10-7.すごく嫌な予感がするが、マックロだな

「ご心配なく。登録用紙にはまだ余裕があります。単に、わたしの解析能力が限界に達しただけです。わたし程度に魔法に長け、魔力能力値が高い者が登録用紙を閲覧すれば、結果は違ってくると思われます」

「初日でそこまでに達したのか……」


 これは予想外だった。

 ギンフウの呟きにランフウは「そのようです」と頷く。

 

「……魔法に長けた副ギルド長が任命されない限り、子どもたちのステータスの把握はこの先、無理なのか」

「はい。わたしよりも魔法に長け、魔力能力値が高い者を副ギルド長にしない限り、三人のステータスの正確な把握は難しいでしょう」

「面倒なことになったなぁ」


 ランフウがなにを言いたいのかは、わかっていた。

 五年前に【鑑定】魔法に精通した団員を失ったのは大きい。

 だが、ギンフウはあえてその言葉を聞き流す。


 精霊の祝福は様々な効果をもたらすが、そのなかに、魔物を倒したときの経験値取得が倍になる……といった類のものがある。


 どうやら、それをちびっ子たちは授かったようだ。

 黒塗りだらけの書類を見比べると、そのような記述が読み取れた。


 普通なら喜ぶべきギフトなのだろうが、もともと、年齢以上のステータスが備わり、能力が暴走しがちなちびっ子たちには、この祝福がどう作用するかわからない。


 力ばかりが成長し、心と精神の成長が伴わなかった者たちの暴走を、ギンフウたちは今までたくさんみてきた。

 子どもたちの成長はあまりにもいびつすぎる。


 大樹の精霊様の祝福が一過性のものなのか、この先、ずっと続くものなのか……それは、実際にちびっ子たちを視てみないとわからないだろう。


 ギンフウはこめかみを押さえる。

 冒険者登録を終えても、まっすぐココには戻って来ないだろうとは思っていた。

 少しの寄り道は、子どもたちのよき経験となり、成長にもなるだろう。


 ……という親心だったのだが、まさか、帝都を飛び出して、大樹の精霊様と面会し、ゴブリン王国を滅ぼしてくるとは、ギンフウも予想していなかった展開だ。


 能力値やレベル、スキルなど、全く気にならないといったら嘘になるが、最も気になる部分は職業を示す記述部分である。


「職業欄に……備考が出現したのか?」

「はい。三人とも出現しました」

「すごく嫌な予感がするが、マックロだな。全く読めない」

「はい。マックロです。全くわかりません」

「面倒なことになったなぁ……」


 ギンフウが手にしていた書類をバサバサと揺らす。

 書類が「ボッツ」という音をたてて、青白い炎をあげて燃えはじめる。

 子どもたちのステータスを書き写した紙は一瞬で灰になり、その灰も消えてなくなってしまう。


「とんだグリーンクエストだったな」


 淡々としたギンフウの反応に、ランフウの怒りがついに爆発する。


「ギンフウ! 先ほども申しましたが、まだ問題は片付いていません。現在進行形です! 明日からの残務処理をどうしてくれるのですか! 絶対、帝国も介入してきますよ!」

「わかっている。できうる限りは協力する」

「なんですか? その消極的な返事は! もっと積極的に協力していただかないと困ります!」

「……いつになくご機嫌斜めだな」


 ギンフウの整った口元がわずかに歪み、感情的になっている部下を揶揄するかのような眼差しで、ランフウを見つめる。


「機嫌も悪くなりますよ。わたしは『まだ冒険者登録は早い』と猛反対しましたよね? 今回の件で、わたしが何回、死にかけ……いえ、気絶したと思っているのですか?」


「そう怒るな。この埋め合わせはちゃんとする……」

「う、埋め合わせ……ではなく、ご……ご褒美を頂きたいで……す」


 緊張のあまり舌を噛んでしまった。

 笑われる、と思ったが、ギンフウは笑わなかった。


 ギンフウは眉一つ動かさずに、真顔で「回復薬が欲しいのか?」とランフウに質問する。


「回復薬は……経費で申請するので、間に合っています」

「銀鈴蘭じゃないのか……」


 ギンフウの呟きに、その件もあったか、とランフウは内心焦るが、ギンフウを相手に前言を撤回することはできない。

 ランフウは何食わぬ顔をして、ギンフウの隣に座りつづける。

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