3-10.ぼくたち、冒険者になりにきました!

 成人した小人族ではなく、まだ世の中の穢をしらない純真無垢な子どもが、冒険者ギルドのカウンターにやってきた。


 この姿はアレである。


 大人が着る衣装のデザインを、そのまま忠実に子どもサイズに縮小させた、クオリティ高い格好である。


 趣味の学芸会ではなく、プロの手によるガチ装備だ。


 成長することを加味して、少しだけ大きめのサイズとなっており、そのアンバランスさがまたまたペルナのツボを刺激する。


 破壊力抜群。


 これをオカズにしたら、三日三晩ご飯が三倍美味しくなるというアレである。


(今日、出勤しててよかったにゃ――)


 ペルナの呼吸と鼻息がますます荒くなる。ゴクリと、生唾を飲み込む音が聞こえた。


 子どもたちには聞こえていないだろうかと心配になるが、純真な子どもたちの目線は、高速で動く挙動不審なペルナの耳に集中しており、全く気づいていないようだった。


(か、かわいいみゃあああああ!)


 心のなかで思いっきり叫ぶ。


 邪魔な受付カウンターを飛び越え、目の前の尊い存在を思いっきり抱きしめていたい。ぷにぷにした頬にスリスリしたい。……という衝動を、必死の思いで心の奥底に封印する。


 ペルナは小さく咳払いすると、受付嬢モードに意識を切り替えた。


「……えっと。ボクらは、おうちのヒトを探しにきたのかな? それとも、なにかギルドに依頼があるのかな?」


 勤続七年のベテラン受付嬢は、にっこりと目の前の少年たちに微笑みかける。


 語尾の「にゃ」が消え、お仕事モードに切り替わった。

 煩悩を瞬時に滅却し、冒険者ギルドの優秀な受付嬢として目の前の案件と冷静に対峙する。


 相手がとっても可愛い子どもなので、フレンドリーに接するのは必須だ。『受付のお姉ちゃん』と、慕われるようになる布石でもある。

 こうやって、ペルナはフィリアとの良好な関係も築いてきた。この選択は間違いないだろう。


 山猫の獣人ペルナの営業スマイルは最強だ。

 にっこりすれば、大抵の冒険者たちは、デレってなって、すごく従順になる。


「違うよ! ぼくたち、冒険者になりにきました!」


 一番年上らしき、赤髪の少年がハイカウンターの天板に手を伸ばし、必死に背伸びをしながら反論する。


 つま先立ちした脚が、プルプル震えている姿も微笑ましく、ほのぼのとした幸福感に包まれる。


 ペルナの心のうちを知りもしない純真無垢な少年は、キラキラと茶色の瞳を輝やかせ、ギルドの受付嬢を見上げていた。


「冒険者登録をしにきました」

「………………………ました」


 フードを被った少女は、少年の言葉を訂正するかのようにぽそぽそと呟き、黒髪の女の子からは語尾だけが聞こえた。


 残念ながら少年に比べて、少女達の熱量は、はるかに低い……。

 興味ないけど、仕方なくついてきてあげたわ、っていう態度を隠そうともしない。


 まあ、この年頃の男女関係って、そういうものだろう。


「ぼ、ボウケンシャトウロクぅ?」


 予想していなかった答えにペルナは目をパチクリさせる。

 こんな、可憐な子どもたちが、汗むさくるしい冒険者たちに混じって冒険をするなんて……ペルナには全く想像できなかった。


(危険すぎる。あまりにも危険すぎるにゃ!)


 ルースギルド長も万能ではない。

 おまけに忙しい人だ。

 ギルド長の目の届かないところで、この純真無垢な天使たちが、ゴロツキ冒険者たちの餌食になる光景が目に浮かぶ。火を見るより明らかだ。


 報酬を掠め取られたり、いじめられるくらいならまだまし……いや、それも十分に問題アリだが、欲求不満の捌け口として、暴力を超えた暴行を受けること、間違いないだろう。


 そんなことを平気でやりそうな、ブラックなリストに掲載されている奴らの顔が、ちらほらと浮かんでは消えていく。


 ときとして、魔物たちよりも、人間たちの方が恐ろしい場合もあるのだ。



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