第9話 百合

「こ、こらって」


 そう言ってBが志依越しに肩ぱんで押し返すも、Aは距離を詰めることを止めない。

 しかも志依は2人の間に座っている。Bが意図しなかったとしても、Aを押し返した時に志依へ近付いたため、逆に逃げ場を封じさせていた。


『志依ちゃんのあの顔、本当ゾクゾクする……』


 お兄さんの呟きに、俺も思わず共感して頷いた。

 でももしこれがお兄さんや他の男が相手だったら、きっと俺は嫉妬で平静を保てなかったと思う。

 けど今、志依の相手は女だ……。それだけで安心して観れてしまっていた。


「もう余計なことは考えなくていいんだよ……ね、びー?」

「う……うん、そうだよ志依。もっと私らと仲良くしよう?」

「び、びーちゃんまで……ひゃ。え、えーちゃんくすぐったいよ……」


 Aに耳をそっと触れられ、志依は瞳を揺らしながら身を捩った。だが顔を逸らした先にはBが居る。Bと視線がぶつかった志依の目がハッと大きく見開いた。


「あ……」


 その視線から逃れるように背を向けたが、Bは志依の脇腹から腕を回して、いやらしく手を動かした。

 Bは志依のお腹を指先で優しく撫で回し、その一方でAは耳を弄びながらふーっと長く息を吹きかける。


「それだめっ、くすぐったいっ……」


 耳から首筋へ移動し、鎖骨へ。さらにAの吹きかける息が下がっていくと、志依はBにカットソーの襟口をずらされ、肩と胸元を露にされた。


 友達を突き返すことが出来ない性格なのだろう。志依は胸の谷間に息を吹きかけられたり、後ろから太ももを弄られたりと、2人にされるがままだ。


「んっっ……ぃやぁ」


 蚊の鳴くような声だったが、志依なりに必死に抵抗していた。

 しかしエスカレートしていく2人の愛撫に、抵抗する声にも段々と色っぽさが混じり始める。

 えろい……。

 既に裸を見た後のくせに、俺は乱れる志依の姿と声に興奮を覚えていた。


「しー、えっちな霊にもこんなことされた?」

「ここも触られた?」

「……っっ」

「黙ってたらわからないよ。しーが気持ちいいところ教えて? あ……ここすごい……」

「こうやって、もっと内側を触って欲しいの?」

「ううんっ……だめ、だめ」


 2人に際どいところを触られて、志依の息が速くなる。

 小さく首を横に振って、頬にぽろっと涙を零した。


『あーしたいしたい』

『いやでも泣いちゃってるし、ちょっとやりすぎじゃあないですか?』


 ボルテージが上がるお兄さんを横目に、俺がそう心配した時だった。


「わああああ!!」

「へ? ふぁあああ!?」

「な!? わああああ!?」


 A→C→Bの順で雄叫びを上げた。

 そ、そりゃあ心配したけどさ、何だよこのABC……。

 隣を見やると、お兄さんは舌打ちをしていた。

 これだから色情霊は! と思ったけど、まぁ他人のことは言えねーか。


「やばい! 駄目だギブ! これ以上は止まらなくなりそうだ! 何でそんなに可愛くなっちゃうの。駄目だよっ?」

「同感! 私も一線超えちゃいそうだった! まったく、そりゃあ襲われるわ!」

「……へ?」


 あられもない格好をさせられたにも関わらず、志依は2人になぜか怒られていた。


「ご、ごめんなさい……」



「んじゃあ、なんかごめんね? また来るよ」

「そろそろ部活にも来なね? 待ってるからさ!」

「あ、うん……そうだね。行かなきゃね。あっ、ポッチーもいっぱいありがとう」


 お邪魔しましたーと笑顔で手を振る2人を、志依は未だぽーとした顔のまま見送った。

 玄関のドアが閉まると、


「はぁぁ。恥ずかしかったぁぁ」


 緊張の糸が切れたかのように志依はそう熱くため息を漏らして、へなへな~とその場に座り込んでしまった。


 おいおい、大丈夫かよー? と、紅潮した顔を両手で挟む志依の隣に俺はしゃがむ。頭を撫でようとしたら、お兄さんに止められた。


「ちょっと何ですか? 邪魔しないでくださいよ」

「志依ちゃん、今したいでしょ?」


 無視……。この色情霊め。


「いやいや、どうせ聞こえないですって」


 聞こえたとしても、それは俺の声だけだ。そう得意気に思った。

 だけど志依はキョロキョロと辺りを見渡し始めたんだ。


「誰……?」

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