第27話 秀頼 薩摩・奄美に現る

空想時代小説

今までのあらすじ 

 天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。

 朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一と元山賊の春馬を伴って諸国巡見の旅にでた。越後からは身請けをしたお糸もいっしょで、駿府からは徳川家光も同行している。


 秋が深まったころ、鹿児島に秀頼らはいた。まずは城主島津家久に会いに行った。鶴島城は平城である。治世に山城は不要ということで、山のふもとに城を構えている。天守閣はなく、館だけである。

「さすが、島津公。無駄なものを避けている。薩摩の繁栄はこの質素倹約があるからであろうな」

「質実剛健ともいえますな」

 大助がうなずいた。家光にしてみれば関ヶ原での島津義弘の「島津の退き口」を見せつけられた話を家臣から聞いているので、その息子である家光は旧敵なのであるが、秀頼とともに旅をして、そういう遺恨の念はだんだん少なくなっていた。

 家久は45才の壮年の大名である。朝鮮出兵にも参陣した武闘派大名の一人である。家臣に対する仕置きは厳しく、家久の代になって脱藩した藩士が50名いたと言われている。

「秀頼公、ようこそ鹿児島へいらした。今日は桜島がおとなしくしておるので、のどはいたくなくてよろしいな」

「そんなに噴煙がきつい時もあるのですか?」

 と秀頼が聞く。

「そうでござる。家臣だけでなく、民百姓も朝のはき掃除は日課でござる。一日でも怠ると庭先は真っ白でござるぞ」

「そういえば旅籠の方々も朝、はき掃除にいそしんでおった」

「鹿児島の敵はもっか桜島だけでござる」

「そうでもないと聞きました。最近、奄美に異国の軍船が来ているとのこと。まことでござるか」

「うむ、そのことか。実は明日、藩の戦船(いくさぶね)を出す予定でござる。異国の軍船はまだ大砲を撃っておらんが、今後どうなるかわからん。警戒はせねばならんな」

「それで願いがあるのだが、明日出る戦船に乗せてもらえぬか」

「それはまたなぜ?」

「諸国をめぐって、争乱の種を少しずつつんできた。今回も奄美でその種をつんでおこうと思う」

「さすが武家監察取締役、ですが異国相手ではその肩書きは通じませぬぞ」

「だろうな。だが、見てみないことには何をすべきかわからん」

「わかり申した。ですが、客として乗せるわけにはいきませぬ。配下の方には船の役務をつとめていただくことになりますが、よろしいか」

「われもできることはするつもりじゃ」


 ということで、秀頼らは薩摩の戦船に乗ることができた。大型の帆船である。秀頼と大助は操船補助。家光と太一は見張り。春馬と義慶は甲板員で、主に甲板の清掃である。お糸は賄いの仕事に回された。

 丸一日で奄美の名瀬についた。もうじき冬だというのにあたたかい。さすが南国である。北国育ちのお糸は、夏の暑さみたいだと言っている。

 代官所に行き、異国の軍船の話を聞く。すると、先日もポルトガルの軍船がやってきて、水と食料を調達していったという。どこへ行くかはわからぬということだが、漁師の話では琉球か朝鮮に行っているようだ。ということだった。

「軍船におそわれたことはないのか?」

 と大助が聞くと、代官が

「以前はありました。ですが、水と食料を与えればおとなしく去っていくのがわかったので、それからは来ると何もなしに水と食料を渡しております。なにがしかの礼もおいていきますので、特に問題はありませぬ」

 と応える。熊本で聞いた話とはだいぶ違う。人の話というのはおそろしいものだ。小さいことが大きくなってしまう。

 

 奄美の生活はゆったりしたものだった。冬でも食べる物には困らない。夜も寒さに震えることはない。お糸は

「天国みたいなところですね」

 と言っていた。越後の雪国から比べればまさに天国である。

 ところがある日、代官が

「秀頼様、琉球に異国の軍船が現れ、戦になったとのことです。鹿児島から琉球に助けに行けという指令がきましたが、いっしょに行かれますか?」

 という話をもってきたので、秀頼らは琉球に向かうことにした。

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