10-5.今日はまだ終わってない
『影』として生きる自分たちは、平気で嘘をつく。
存在自体が嘘からできているのだから、真実ははるか昔に、嘘の中に埋もれてみえなくなっている。
ランフウにしてみれば、子どもたちが惑わしの森へ向かったのも、本当に偶然のことなのか、というところから追求したい。
しかし、ランフウがいくらがんばって問い詰めたとしても、リョクランにはのらりくらりと誤魔化されるオチが見えている。
「そうそう。銀鈴蘭をこちらにまわしてくれてありがとうございます」
話題を変えたかったのか、銀鈴蘭が手に入ったことがよほど嬉しかったのか、リョクランがにっこりと微笑む。
久々に見るリョクランの笑顔に、ランフウの心に温かなものが広がった。
ランフウは「こんなにリョクランが喜んでくれたのなら、この結果も悪くはなかったのかも」と思い始める。
貴重なリョクランの笑顔を拝めた後なら、面倒な後始末も頑張れそうだ。
……と、思ってしまう。
上位席次には絶対服従、絶対従順を叩きこまれた。このリョクランを慕う感情も、本物なのか偽りのものなのか、ランフウ自身にはわからない。
嘘の応酬で自分たちは生きている。
「薬草の使い道に注文をするつもりはないが……。できれば、銀鈴蘭は、あいつらのために使ってやれないかな?」
ランフウの申し出に、リョクランはグラスを磨く手を止め、しばし考え込む。
銀鈴蘭は、採取に成功したなら、皇帝に献上するべきもの……であるくらいの高価で貴重な代物だ。
なので、本来であれば、自分たちごときが、銀鈴蘭を使用して何を作り、誰がそれを使うのかは、勝手に決められない。
だが、ランフウの気持ちもわからなくもない。
あの、小さな問題児たちを愛おしく思い、成長する姿に救われているのは、ランフウだけではない。リョクランも同じである。
子どもたちの功績には、きちんと向き合うべきだ。
銀鈴蘭は上位精霊から直々に、子どもたちに贈られたものだ。上位精霊の意図を蔑ろにするのもそれはそれで問題がある。
「……その件については、ギンフウが決めることですが、わたしの方からも口添えしておきましょう」
あまり期待しないように、と付け加えるのをリョクランは忘れない。
ギンフウがうまくたちまわっているので、現在は帝国との関係も比較的落ち着いている。
銀鈴蘭の使い道で、帝国と敵対するのはギンフウも望まないだろう。
選び間違ってはいけない。
お願いします。とひとつ頷いてから、ランフウは空になったティーカップを皿の上に戻した。
「いってらっしゃい。ギンフウとの面会を許可します。今日は色々あって疲れているでしょうけど、今日はまだ終わってない。油断しちゃだめよ」
コクランの煙管が、二階へと続く階段を指し示した。
ランフウは小さく頷くと、席を立ち、階段へと向かっていった。
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