ」

 下っ端の侍にはまだこの役職と名は浸透していない。ましてや旧徳川家臣なので、秀頼の名は豊臣と言わなければ通じない。大助が怒り声で

「怪しいとは何事だ! 武家監察取締役は朝廷から任ぜられた役職。それに木下秀頼公の前の名前は豊臣秀頼。亡き関白秀吉公の後継ぎぞ!」

 と言うと、その門番は平伏し、

「早速、ご家老を呼んでまいります」

 とそそくさと奥に入っていった。

 まもなく家老の林大学がやってきた。

「これは、これは秀頼公、延岡の有馬殿からこちらへ向かっているとは聞いておりましたが、この大変な時に来られ、対応ができず申しわけありませぬ」

「大変なことは重々わかっておる。だが、町の中では強盗や空き巣が頻発しておる。これからどうするか知りたいのじゃ。何ならお手伝いするぞ」

「それはありがたい。人が足りなくて困っていたところ。お一人でも増えれば助かりもうす。それでは目付の後藤四郎を付けますので、見回りをお願いいたす」

 間もなく目付の後藤がやってきて、ともに町の見回りにでた。

「港の方の見回りにまいります。水がでているかもしれませぬ。お気をつけくだされ」

 府内城は海に面している。そこで海沿いに見回りをする。ところどころ海の高波をかぶったところがある。根こそぎ家がもっていかれたところもある。

「津波がきたのでござるな」

 と大助が言うと、後藤が

「どうやら四国の方が強かったようでござる。漁師の話では向こうの方が波が高かったとのこと」

「そうか、四国が震源か。ここでこれだけの被害だから、よほどひどいのであろうな」

 と言っておると、

「強盗だー!」

 と叫ぶ声が聞こえてきた。5人でその声の方に走る。すると、一人の町人が店先で倒れている。その先に3人組の男たちが走っている。

「あの3人組が強盗でござる。つかまえてくだされ」

 5人で3人の強盗を追う。ところが商家が立ち並ぶところで、3人の強盗は分かれて逃げ始めた。そこで秀頼は後藤と行くことにし、義慶と春馬が組み、

「大助、太一とともに行け!」

 とどこかにいる太一に聞こえるように伝えた。

 後藤は足が速い。秀頼も決して遅いわけではないが、体格がいいので速いというわけではない。だんだん後藤に引き離される。盗賊が右に曲がる。

「秀頼殿、このまま追ってくだされ。拙者は先回りいたす」

 さすが地元の利。道を知っている。しばし盗賊を追うと、急に足を止めた。その先に後藤がいたからである。盗賊は二人を見比べている。そして、反転して秀頼におそいかかってきた。秀頼には勝てると思ったのかもしれない。刀をめちゃくちゃに振り回しておそいかかってくる。しかし、秀頼はひるまない。懐から袋をだし、盗賊に投げつけた。目くらましのとうがらしが入っている。こういう時もあろうかと、大助が用意してくれたものだ。盗賊はたまらず顔を手でおおっている。そこに後藤がとびかかり、おさえつけた。捕縛は慣れているようで、すぐに縄で縛りあげている。

「見事な手さばきでござるな」

 と秀頼がほめると、

「これが拙者の職務でござる。時には斬ることもござる。秀頼殿は人を斬ったことがござるか」

「一人だけ斬ったことがある」

 秀頼は因幡の月山富田城で斬った次郎介を思い出していた。いた仕方ないことだったが、人の命をあやめたことには変わらない。

「そうでござるか。大将が刀を握ったら負けと同じでござるぞ。ですが、これからの世、家臣が守ってくれるとは限りませぬ。己れの身を守る技量は身につけておられた方がよいと思われますぞ」

「たしかにな。その言葉、肝に命じておく」

 

 城にもどると、あとの2人の盗賊も捕縛されていた。太一が手裏剣で足を止めて大助が捕縛し、義慶と春馬は行き止まりの道に追い込み、二人でぼこぼこにしたそうである。家老の林大学だけでなく、城主の竹中重慶からも厚い歓待を受けた。しかし、気になるのは四国のことである。秀頼らは林大学に四国に渡る船を探してもらうことにした。

 






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