第6話 秀頼 平泉に現る

空想時代小説

今までのあらすじ

 天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。

 朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一を伴って諸国巡見の旅にでた。


 サクラの咲くころ、秀頼らは平泉にいた。本来は仙台領だったのだが、南部家が仙台藩に帰属するということで、領地交換をしたので南部領となった。その分、仙台藩は海沿いの領地を手にいれていた。南部藩は山を越えての領地経営より平地続きの領地を歓迎していた。

 中尊寺は黄金に輝いてはいなかった。年月が経ち、だいぶ色あせている。仙台藩が手放したのもうなずけるぐらいの荒廃だ。南部藩も日が浅いので、復興にお金をかける余裕がないのであろう。庭園で有名な毛越寺もそうだった。雑草が生い茂っており、荒れ寺に近かった。村外れにある義経堂にも足を伸ばした。義経がここで焼死したと言われている。お堂は復元はされているが、手入れされているとは言いがたい。そこで手を合わせていると、義慶が口を開いた。

「拙僧の名は義経公からいただいたもの。実は、義経公は生き延びて修験者になったという話が我々の中にある。もしかしたら、拙僧の祖先かもしれぬ」

「義慶が源義経公の子孫?」

 秀頼と大助は思わず吹き出してしまった。

「かもしれぬ。ということじゃ。だれも信じてはおらぬ」

「であろうな」

 二人は笑いをこらえながら反応を示した。

 その夜は村外れの百姓家に泊まった。そこで、その主人に平泉の荒廃ぶりを尋ねてみた。

「ご主人、平泉は黄金の町と言われていたが、本日見た平泉はほど遠いものだった。これはどうしてかな?」

「それは野盗のせいでござる。年に一度やってきて、米や金目のものをかっさらっていくのです。ひどい時には、おなごも連れていかれまする」

「それはひどいな。役人は何をしておるのだ?」

「お役人は数が少ないし、1年で盛岡にもどっていきまする。仙台藩のときもそうでござった。任期が無事終わればいいと思っているのでござる」

「情けない話だ。何とかせねばならぬな」

 その日の話はそれで終わった。


 翌日、村の長の伊兵衛が秀頼を訪ねてきた。

「お武家さま、村を救ってくだされ。毎年のように野盗に襲われ、村はひん死の状態でござる。村の若い衆も立ち上がりまする。ぜひ、力をお貸しくだされ」

 その話を受けて、秀頼らは村の者たちと会うことにした。

 夕刻、伊兵衛の家に行くと、村の者たちが集まっていた。その数20人。それぞれに鍬や竹槍といった武器をもっている。

「お武家さま、これだけの者が集まっております。ぜひご差配を」

「うむ、それで野盗は何人ぐらいいるのじゃ?」

 その問いに、一人の若者が応えた。

「少なくとも50人かと」

「我らの倍はいるということか、力攻めはできぬな。野盗の棲み処はわかっているのか」

「それは木こりの辰三が存じております」

「辰三は?」

「今日は来ておりませぬ。山に入っており、話が伝わりませんでした」

「そうか、無理もないことだ。村からどのくらい離れているのだ?」

「辰三の話では丸一日ということです。衣川の源流に近いところとのことでござる」

「そうか、今度、そこを見にいかねばばらぬな。それまで決起は待て。それにこの人数では足りぬ。大助、あと3人武士を集めてくれぬか。腕のたつやつをな。義慶は、明日から教練じゃ。若い衆に竹槍の使い方を教えてくれ」

「任せておけ」

 と力の入った義慶の声でその日は終わった。


 翌日から義慶の教練が始まった。わら人形をたてての竹槍突きの練習である。何人かは「さすまた」を作っている。竹槍1本では、相手にかわされたり、竹を刀で斬られたら意味がない。基本は4人1組で、2人がさすまたで相手をおさえ、後の2人が竹槍で刺す。もしくは、さすまたではなく、網を使って相手を拘束し、そこを竹槍で突くというのも練習している。どちらにしても少数の相手を想定している。大人数ならば、この戦法は使えない。そこは秀頼の差配にかかっている。

 大助は、まず番所に行った。しかし、役人は勝ち目がないとまるでやる気がない。任期を終えて、盛岡に無事帰ることだけを考えているのだ。盛岡に応援要請を依頼してはと申し出たが、馬で1日かかる。仮に応援部隊がきたとしても日がかかると、まるでやる気がない。

