6-16.最短記録が塗り替えられてしまうのか
冒険者ギルドにも「十歳の冒険者が、初日に並の大人ではできそうもないことをやってのけた場合」の対応マニュアルなどない。あるはずがない。
下手につついてピーピー泣かれたら、ものすごく厄介である。ああなってしまったらどうしてよいのかわからない。お手上げだ。
子どもたちの健やかな成長の妨げにならないよう、自分が嫌われてしまわないように、なんとか、穏便に……もっともらしく誤魔化せないだろうか?
と、ルースは必死に考える。
「……無理ですにゃ。依頼達成報告を十五の刻に受理しましたにゃん。本日付は変更できませんにゃ」
「ギルド長、あんたの気持ちもわからなくはないが……査定にまわってきたときも、十六の刻にはなっていなかった。冒険者ギルドのルールとして、残業してでも、徹夜になっても、査定は終了させる!」
「…………」
ルースのわずかな期待が、ポッキリと折られてしまった。
いや、そんなルールなんて、ドブにでも捨ててしまえ! と叫びたいのをグッとこらえ、ルースはその『ルール』に『穴』がなかったか、記憶をたぐりよせる。
受付業務は十六の刻で終了する。
それも計算して、子どもたちは十五の刻に受付を済ませたのだろう。
(こいつら……わざとだろう! 絶対、そうだ!)
狙いすましたような計画的な行動に、なんとも腹が立つ。
見習い冒険者の査定は、初心者応援期間ともいわれており、とても簡単で甘い。
持ち金が少ない冒険者がほとんどなので、彼らが変なことをしでかさないように、日銭を用意してやる必要があるからだ。
なので、十五の刻までに依頼達成の報告があったものは、その日のうちに査定し、報酬を支払ってあげましょうという、初心者に媚びた……いや、やる気をもって次に挑んでもらおうという、システムになっている。
簡単に登録できるのだが、だからといって、簡単に辞められてもこまるので、ギルドは特典だの、なんだのと、冒険者ひきとめの策を色々と用意している。
査定に関しても、初回は多少の不備があったとしても「まあ、今回は目をつぶりますが、次回はもっとしっかりして……」という具合に、『頑張ったで賞』を与える意味合いが大きい。
依頼の達成精度よりも、まずは、どいういう流れで冒険者稼業をやってもらったらよいのか、手順やイロハをわかってもらう趣旨がある。
誰だって、初めてには失敗がつきものだ。チュートリアルのような意味合いが強い。
だから、ギルド側の査定もあってないようなもの。初回だけは、アマアマ、ユルユルなのだ。
今回、そのシステムが裏目にでてしまったというわけだ。
そして、査定責任者はとても仕事熱心で、真面目で融通がきかないドワーフ。
ギルド長が全力で止めても、勝手に査定部門の全総力とプライドをかけて、なにがなんでも今日中に、査定するだろう。
下手に妨害して逆にやる気をだして暴走されるよりは、自分の目が届く範囲で作業してもらう方が、なにかと『調整』しやすい……だろう。たぶん。きっとそうだ。
「……初級冒険者へのランクアップ最短記録が塗り替えられてしまうのか……」
疲れたため息がルースの口から漏れた。
記録が破られるのは、一向にかまわない。
問題なのは、そういう飛び抜けた『逸材』が出現したときは、各国のギルドおよび、所属する国(帝国)に報告する義務がある……という決まりゴトだ。
報告義務と表現されているが、実際は、ギルドカードで徹底管理されている以上、自動通達されてしまうから、隠すことも、誤魔化すこともできない。
便利なようで、ルースにとっては不便でやっかいなシステムだ。
ちびっ子たちの依頼達成報告がギルドの受付を通過し、査定受付カウンターで、この物量をぶちまけた瞬間、関係各所に自動通達されてしまったわけである。
奴らは結果報告を今か、今かと待ちわびているに違いない。
十五の刻=午後五時
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