2-10.こんな格好でも

 ギンフウが溺愛しているセイランは、今年で八歳。


 冒険者登録ができるのは十歳からだ。


 規定では十歳となっているが、それは地方の冒険者ギルドが、収入が必要な家庭に向けて、薬草採取など比較的安全な仕事を斡旋するために設定した年齢だ。


 そういう特殊な事例はおいておいて、現実的な観点からすれば、冒険者登録は十二、三歳くらい、生存率をあげるのなら、十五くらいがよいとギンフウは考えている。


 まあ、ギンフウの目の前にいるちびっ子たちは、ギンフウが手ずから育て、ギンフウの優秀な部下たちが鍛えに鍛えた子どもたちだ。

 冒険者として十二分にやっていける技は叩き込んでいる。


 『通常』という枠におさまりきらない、いびつな生い立ちをもつ子どもたちだ。

 身内贔屓ではなく、真面目にそこらの大人たちよりも強い。


 であったとしても、セイランはとても小柄な子どもだった。実際の年齢よりも二、三歳は幼く見える。

 五歳児と判断されてもおかしくない体格と容姿をしていた。

 誤魔化すこと自体に無理がある。


 医術に詳しい者の見立てでは、セイランは魔力に関する数値が、人並外れて異常に高い。

 それはヒトとしてはありえない、歪められた状態だという。

 例えるのなら、呪いのように枷となって、肉体の成長に影響がでているというのだ。


 それゆえにセイランは体内の魔力をうまくコントロールできずに、たびたび熱をだしては寝込んでいる。


 もともと食が細い子どもだったが、熱がでたときはほとんど食べ物を口にすることができず、それも影響して、肉体の成長が遅れがちになっていた。


 一般的な傾向として、魔力の高い人間や種族は、成長や老化のスピードがゆるやかになる傾向にあり、人間であっても老化が止まる者もいる。


 ただし、それは成人して心身ともに落ち着いてからの話だ。


 ギンフウも成人した頃から老化が止まり、見た目と実年齢がくいちがってきている。


 彼の部下たちも全員がそうだった。

 長く生きすぎて、年を数えるのが面倒になり、年齢不詳となってしまった者も大勢いる。


 だが、彼らはみなセイランぐらいの頃は、普通に成長していた。


 セイランの場合は、魔力があまりにも多すぎて、成長の停滞症状が幼い頃から顕著に現れているのだという。


 皮肉なことに、セイランのステータスは、三人の子どもの中で一番優れている。


 なのに、実際年齢はもちろん、精神年齢もあわせて低く、さらに、あの容姿が加われば、まだ、目の届くところ……庇護下においておきたいというのが、保護者としてのギンフウの本音だった。


 今もこうしてセイランを抱きしめながら、ギンフウは密かにセイランの心変わりを期待していた。


 背中や頭を優しく撫でながら、どのような言葉を使って、セイランの気持ちをかえようか、あれこれと思案する。


 しかし、兄弟同然で育っているハヤテとカフウが訓練もかねて、外の世界で活動をはじめると、ひとり取り残されたセイランの情緒が不安定になり、魔力のバランスがひどく崩れはじめていた。


 このままなにも対策を講じなければ、セイランは魔力を制御しきれずに寝込んでしまうだろう。

 生命を落とす可能性もある、という。


 セイランの調子が悪くなれば、それにひきずられて、他のふたりの子どもも情緒不安定になる。


 それは非常にまずい悪循環であった。


 子どもたちの保護者として、それだけは回避しなければならない。

 それがギンフウの悩みの種となっていた。


 ふたりについていきたいと思うのは、子どもとして自然の流れだろう。

 その感情は、大事に育ててやりたい。とギンフウは考えている。


 まあ、セイランの場合は、ふたりに「ついていきたい」という思いよりも、ふたりから「離れたくない」という恐怖の方が強い気がしたが……。


「こんな格好でも、セイランは冒険者ギルドに行くんだな?」

「うん。行くよ!」


 小さいが、はっきりとしたセイランの返事に、ギンフウは軽くため息をつく。




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