 そこで、大助は旅籠に行き、旅姿の武士に声をかけた。しかし、だれものってこなかった。高い報酬が期待できないし、泰平の世の中になり、野盗と戦おうという気概のある武士がいないのである。大助はふてくされて旅籠で大の字になって横になっていた。そこに、人の気配を感じた。太一だ。

「大助殿、人を見つけました」

「久しいの太一。人を見つけたとは?」

「野盗退治の人でござるよ」

「武士か?」

「いや、獣撃ちの狩人じゃ。種子島と弓が使える。3人はいるぞ」

「ここにいるのか?」

「いや、西風山というところにいる。ただ報酬がいる」

「報酬はわずかだがだせる。明日、そこへ連れていってくれ」

「わかり申した」

 その日はそれで終わった。


 翌日、大助は太一とともに西風山へ向かった。険しい山道を上り、狩人小屋にたどりついた。そこに権蔵と泰蔵の兄弟とその従弟の源蔵がいた。

「真田大助である。武家監察取締役木下秀頼公の配下である。本日は、秀頼公の命で野盗退治の腕のたつ者をさがしておる。太一から、その方たちの腕がたつことを知らされ、ここに参った。どうか助力してはいただけぬか?」

 とあいさつをすると、年長の権蔵が口を開いた。

「その太一とやらは、お武家の家来だったか。突然現れて変なやつとは思っていたのだが・・あの野盗どもには我らも困っている。我らが仕留めた獣を横取りすることもある。お主らが退治するというのであれば、助けぬわけではないが、ただというわけにはいかぬ」

「それは、わかっておる」

と言って、大助は銀を3粒だした。

「これは前金だ。退治したらこの倍をだそう」

銀9粒は、宿代9日分だ。今の時代でいうと、30万円ぐらいだろうか。

「よかろう。だが死んでも家族にその銀を渡してくれるか。源蔵には幼い子もいるでな」

「わかった。その前にお主らの腕を見せてもらえないか。信用しないわけではないが、秀頼公に会わせる前に自分の目で確かめておきたいのじゃ」

「無理もないことじゃ。それでは山を下りながら獣を仕留めよう」

 5人で山を下りて、途中でウサギを2羽、鳥を1羽仕留めた。弓で一発必殺である。種子島は大きい獣をねらう時に使うということで、今回はなかった。でも、弓の達人であることはわかった。大助にとっては充分だった。その日は権蔵の家に泊まり、翌日、5人で秀頼のところに向かった。


 翌日、5人が秀頼のところにに出向くと、村の長の伊兵衛がとんでもない情報をもってきた。

「辰三から知らせがきて、野盗どもがどこかの村をおそう気配があるとのこと。もしかしたら番所の役人から野盗退治の情報がいったのかもしれませぬ」

「くされ役人か。どこにもいるな。秀頼公、早めに行動せねばなりませぬな」

「うむ、早速、今夜にでも棲み処へ行ってみるか」

 権蔵たちが棲み処を知っているということで、夕刻6人が村を出た。

 未明に棲み処が見えるところに着いた。

「あそこでござる」

「うむ、まるで要塞だな」

「馬小屋は裏手にござる。馬を逃がせば、野盗の足をなくすことができまする。ただ、我らは馬に乗れませぬ。お武家さまなら、馬に乗れますよな」

と権蔵が言ったが、秀頼と大助は馬が得意ではなかった。乗って歩くぐらいはしたことはあるが、走らせたことはない。というかその必要がなかったし、母淀君が危ないことをさせなかったからである。そこに太一が口を開いた。

「わしが馬をひきだしましょうぞ。上田の庄でかけめぐっておりましたゆえ」

「それでは、我らが棲み処に火矢をかけようぞ。その間に太一殿が馬をひきだしてくだされ」

 と権蔵たちは、矢がとどくところまで移動を始めた。秀頼ら3人は、馬小屋に行き、火矢がとぶのを待った。もうじき夜があけるという時、火矢が棲み処にとんだ。かやぶきの屋根に火がつく。野盗どもが騒ぎ始めた。馬小屋の見張りも棲み処に走りだした。そこで、大助が馬小屋の門を壊す。そこに太一が乗った馬が疾走していく。馬小屋の奥では秀頼自らが、木の枝で馬の尻をたたいている。見事な連携だ。そこに野盗どもが馬を止めようとしてやってくる。しかし、そこに権蔵たちの矢がとんでくる。野盗どものねらいはそちらに向かったので、秀頼と大助は難なく逃げることができた。

