第4話 ひとつになる
一歩外に出れば志依の着替えが見れる。
でも俺は湯をはったバスタブに身を潜め、静かにその時を待っていた。
「ごめんね。さっき一緒にお部屋行けば良かったよね」
どうやら志依はまた花に喋り掛けているようだ。
俺もこうして死人になってからは独り言が増えたような気もするが、見知らぬ俺に花を手向けたりもするし、志依は本当に変わっていると思う。
そうか、もしかしてこれが俗に言うイマジナリーフレンドってやつ——?
「高校生ー、そろそろ志依ちゃん入るよー」
「あっ、はい!」
「それじゃあ生首のおじさんは、僕と一緒に志依ちゃんの部屋へ戻ろうね」
そう言ってお兄さんがニョロニョロを掴むと、おっさんは左右に顔を振って激しく抵抗した。
でも慣れているのか、軽いのか。お兄さんは風船を引いて歩くかのように、いともたやすくおっさんを連れ出した。
「こーら、釣りたての魚じゃないんだからピチピチ暴れないのー」
真顔で足掻くおっさんがドアの向こう側へと吸い込まれていく。
その様子を呆気に取られながら見ていると、それを遮るように志依が一糸まとわぬ姿で浴室に現れた。
目が覚めるような姿に、鼓動も血圧も何もかもが最高潮を迎えたが、俺は彼女から視線を逸らしてしまっていた。
「やばいやばいやばい」
なぜだろうか。さっきまでいけしゃあしゃあと、他人様の家を全裸で歩き回っていたくせに。チキンにも程がある。
「ま……待ちに待った志依の裸を拝むことが出来ないなんて。く、くそぉ~これもお兄さんの所為だぁぁ~」
志依の
「やっぱり……。で、何? 君だけで行きたいって?」
「はい! ああいや、そうじゃなくて、だって」
「ふーん……まぁ君にはその権利はあるか……。うんいいよ、協力する! でもその代りもう泣かしちゃ駄目だからね? 久しぶりに志依ちゃんは、外へと出られたんだからさ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん……あっそうだ! せっかくならさ?」
浴室へ来る前。階段を下りようとしたお兄さんに言ったんだ。こんな狭い空間で仲良く肩を並べて覗きなんて出来ないって。
するとお兄さんは意外にも譲ってくれたんだ。
だからお兄さんは今、おっさんを連れて志依の部屋に戻っているってわけ。
——でも。
「一つになってみるといいって……そんなこと言われたら俺っっ……おわっ!」
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