7-15.大変なことになっちゃったなぁ……

 ……というのが、ギルド長から聞かされたおおまかな流れだった。


(大変なことになっちゃったなぁ……)


 フィリアは膝の上に座っている幼い冒険者を見下ろしながら、ため息をつく。


 自身にも影響がでることなのだが、起こっていることが荒唐無稽過ぎて実感がわかない。


 ただ、その調整役兼対応役となるルースギルド長には同情してしまう。


 ちびっ子たちがゴブリンを求めて転移した砦は……。


 王国規模のゴブリンの群れが住み着いていただけではない。

 帝都ギルドの精鋭たちが調査した結果、「砦からはゴブリンキングや複数のクイーンの気配あり」という有り難くない報告が加わったらしい。


 相手がゴブリンであろうとも、王国レベルの群れとなると、軍隊のような秩序ができあがり、ひとつのパーティでは対処できなくなる。

 ご丁寧にも「スタンピードが起こってもおかしくないくらいに、群れの規模は膨れ上がっている」……と調査員は報告したらしい。


 だから合同討伐案件になったのだ。


 そういうことに関しては、ギルド長は抜かりない。いや、遠慮というものがない。


 ギルド長は周囲がドン引きするくらいの、過剰ともいえる戦力を用意する。

 そして、逃げ道を完全に塞ぎ、容赦なく徹底的に壊滅させる戦法を選択するのだ。


 ルースギルド長が恐れられているのは、なにも個人の実力だけでなく、そういう苛烈な徹底殲滅作戦を好むところ。好戦的な性格であることも大きい。


 今回の討伐においても、ギルド長は自ら複数のパーティを選抜し、合同討伐の依頼をかけていた。


 パーティ間の顔合わせも終了し、それぞれの役割と連携も確認した。

 準備も整い、討伐隊は明日に出発する予定だった。


(あの面子で、この規模の内容なら、楽勝だと思ったんだけどなぁ……)


 ギルド長の作戦は完璧だった。


 合同討伐に選ばれた面々を思い出す。

 やっぱり今回も過剰といえるくらいの豪華なメンバーで、実力者揃いだった。


 選抜メンバーのリストに目を通した時、「なにもそこまでしなくても……」と今回も思ったのは、フィリアだけではないだろう。

 フィリアは心の中でこっそり、討伐されるゴブリンに同情したくらいである。


 集められたほとんどのリーダーたちが、哀れみを帯びた微妙な表情を浮かべていた。


 精鋭揃いの選抜メンバーの中には、気難しい性格で有名な冒険者もいたので、スケジュール調整という名のご機嫌取りも大変だっただろうな、とフィリアは思った。


 ギルド長の作戦は完璧だった。

 失敗するはずがなかった。


 なのに、ちびっ子たちが乱入したことにより、危険をともなう合同討伐があっけなく終了することもあるんだ、と、フィリアは逆に驚いてしまった。


 端的に言ってしまうと、子どもたちに『横から依頼を掠め取られた』ということになるのだが、『掠め取った』当人たちに悪意がないのはわかっている。


 そもそも、名指し案件だったので、この依頼は一般には公開されていない。

 見習い冒険者が知ることなどできない案件だ。


 子どもたちは運悪く、たまたま名指し案件に遭遇してしまっただけである。


 ……まあ、普通ならば、倒そうということは考えずに撤退し、最寄りの冒険者ギルドに報告する。

 もしくは、ゴブリンたちに殺られて、帰らぬ人となる……。それが普通の流れだ。


 今回は、その普通の流れから、大きく逸脱してしまっただけだ。


 そう、たった、それだけなのことなのだ。



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