7-10.この『草』を【鑑定】してみようか
室内に落ち着きが戻った頃を見計らって、ルースが重い口を開く。
「さて……。ちびっ子どもは【鑑定】はできるよな?」
「できる!」
「少々……」
「……ぅん」
ルースがトレスへと視線を送る。
ギルド長の専属秘書は席を立つと、査定受付所から持ち帰ってきた箱を応接用のテーブルの上に置き、蓋を開けた。
登録用紙が入っていた書類箱によく似ているが、少しデザインと大きさが違う。素材を適切な状態で保存しておく箱だった。
【鑑定】は、とても有名な魔法で、魔法ではなく、スキルだと主張する研究者もいる。生活魔法に分類され、それほど難しいものではない。
特に必要な呪文もなく、魔力の流れを意識して、対象物をじっと見るだけだ。それで対象がなにかを【鑑定】できる。
低レベルの【鑑定】であれば、魔力を持つ者なら誰でもできるといわれている。
ルースは箱の中から、一本の薬草を取り出した。子どもたちが持ち帰ったものを、サンプル用として査定場から持ち出したものである。
「じゃぁ、この『草』を【鑑定】してみようか。背が高い順で答えろ」
「薬草」
「薬草」
「薬草」
リオーネ、ナニ、エルトが順番に答える。
「エリーも【鑑定】しろ」
「はひぃ!?」
今まで通りすがりの傍観者だと思っていた回復役のエリーが名指しされる。
『赤い鳥』の中では、最も【鑑定】魔法のレベルが高いという報告を受けていたので、ルースは彼女の名を呼んだだけだ。
だが、本人は突然の名指しにわけがわからなくて、めちゃくちゃ驚き慌てふためいている。
「エリー……同じことを何度もいわせるな」
ルースの目に殺気が籠もる。
「はひいいぃ。か、回復草ですっ」
緊張のあまり声が裏返っているが、誰も笑う者はいない。
いや、笑える空気ではなかった。
「じゃ、こっちの『草』はどうかな?」
ルースはにっこり笑って優しい声で子どもたちに問いかけるが、目が全く笑っていない。
エリーはぷるぷる震えている。
「薬草?」
「良い薬草……」
「ちょっと高い薬草……」
「火傷治しの薬草ですっつ」
「うん、そうだ。薬草には違いないが、火傷治しの薬草だな。薬師たちは、パレト草って呼んでいる」
ルースはこめかみをひくつかせながら、別の草を手に取る。
「じゃ、この草は、わかるかな?」
「や、薬草??」
「すごく良い薬草……」
「けっこう高い薬草……」
「か、回復薬の上位種になります」
「そう。エリウ草っていうんだ。回復薬の上位種なんだよなー」
子どもたちのザルな答えに物申したいこともあったが、まあ、世間一般の【鑑定】など、この程度のものである。
【鑑定】魔法が有名なのは、誰でも使えるけど、大して役に立たない魔法で、まともに使えるようになるには、かなりの時間と努力を必要とする……ことで有名な魔法だからだ。
まあ、だからといって、リオーネの語尾に「?」がつくのはいただけない。とてつもなく、ひどい【鑑定】結果だ。リオーネの目は節穴か? と聞きたいところである。
だが、ここで問題としたかったのは子どもたちの未熟な【鑑定】魔法ではない。
人生経験が浅く、まだ多くのモノを知らない幼い子どもらの【鑑定】魔法など、たかがしれている。
まあ、だとしても、目の前に座っている子どもたちの【鑑定】魔法は……同年の子どもたちに比べて劣っているのではないか、とルースは思った。
子どもと接触する機会が少なかったルースが、そのような判断を下すのは早計かもしれないが、自分や兄弟たちの子どもの頃を思い出すと、そう判断してしまう。
改めて、子どもたちの育った環境が歪な場所であったと反省する。
「ギルド長?」
いきなり黙り込んでしまったギルド長に、フィリアがおずおずと声をかける。
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お読みいただきありがとうございます。
――物語の小物――
『回復草』
https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023214315367554
『火傷治しの薬草』
https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023214259685885
『回復薬の上位種』https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818093073576783513
フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。
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