第14話 追い出し作戦パート2
お兄さんに連れられて、俺は男のアパートへと乗り込んだ。
「まじで居る……」
志依が1階へ行ってしまったからか、男は新築のワンルームの部屋で暇を持て余していた。
……と思ったが、どうやらお楽しみ中の模様。
男の近くに寄って見てみると、眺めているスマホの画像が志依の写真だった。
色んなアングルから撮った姿が当然のように並んでいるけど、中には笑った顔もあったりなんかして、ついまじまじと見ていたくなってしまう。複雑な気分だ。
「信じらんねー」
「本当。こんな硬いフローリングの上で寝そべっていられるって、僕には全く理解出来ないよ」
「確かにそれはそうですけど、そこじゃないんですって! お兄さん、この写真って、そこの覗き穴とはまた別の場所から撮ったものですよね? ったく、いつから志依のこと付け回してたんだよこいつ……」
苛立ちでため息が出た。
すると男を仁王立ちで見下ろしていたお兄さんは、
「じゃあ始めよっか、追い出し作戦パート
そうおどけながら掲げた拳で、近くにあった壁を思いっ切り叩いた。
「えええええ!? 物理!?」
「そりゃあそうさ。それらしいことだったら金縛りくらいしか僕には出来ないけど、今は使う意味がないでしょ? ほら君も早いところこの男を怖がらせて、志依ちゃんを守ってあげようか!」
いやいや俺たちって、壁をすり抜けたり人に乗り移ったりとか出来るじゃん。結構サイキックな方法で行くと思ったんだけど?
「まぁ出来ないこともありますよね……わかりました。この際です、派手にやっちゃいましょう!」
一度はスマホから目を離してこちらを警戒していた男だったが、まさか誰も居るはずのない部屋で俺たちが音を立てたとは思わないのだろう。それ以上のことが何も起こらないとわかると、男は再び手元に視線を落とした。
「こういう油断している時ほど、ビビっちゃうってもんだ……あれ? 何か出来ないんですけど!?」
お兄さんと同じように、取りあえずは壁を叩こうとしたけど拳が貫通してしまった。
「も~ぉ。さっき玄関を通り過ぎる時に教えたでしょーよ。いいかい? 感度のいい志依ちゃんを相手にしているんじゃないんだ。ちゃんと頭の中でイメージをしてから、こう!」
お兄さんは得意気な顔で再び壁をドンと叩く。(地味だなと思ったのは黙っておこう)
「で、でも俺、志依の家では階段を上ったりベッドに寝っ転がったり色々と出来ましたよ?」
「いやいや、それは無意識にイメージ出来ていただけの話さ」
「そういうもんなんですか? けどなるほど……確かに今、こいつを懲らしめることだけしか頭に無かったかもしれません……なら」
俺は乱雑に置かれた、荷解き中の段ボール箱に目を付ける。生きていた時と同じようなイメージで中身を漁った。
「おおっ、いいラップ音だね高校生! その調子!」
「いいやまだですって」
男は勘違いして隣人を疎ましそうに壁を睨んでいたが、自分の荷物からも物音が聞こえてくると顔色が変わった。
ただ今のところは、不審に感じているだけっぽいな。男は俺に怯むことなく、その場にスマホを置くとこちらの様子を窺いに来たのだった。
「よし掛かった、おりゃ!」
俺はタイミングを見計らって、男のつま先に積み上がった段ボール箱を落としてやる。
男は痛みに声を上げながら、段ボール箱に挟まれた足を素早く引き抜いて蹲った。
一旦、物理攻撃は成功だ。
「どーだ! 志依が受けた
「いいねー! 僕もそれやろうかな……割と省エネだし」
「はい! でも俺の狙いはですね……って、ちょっとお兄さん。省エネってどういう意味ですか?」
「え。あー……訊いちゃう?」
「は……? つまりこのまま人間の
「い、いやまさか。僕が志依ちゃんと恋愛するわけないじゃないか……。だ、第一、君もあまり魅入られちゃっても仕方がないんだからね? 立場わかってる!? 報われないよ!?」
「うるせぇ! いーんですよ! 俺は若いんですから!!」
「っっ」
一瞬、お兄さんが真顔になって俺に手を上げようとした気がした。
でもその手は振りかざすことなく咳払いをする役目を担う。
「と、というかそもそも僕は言っておいたはずだし……うん、言ったって。言ったよ! 弱い存在になるってね! だから実体化するために、志依ちゃんから生気をもらってるんだって」
「くそ……。でも、これだけはやっておきたいんです!」
俺は男のスマホを拾い上げた。
「高校生、何をしているんだい?」
「志依の隠し撮り写真を消そうと思って念じているんです! 邪魔しないでください!」
「いやいや、それじゃあエネルギーの無駄遣いだよ。普通にした方がいい。貸して」
お兄さんは俺からスマホを渡されると、今ってこんな感じなんだってぶつぶつ言いながらタップして、サクッと全ての画像を削除した。
全て?
「そんな顔をしなくてもいいじゃない。相手は犯罪者だよ?」
「そうですね、同情の余地はないか。あ」
痛みから立ち直った男と目が合った。
いや、宙に浮いているスマホを見ているようだ。おー、混乱してるしてる。
「怖い? ほら君のだ、返してあげるよ」
お兄さんはそう言って男にスマホを投げつける。俺もドタドタと床を叩きつけながら男に向かって駆け出した。
男は俺の足音にビビったようで、腰を抜かしたまま器用に後ずさった。さらにお兄さんは段ボール箱を倒していき、男に恐怖を煽った。
するとさすがに男は耐え切れなくなったのか、うわああああ! と叫びながら、全速力で玄関の外へと飛び出して行った。
「追うよ?」
「はい!」
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