12-13.両方同時にやった方が理解も早い
「え……? 冗談ですよね? こ、こんな……この世の終わりのような激痛に、赤子が耐えることができるのですか?」
フィリアの問いに、ギンフウは「おまえはバカか」という呟きが漏れる。
「さっきも言ったはずだが、この量はオレとおまえだからできることだ。赤子でこれをやると間違いなく死ぬからな。この先、おまえに子ができたとしても、絶対にこの量でやるなよ。本当に死ぬぞ」
「わ…………わかりました」
「赤子とは、もっと微量な……あるかないかわからない程度、赤子が泣きださない程度の魔力を、二、三年かけて、ゆっくりと、じわじわと辛抱強く行うものだ」
「…………」
黙ってしまったフィリアを、ギンフウは怪訝そうな目で見つめる。
「なにかすごく言いたそうな顔だな?」
「いえ。二、三年かけて、ゆっくりと……なんですね」
「ああそうだ。ゆっくりと、優しくな」
「えっと。ぼくには……容赦ないですよね。優しさの欠片もないように思えるのですが? 気のせいですか?」
「効率重視だ。おまえは急いで覚える必要があるからな。死なないラインはちゃんと見極めているから、そこは安心しろ。まあ、予想していた以上に覚えが早いのが残念ではあるが」
「それはどういう……」
「そんな些細なことはどうでもよい」
「いえ、決して、些細ではないと思うのですが……」
ギンフウに睨まれ、フィリアは口を閉じる。
「おまえとセイランがやったのは、魔力交換だ。くっついて爆睡だけで……まあ、手段と程度はどうであれ、やったことは、ただの魔力交換だ」
「え? エルトとも魔力交換? この世の破滅みたいな耐えがたい激痛はなかったのですが?」
「致死量ならないギリギリの魔力を一気に交換したわけじゃないからな」
男の言葉にフィリアは沈黙する。
魔力暴走で死ぬ前に、ギンフウに殺されるのではないだろうか。
「……で、これからするのが、魔力を馴染ませる方法だ」
「魔力を馴染ませる?」
「ああ。相手に己の魔力を与え、それを自分の魔力として、相手に定着させる。あるいは、相手から魔力を受け取って、それを自分の魔力として受け入れる。魔力譲渡ともいえるかもな?」
「…………?」
フィリアにはふたつの違いが理解できなかったが、それは、ギンフウに言わせたら『身体で感じろ』ということだろう。
「ただ、おまえの場合、体内の魔力のめぐりが非効率的だ。循環せずに、あちこちで滞っている。自覚症状はあるか?」
ここと、ここと、ここ……という具合に、身体のあちこちを指さされる。
「いえ。わかりません」
「……自業自得だな」
ギンフウは目を眇め、しばし考え込む。
もったいないことだと嘆きたくなった。
フィリアがこのような状態になってしまったのは、魔法の根幹部分を教えてもらえる師をもたずして、独学で魔法を使い続けてきたからだ。
ランフウがルースギルド長として冒険者ギルドに潜り込んでいなければ、見落とされていた存在だ。
平民でもたまに魔力能力値の高い子どもが産まれる。
しかし、ほとんどの者が己の能力に気づかずに一生を終えるか、魔力が暴走して早世している。
それは人材の損失でもあった。
能力のある者を見つけ出し、教育する制度を整える必要があることは随分と昔から論議されていたが、貴族たちの反対と妨害で、未だに実現されることはなかった。
今までその必要がなかったから放置されていたのだが、『エレッツハイム城の悪夢』によって多くの人材が失われた今であるならば、強引に推し進めることも可能かもしれない。
フィリアのような者は、気づかれないだけで他にもいるだろう。
ギンフウ自身がこの問題について保留の姿勢でいたのだが、フィリアを見ていて考えが変わる。
休憩をはさみ、ようやくフィリアの呼吸が落ち着いてきたようだ。
次の指導に移ってもよい頃合いだろう。
「先に魔力の循環を覚えさせて……いや、面倒だ。強引にはなるが、両方同時にやった方が理解も早い」
「え? ど、同時!」
「怖がることはない。おまえを傷つけるような下手はしない。おまえは心を空っぽにしろ。なにも考えるな。不安になるな。心を研ぎ澄ませ、感じたままに受け入れろ」
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