 秀頼らは権蔵の家にやっかいになった。だされた茶漬けがうまい。大助は村へ行き、義慶ら村人たちを連れてくることになった。

 翌日、20人の村人と秀頼ら7人の助っ人が野盗の棲み処に向かった。ねらいは川沿いの狭い道に敵を誘い込むことである。大勢を相手にしたのでは勝ち目はない。少数の相手をおびきだし、それを村人たちの竹槍部隊で仕留める作戦だ。要は、どうやって野盗どもを少数ずつおびき出すかだ。

 まずは、権蔵らが火矢でしかける。そこに大助と太一が攻め込む。野盗どもは敵が少ないと見て、少数でおいかけてくる。でてきたのは10人ほどだ。二人が逃げる。10人が追いかける。狭い道まで来た時に、後方の5人のところに秀頼と源蔵の矢がとぶ。そこに、大きな石が転がってくる。後方の5人は足が止まった。けがをして倒れている者もいる。前の5人は大助と太一をしつようにおいかける。そこに網がかけられる。3人がその網にかかる。そこに12人の村人が竹槍でおそいかかる。網にかからなかった2人は逃げ出した。そこに義慶の合図で、8人の村人が4人ずつに分かれ、さすまたで倒す。そこに竹槍を突き刺す。野盗はうめき声をあげて倒れた。後方の5人も倒すことができた。これで10人。残り40人。

 野盗側も10人がもどってこなかったので、警戒し始めた。門を閉じ、弓矢で守りを固めている。そこに、大助がでていき、大声で叫んだ。

「我らは、武家監察取締役木下秀頼公の配下である。ここで降参し、人質のおなごどもを解放すれば、お主らの罪は問わぬ。秀頼公が面倒を見ると言っておる」

 すると首領らしき男が

「ちゃんちゃらおかしいわ。木村なんだかは知らぬが、たかが10人ぐらいだろ。いつでも攻めてこい。たたきのめしてやるわ」

 そこに、バーンという音とともに権蔵の種子島が火を噴いた。ドシン! 首領らしき男がもんどり倒れた。野盗どもの中で混乱が起きている。しばらくすると、門があき、馬に乗った男たちが3人とびだしてきた。そこに後ろから矢がとんできて、3人は馬からもんどり落ちた。残り37人。大助が続けて叫ぶ。

「どうした? 仲間割れか? あと四半刻(しはんとき・30分ほど)の余裕を与える。その間に武器を捨てて出てくれば、降参と認める!」

 それに対し、何も反応はなかった。頭領がいなくなったので、統制がとれなくなったのだろう。もうすぐ四半刻というところで、棲み処の中で争いが始まっていた。仲間割れなのだろう。太一が忍び込んできて、状況を見てきた。

「二手に分かれて斬り合いをしております」

「やはりな。しばらく待つか」

 ということで、四半刻を過ぎて、半刻(はんとき・1時間ほど)たって、門があき、20人ほどが武器を捨ててでてきた。大助と義慶が武器を隠し持っていないかを確かめ、秀頼の前へ連れていく。

「この方が、武家監察取締役木下秀頼公である」

野盗の面々は膝をついた。

「よくぞ。降参してくれた。これで我らも戦わずに済んだ。お主らの命は預かった。だが、番所の役人が通じておるだろ。その者の顔はわかるか?」

 一人の男が頭を下げ、

「わかり申す。金の無心にくる気にくわぬ輩でござる」

「その者だけは許すわけにはいかぬ。後でその者を教えよ」

「心得た。しかし、その前に倒れた者の墓を作らせてくだされ」

「当然の申し出じゃ。わが配下にも手伝わそうぞ」

 ということで、墓づくりが始まった。

 翌日、村へもどった秀頼らは番所でくされ役人をとらえ、盛岡に向かった。歩けば3日の道のりである。縄でつながれているのはくされ役人だけで、20人の野盗は刀をもち、まるで秀頼の配下となっている。権蔵らはまた山にもどった。約束の銀子をもらい、山が平和になったと喜んでいた。伊兵衛ら村人も同様である。

 大助と義慶は(秀頼公は、まるで野盗の頭領でござるな)と思っていた。風体がかぶき者なので、そう見えなくもない。馬が手に入ったので、秀頼は馬に乗っているが、「けつがいたい」と言って、歩くことも多かった。

 平泉での仕事、これにて任務終了



 


 

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