第9話 プロローグ:遺されし旋律

静寂が包む書斎に、一筋の朝日が差し込んだ。


その光は、壁にかかる肖像画の下にある古いピアノを照らし、黒と白の鍵盤を明るく浮かび上がらせた。


部屋は過去の音楽で満たされているかのように、沈黙と共に物語を語り始めた。


ここは、かつて偉大な作曲家エドゥアルド・ヴェルナーが創作に没頭した場所。


彼の孫娘であるアンナは、ここで多くの時間を祖父と共に過ごし、音楽の奥深さを学んだ。


祖父から受け継いだ才能と、彼が残した未完成の交響曲は、彼女の運命を大きく揺さぶるものとなった。


祖父の死後、アンナは遺された楽譜と祖父の記憶を繋ぎ止める唯一の糸となった。


彼女はその才能を使い、祖父が残した音楽の謎を解き明かし、彼の未完成の作品を世に送り出す使命を背負っていた。


この書斎は、彼女がその重責に取り組むための静かな避難所であった。


エドゥアルドの肖像画には、時を超えて孫娘に対する暖かい眼差しが宿っている。


アンナはその眼差しを感じながら、ピアノの前に座り、深く息を吸い込んだ。


指が鍵盤に触れると、音楽が静かに部屋を満たし始め、彼女は祖父との対話を再び始めた。


このプロローグは、アンナの旅の始まりを告げるものであり、彼女が音楽とともに過去と未来を繋ぐ物語の序章となる。


彼女の演奏は、時を超え、運命を超え、新しいハーモニーを生み出す力を持っていた。


アンナの物語は、この遺されし旋律から始まるのだった。

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最後の時のメロディー - 交響曲の秘密 シュン @sunnsusu

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