7-9.プランCで決定だな

 子どもたちの声を耳にしたフィリアとギルがひきつった顔で、視線を交わし合う。

 響き的に、嫌な予感しかしない。


「プランC」


 そこにエルトが、覆いかぶさるように言葉を重ねた。


「……いや、プランBだろ?」

「プランC」

「……プランBが適切」

「プランC」


 コソコソと話し合っている子どもたちを、大人たちは緊張した面持ちで見守る。


「……わかった。エルトがそこまで言うのなら、プランCでいこう」


 リオーネの同意に、ナニもしかたなく、頷いた。


「……じゃぁ、プランCで決定だな。エルト、ナニ。カウントダウンはじめるぞ」


(カウントダウン? ……え? なにがはじまるんだ!)


 リオーネの決定にあわてふためくフィリアとギル。


 フィリアは目の前のギルド長の様子を探るが、ルースはほぼ無表情で、子どもたちにじっと視線を注いでいるだけだった。


「サン……ニィ……イチ……」

「すみませんでしたっ」

「すみませんでした」

「……ませんでした……っ」


 三人は、ソファーからぴょんと飛び降り、床の上に正座する。そして、平伏……平身低頭、つまり、土下座をした。


「ぐふっ……」


 ギルが腹の辺りを押さえて、ソファーで悶絶しているが、誰にも気づいてもらえなかったようである。


「…………」


 一糸乱れぬ美しい土下座を目の前にして、さすがのギルド長も言葉を失ってしまった。


 ギル以外の『赤い鳥』のメンバーたちは、予想していなかった光景に、完全に凍りついてしまっている。


 ルースはどういう表情をしてよいのかわからず、思わず両手で顔を隠し、俯いて時間をかせぐことにした。

 だが、肩のあたりが微妙にふるふると震えているのが自分でもわかる。


「おい、ちびっ子、なにをやっているんだ?」

「誠心誠意の謝罪を表現する儀式」


 ナニが答える。


「……なんで謝っているのか、わかってやってるんだろうな?」


 両手で顔を隠したまま、ルースは続けて質問する。


「……ギルド長が怒っているから」


 エルトが答える。


「ほう……。なぜ、わたしが怒っているのか、ちびっ子はわかるのか? ちゃんと理解しているか?」


「…………」

「…………」

「…………」


 答えはなかった。

 子どもたち三人は、きょとんとした顔で、それぞれ首を傾けている。


 応接室が緊迫した空気に包まれる。


「ひゃぁぁぁぁ」


 エリーの口から思わず小さな悲鳴が漏れるが、その口を慌ててフロルが手で塞ぐ。

 ここはモブに徹する。

 目立ってはいけない。

 不用意なノイズを発してはいけない。

 呼吸を殺し、気配を消して、背景と溶け込んでやり過ごすのが一番だと、フロルは判断したようである。


「あ、あのぅ。ギルド長、落ち着いてください。このコたちは、まだ子どもですので、なにとぞ、お手柔らかに……」


 沈黙しているルースに、フィリアが恐る恐る声をかける。


 この極寒の状況でも、なお発言できるフィリアの強靭な精神力に『赤い鳥』のメンバーは尊敬の眼差しで見つめた。


「ふぅ……。質問を変えてみようか。ちなみに、『プランB』ってなんだ?」

「エルトが目をウルウルさせながら『ゴメンナサイ』って言いながら、上目遣いでじっと見上げる。これ、殺傷力抜群。誰が相手でも、今まで失敗したことがない」


 自信満々なナニに、リオーネが大きく頷いている。


(そんなこと……誰が教えたんだっ!)


 唸り声がでそうになるのを必死に堪えながら、ルースは歯ぎしりする。


 想像してみる。

 エルトにそんな目で謝られたら……相手がギンフウであっても、ころっと許してしまいそうだ。

 自分もあっさり陥落してしまうだろう。

 危なかった……。


「……プランCの選択で間違ってはいなかったようだな」


 眉間のあたりを押さえながら、ルースはひとりごちる。

 調子が狂ってしかたがない。


(なにかが、根本的に間違っている……)


 ルースはわざと大きなため息をつくと、子どもたちに土下座をやめ、席に戻るよう命じた。



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