第12話 秀頼 松本に現る

空想時代小説

今までのあらすじ

 天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。

 朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一と元山賊の春馬を伴って諸国巡見の旅にでた。越後からは身請けをしたお糸もいっしょである。


 松本に秀頼らが現れた。松代の海野から連絡が来ており、城下のはずれまで、真田信繁みずからが迎えにでていた。50才を過ぎても意気軒高である。

「秀頼公、よくぞ参られた」

「うむ、信繁殿も息災で何より」 

 とお互いにあいさつをかわした。大助は、無言で父信繁と相対している。2年ぶりの再会である。

 松本城本丸館に案内された。大助はそこで涙目の母と会うことができた。大助までうるっときている。

 まずは、湯に案内され、身を清める。その後、夕餉の支度がされている。上の間には秀頼と信繁が座り、下の間には大助・義慶・春馬そして太一やお糸もいる。

 宴がお開き近くになり、秀頼が口を開いた。

「信繁殿、今回我らがここに来たのは、松代のことでござる」

「海野から聞いております。海津城復興の話ですな」

「うむ、海津城を直す必要が今の時代にあるのか? という話じゃ」

「海野らは復興に反対しております。きっとその話をふきこまれたのでしょう」

「信繁殿は知っておったのか?」

「知っていたも何も・・海津城復興は北信濃の抑えに要所でござる。あれができなければ、善空寺の僧兵どもが悪さを始めます」

「善空寺の僧兵?」

「実は、あの善空寺はふたつの勢力があり、最近仲たがいをしております」

「坊主どもが争っているのか?」

「善空寺は別格でござる。北信濃に合わせて2万石ほどの領地をもっております。すべて1000石ほどの飛び地なのですが、その奪い合いをしておるのでござる。寄進された領地も多いのでござる」

「そうか、それだけ深刻か?」

「家老の海野は上田の出ゆえ、北信濃に行きたくないのでござる。かと言って、別の者をたてるわけにはいかず、しばしの時を与えている次第」

「海野殿は藩札がうまくさばけない。と申しておったぞ」

「それは、善空寺の横やりでござる。松本で藩札を発行すればそれなりにさばけるはずなのですが、海野は松代でさばこうとしたのです」

「そうか、海野殿の意地もあるのだろうな」


 翌日、海野が松本にやってきた。松代でのばけ者騒ぎのことが殿にばれたと思い、かしこまっている。信繁が、口を開いた。

「為親、ご苦労である。秀頼公がお主のことをほめておられたぞ」

 海野はてっきり叱られると思っていたのに、お褒めの言葉から始まり、意外な顔をしている。

「藩札がさばけなくて、苦労しているそうだな」

「はっ、おそれいるまする」

「そこで、松本でも藩札をだしてな。商人どもが買い取ってくれた。五千両ほどあるので、それを使って海津城を直せ」

「殿がご用立てしてくださったのですか。ありがたき幸せ」

「無理難題をおしつけたわしが悪いのじゃ。用立てたのは勘定方の尾形六郎衛門じゃ。あとで挨拶をしておけよ」

「はっ、わかり申した」

 と言って、下がっていった。

 信繁は、秀頼に

「これでよろしいか? 武家監察取締役殿」

「その役名で言われたのは初めてじゃ。まるで、わしがさせたみたいではないか」

「もうしわけござらん。しかし、目が言っておりました」

「うむ、そうか。目は口ほどに物を言うというからの。ところで、大助はどこじゃ?」

「大助は奥におりまする。何か相談があるとか・・ところで、秀頼殿、これからどうされる?」

「うむ、駿河が気になるので行ってみようと思う」

「徳川の旧領でござるな。今は本多家が統治しておりまする」

「うむ、真田信幸殿の縁戚であるからな。そこに徳川の旧家臣が集まっている。その者たちが今どんなことを思っているか知りたいのじゃ」

「さすが、武家監察取締役」


 大助は奥の部屋で母と向かっていた。

「母じゃ、ひとつお願いがござる」

「わかっておる。あのおなごのことじゃろ」

「そうでござる。お糸と申すのですが、身寄りがおりませぬゆえ、母じゃが面倒を見ていただけぬかと」

「それはかまわんが、将来はどうするつもりじゃ?」

「将来というと・・?」

「お主が松本にもどってきたからじゃ。あと何年たつかわからぬが、父とていつまでもいるわけではない。その時に、お糸をどうするのじゃということだ」

「そんな先のことは・・・まだ考えておりませぬ。しかるべき相手がいれば嫁がせればいいのでは・・?」

「なんじゃ、そばにおきたかったのではないのか・・?」

「そばにおく・・なんて」

 大助は顔を赤くしている。

「お糸がなんと言うかな。お糸が大助のおなごでないとなれば、お糸自身が決めることではござらぬか?」

「そうでござるが・・・」

「これ、お糸をよんでまいれ」

 お付きの者が、お糸をよびにいった。

「おなごは好いた人といっしょにいられるだけでいいのだぞ。子ができれば話はべつだがな」

 大助は母が何を言いたいのか、よくわからなかった。

 しばらくして、お糸がやってきた。

「お糸、大助はそなたをここにおきたいと言っておるが、どうされるか?」

「わたしをここにですか? それはご遠慮申し上げます。わたしは諸国をめぐって歩きたいのです。それも大助さまのお供をして・・・」

「大助、お糸はそう言っておるぞ。それでも、お糸をここにおくか」

「大助さまのお供ができぬのならば、一人で諸国をめぐります」

「そんな・・無茶な」

 と大助が言うと、母が

「それなら大助が面倒を見るしかないだろ。決まりだ。お糸、気のきかぬ大助を助けて、秀頼公の世話を頼むぞ」

 ということで、お糸は大助らとともに旅をすることに決まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る