6-13.コレを忘れてた!
査定受付カウンターは、通常の受付カウンターとは別の棟にある。そして、少しだけ歩かなければならない。
たまに……ではあったが、ドラゴンや大型魔物の査定持ち込みがあるので、広いスペースが必要なのだ。
まれに……ではあったが、毒性の強い魔物も運び込まれるので、隔離されている方が都合がよい。
さらに、それらを取り扱うことができる大きな保存庫、広い解体作業場を隣接させている方が、導線的に効率がよくて無駄がない。という理由で、査定と解体の受付は、ワンセットで別棟になっている。
討伐された魔物の査定が終わったら、そのまま同じカウンターで解体作業の申し込みができるというシステムだ。
担当も部門で別れているのだが、素材の査定ができる者は解体もでき、解体ができる者は、素材の鑑定もできるという具合なので、両部署の境界はあいまいだ。
どちらかが忙しくなれば、応援に行くという関係になっている。
別棟が近づくにつれ、ルースの身体も、ようやく、回復薬が効くくらいには体力が回復してきたようである。目眩もなくなり、足取りもしっかりしてきた。
これなら、多少のトラブルなら、耐えることができそうだ。
数時間前は、血を大量に吐きだし、死ぬ一歩手前までヒットポイントを削りまくっていたのに、驚異的な回復力である。
慣れとはつくづく怖いものだ。
ちょっと復活したルースを、トレスが寂しそうに見上げている。
表情の変化に乏しい秘書なのだが、「もっと、ボクを頼ってください。お世話させてください」と目が雄弁に語っている。ウルウルしている瞳は、飼い主を慕う犬そのものである。
(そろそろ堕ちるな……)
ルースは心のなかでにんまりと悪い笑みを浮かべるが、トレスの視線には気づいていないふりをする。
トレスの場合、ご褒美と褒めるのは少しだけでいい。飢えている状態の方がよい働きをする。大事なのは、量でも質でもなく、与えるタイミングだ。
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別棟に続く廊下を抜けると、両開きの扉が見えてきた。
扉の上には『査定受付場』という看板が掲げられており、扉の前には、ひとりのドワーフが仁王立ちで待ち構えていた。
ドワーフの査定責任者は「遅い」とひとこと呟くと、扉を開けてギルド長を中に招き入れる。
「秘書殿も入れ」
入り口で立ち止まったトレスに、査定責任者がむすっとした表情で言葉を続ける。
トレスは「失礼します」と軽く会釈すると、ギルド長の後を追った。
外で待機を言い渡されるかと思ったが、今度はすんなりと中に入れてくれるようだ。
やっぱり、ギルド長はすごい、と変なところでトレスは感動する。
査定受付カウンターには、複数の人が集まっていた。
その中に見知った顔があるのを見つけ、ルースの眉がぴくりと釣り上がる。
見間違うはずがない。
「あ、ギルド長だ!」
「……ギルド長」
「……………長」
甲高い子どもの声が聞こえた。
これは、朝、聞いた声である。
確認するまでもない。
(しまった、コレを忘れてた!)
ルースの顔がわずかにこわばる。
誰も褒めてくれないだろうから、自分自身で叫び声を上げなかったことを褒め称える。
なぜ、忘れていたのか……おそらく、ルースの生存本能が働いたからだろう。無意識のうちに『この件に関連すること』は、考えないようにしていたみたいだ。
(……というか、なんで、初日なのにこいつらが『ここ』にいるんだ? 初日は登録だけで終了って……オレは聞いていたぞ?)
革鎧を身にまとい、子どもサイズの長剣を背中に背負った赤髪の少年。
魔法の杖を手に、丈の短いフードを着た女の子。
黒革のぴったりと体にフィットするスーツを着た黒髪の女の子。
(い、一体、なにが起こっているんだ! やっぱり、見張りもいない! あれだけ、野放しは危険だって言ったのにぃ! 放置か! オレに丸投げか! オレが勝手に処理して、誰も文句は言わないんだろうな!)
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