7-16.地形は、変わっていないか?

「……トレス、合同討伐中止の通達を、各関係各所に」

「はい!」

「……あと、合同討伐に参加するはずだったパーティへの補填手続きを行うように指示を関係各所に……」

「はい! わかりました」


 ルースの命令に、トレスが機敏に反応する。

 ギルド長の専属秘書が、紙にさらさらと文字を書きあげると、紙が白い鳥になり、空中に舞い上がる。

 白い鳥はそのまま応接室の壁を難なくすりぬけ、飛び立っていった。

 【書類鳥】は一羽ではなく、次から次へと変幻し、羽ばたき始める。


「それから、至急、調査隊を現地に再派遣だ」

「はい」

 また、複数の鳥が飛んでいった。


「それと同時に、短期のゴブリン残党狩りの依頼に切り替えろ。中級ランクが対象だ。報酬は少し多めに。枠も多めに。近隣のギルドにも声をかけ忘れるな。移動手段もギルドで用意しろ」

「はい」


 さらに【書類鳥】が飛んでいく。


「ギルド長。残党はいない」

「……は?」


 ナニが手を上げ、小さな声で発言する。


「ゴブリンを倒す前に、砦近辺を覆うように結界を張って、ネズミ一匹逃げ出せない状態にしておいた。一網打尽にした後、念の為、生存者がいないか確認したが、生命反応は一切なかった」

「……………………」

「リオにぃもエルトも調べたけど、あそこでは、なにも生きていない。ネズミ一匹、カエル一匹いなかった」

「………………………………」


 応接室にしばしの静寂が訪れる。


「ち、ち、ち、地形……」

「地形?」

「地形は、変わっていないか?」


 ギルド長の質問に、子どもたちは「よくわからない」という顔をして首を傾ける。


「………………………………」

「……あ、ゴブリンを倒した後、砦は残っていたかな?」


 頭を抱えてしまったギルド長に変わり、フィリアが子どもたちに質問する。


「消えた」

「消滅を確認した」

「なくなった」


 子どもたちが一斉に答える。

 無邪気な子どもたちは、今の返事で大人たちの顔色が変わったことには気づいていない。


「……えっと、砦が消えた? 後、その場所はどんなかんじになったか、覚えているかな?」


 フィリアの質問に、子どもたちはそれぞれ考え込む。


「大穴ができたよな?」

「地面の陥没を確認した」

「きれいになった……」

「そ、それは……うん。もしかしたら、地形が変わっちゃった……っていうことかな?」


 フィリアは控えめに言うが、おそらく、激変しているだろう。


「トレス……帝国にも連絡だ。地理院に地形変更の届け出と、調査依頼を……」


 再び、ひときわ大きな鳥が飛んだ。壁に吸い込まれて消えていく【書類鳥】を呆然と見送りながら、ルースは嘆息した。

 一体、どれだけ、連絡すればよいのか……頭が痛い。


「これは……どう転んでも、見逃すことはできない案件だ」


 鬼として知れ渡っているギルド長は、子どもたちに視線を定め、淡々と事実だけを述べる。


 大人が言っているコトが難しくて理解できないようなら、フィリアがオコチャマ言語に翻訳してくれることがわかった。


 ならば、このまま遠慮することなく、ガンガン攻めていくだけだ。


「今朝、冒険者登録が終わってから、どんなことをしたのか、詳しく聞かせてもらおうか?」


 ルースの顔に凄みが増した。


 子どもたちがぷるぷると震えだしたが、あえて視界に入れないようにする。


 フィリアの「そろそろ許してあげて下さい」という視線も痛いが、ちびっ子たちのためにも、ここで手を緩めることはできない。


 事情聴取は始まったばかりである。


 いや、ようやく事情聴取が始まったのだ。




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