4-6.長生きしているとね、娯楽に飢えるようになるのよ――
冒険者ギルドの方針は『来るものは拒まず。去るものは追わず』だから、一階の警備がザルになるのは、致し方ないだろう。
種族、性別、生まれ、育ち……区別なく誰にでも扉は開かれる。
一階は出入り自由のザルだ。
最上階である五階のギルド長室の護りは堅牢で、ザルではないのだが、『深淵』のメンバーなら苦労せずに侵入することも、強襲することも可能だ。
帝都内において、元第十三騎士団の団員が忍び込めない場所は、片手の指で数えられるほどしかない。
だからといって、用もないのに気軽に侵入してよいものではない。
世の中にはしてよいことと悪いことがあるのだ。
「ノゾキは趣味が悪いぞ。まあ、コクランの趣味の悪さは、昔からだが……」
『エレッツハイム城の悪夢』以降、コクランの趣味はさらに輪をかけて悪くなったのだが、それについては互いに触れないのが暗黙のルールとなっている。
「ギンフウ、あなたもそのうちわかるようになるでしょうけど、長生きしているとね、娯楽に飢えるようになるのよ――」
「…………」
それについても、ギンフウは否定しなかった。彼女とはそこそこ長いつき合いだ。重々承知している。
新聞社と出版社の経営を彼女に委ねたのも、ギンフウがコクランの『趣味』を知っていたからである。
彼女の『情報』に対する情熱と執着はすさまじい。
コクランが自らの精霊を使って集めた『情報』が記事や本になる場合もある。
取材要員育成のためと称して、研修……情報収集に特化した特殊訓練を施した『社員』たちにも、日夜様々な『情報』を集めさせている。
その活動はすでに暴走とも呼べる域に達しており、誰にもコクランを止めることはできない。
最初にソレを許したのは、他でもないギンフウだ。
ただし、羽目を外すことはあっても、コクランは愚かではない。
部下を信じる……という名目を盾にして、ギンフウはコクランを制御するのを半ばあきらめてしまっていた。
「それだから、カフウから『ストーカー』呼ばわりされるんだ」
頬杖をつきながら、金髪のエルフを見上げる。
「あら? 『エロオヤジ』よりはマシだと思うけど?」
「…………」
ギンフウは軽く肩をすくめた。
あの娘も娘で、ギンフウを悩ます頭が痛い存在である。
一体、どこからそのような知識を得るのか、誰が教えているのか、不思議でならない。
「昔は、とーさま、とーさまって、可愛かったのになぁ。なんであんな娘になってしまったんだろう……」
とても深刻そうな顔で嘆く。
部下たちの前では冷徹な表情を保っているギンフウだが、子どもたちのことを語り、考えるときだけは表情が豊かになる。
「そりゃ、こんな場所で、こんな大人たちに囲まれてたら、そんなふうになっちゃうわよ。ある意味、順調に育っている、ともいえるんじゃないかしら」
コクランの言葉に反論できない。
ギンフウはがっくりと肩を落とす。
所詮は家族ごっこだと、コクランは言いたいのだろう。
エルフのコクランには、ギンフウの抱えている矛盾と行いがこっけいに映っているにちがいない。
頬杖をついたまま、しばらくコクランの様子を観察していると、彼女の緑色の瞳が輝きはじめる。
どうやら、精霊たちが目的地に到着したようだ。
「いや! なに? ギンフウ! これ、ちょっと、めちゃくちゃ、面白いコトになってるんですけどぉ!」
コクランの口から黄色い悲鳴めいたものがでる。かなり興奮しているようだ。
「オレにはおもしろくもないな」
コクランはきゃっきゃと騒ぎたてながら「楽しい、楽しい」を連呼している。
しばらくすると体をくの字に折り曲げて、目の端に涙をにじませながら、「しんじられない!」とケタケタ大きな声で笑い始めたのである。
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