第14話 最終話
ジョセフはアメリカ人妻と離れ離れで、束の間の独身貴族を謳歌していた。とは言ってもお金はスッカラカン。そこで最近破竹の勢いで実績を上げている決して美人とは言えないが、ヤリ手の女実業家【アトリエJUJU】のオ-ナ-樹々に近付いた。
「同じショッピングモ-ルに偶然にも何店舗も出店しているとは奇遇ですね。もし良かったら樹々さん一緒に僕の車で東京本部まで帰りましょう」
それは静岡にある同系列の「グランドトレジャーモール浜松」からの帰りだった。
それまでも、千葉と埼玉、更には横浜のお店も同じ「グランドトレジャーモール」に出店していた事から、すっかり顔見知りになっていた。こうして…夜の高速を一路東京に走らせていた。
それでも…東京までは3時間弱かかるので、パ-キングエリアで休憩を重ねての帰りとなった。そんな時に2人でトイレ休憩に入った時だ。こんな真夜中車などほとんど止まっていない。
「樹々さん……僕は……僕は……あなたの事が……」
そう言うと一気に唇を重ねてきた。樹々にしてみれば夫はいるが、何とも不甲斐ない夫だが仕方ない。(それでも……息子蓮の良き父)と諦めにも似た境地で今まで過ごして来た。
そんな時に、こんな今まで会った事も無いほどのイケメンに告白されて、唇まで奪われてしまった。元来仕事人間で、こと男に対しての免疫が全くなかった樹々は一気に恋に目覚め狂ってしまった。
◇◇
「蓮もう寝なさい」
蓮が寝たのを見計らって10時頃にやって来たのはジョセフだった。
夫は夜勤のコンビニのバイトに出掛けていた。それはコンビニのフランチャイズチェーンの店を出す予定だからだ。
「樹々会いたかったよ。愛している。”チュッ”💋ところで……頼んでおいたものは……?」
「ハ—イ!プレゼント」
「嗚呼……樹々……愛している。心から……嗚呼……好きだ……好きだ」荒々しく樹々のランジェリ-を剝ぎ取り愛撫するジョセフ。
「ジョセフ……好き……好き……💛💛💛私…ジョセフの為だったら……どんなことでも……嗚呼~~~💖あぁ~~💕……」
こんなことが繰り返されていたある夜、蓮は何か……気配を感じ夜中に目が覚めた。
そして…最初は何をしているのか気付かなかったが、今まで感じた事のない世界だったので4歳の蓮は優しい父に話した。
「あのねパパ……何か……?ジョセフおじちゃんとママ裸だった。くっついて……」
それから夫婦喧嘩が頻繫に続くようになり、あんなに優しかった父は家を出て行った。
こうして…ジョセフに夢中になった樹々は夫と離婚した。
表面上は「仕事で失敗続きの夫とは既に離婚した」と言われているが、実際には樹々が夫の役割を果たし、夫が妻の役割を果たす逆転夫婦でバランスが取れていた。
確かに仕事はあまり優秀では無かったが、それでも…家族思いでとりわけ息子蓮の為には朝早くから起きて弁当を作ったり、妻の身の回りの世話や家の中の事全て完ぺきにこなす夫だった。
それで全てバランスが取れた家族だった。ジョセフが現れるまでは……。
賢い蓮はジョセフおじさんを家族に災いをもたらす存在と思い、やって来るとついつい毛嫌いするようになって行った。
◇◇
ジョセフにすれば樹々は只の金のなる木。だが樹々だけでは金の工面が付かない。そんな時に金の工面で樹々に会いに行った時に麗子を【アトリエJUJU】銀座店で見かけた。
そこで…樹々とあまりにも親しそうに話をしているので、それとなく麗子の事を聞き出した。だが、余りにも美しいセレブだったので、金と美貌の女両方手に入れたくなったジョセフは「お店のお客として紹介してよ」としつこく樹々に頼み込んだ。
こうして京都旅行をゲットすることが出来た。
だが、樹々が案じていた通り2人は、いつの頃からか頻繫に愛し合うようになって行った。そこで、このままでは麗子にジョセフを奪われてしまうと危機感を募らせた樹々は、2人を引き裂こうと躍起になった。
「麗子さん私はね!あなたがジョセフにのめり込んで全てを失ってしまう事だけが心配なの。あの男は……あの男は……最低の男よ。女を騙して全てを奪い去って残酷に捨てる男よ。私は色々見て来て知っているの。だからジョセフとは別れなさい」
「分かったわ。有難う。私夫に捨てられない内に別れるわ」
◇◇
「お願いよ。ジョセフ私あなたを失ったら私どうして生きて行けるのよ。奥さんと別れると言っていたのは、あれは噓だったの。それなのに今度は私の友達麗子にまで手を出すなんて、お願い麗子とは別れて……」
「麗子とは別れられない。麗子を愛している……それなのに……それなのに……麗子が……俺と別れたいと……オイ!お前今まで俺の為だったらなんだって……なんだってしてくれたじゃないか、頼む麗子を説得してくれ」
「フン!私から全てを奪っておきながら、今度は説得しろだと……いい加減にして…良い気味よ!」完全にキレてしまった樹々は何かが崩れ去るのを強く感じた。
「何だと!このアマ—――ッ!」
「今まで貢いだお金返して!」
”ボン” ”パシン” ”ボカン”
「ヤメテ!ママを……ママを……殺さないで!」蓮はママが殺害されると思い気が気では無い。
丁度そんな時にハリーポッターのキ-ホルダーを翼君が盗んだ。こうして憎い男ジョセフを殺そうと思い立ち、翼君に刃物を渡して殺させようとした。
ジョセフが我が家にやって来るのは決まって月末のお昼だ。ママの美味しい手料理目当てと、お金の無心にやって来るのだ。丁度3連休が重なっていた。それなら都合が良い。家に翼君を呼びママを虐める男ジョセフを殺害させようと待ち構えていた。
だが、全く現れない。するとテレビからニュース速報が入った。
「あの憎き男ジョセフが殺害されただと――ッ!」
こうして事件は新展開を迎えた。
「あのね?実は……実は…蓮君の……蓮君の……家のキ-ホルダーだけど……ハリーポッターの……ワァ~~~ン😭ワァ~~ン😭僕……僕……欲しくなってワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭盗んじゃった。そしたらね……蓮君にバレてしまって……そして…あの男を……あの男を……刃物で刺してって……そしたら黙っててあげるってワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」
あずさママの通報によって【アトリエJUJU】オ-ナ-が不倫の末にさくらちゃんのお父さんを殺害したかに思われたが……。
◇◇
実は…ジョセフのアメリカ人妻は仕事が軌道に乗り始めたので、女にだらしない夫ジョセフに見切りをつけて離婚に承諾していた。そして…ジョセフは麗子との結婚を切に願っていた。だが一方の麗子はジョセフに不信感を抱き別れを決意していた。
更には事件の起きる1カ月程前から麗子が姿を消したのには、訳があった。夫と理恵との話し合いと、一刻も早く中絶をして貰わないと手遅れになってしまうので、夫を必死に説得していた。それでも聞き入れてもらえず疲れ切って実家に帰っていた。
そして…事件の日を迎える。
◇◇
「もうあなたとは別れるわ。今まであなたに貢いだお金返して。このままでは私はあの若い女狐理恵に夫を奪われてしまうわ。私やっと目が覚めたの。あなたみたいな結婚詐欺師まがいの、女たらしとは絶対に別れるべきだってね」
「麗子本当に愛しているのは麗子だけなんだ。行かないでくれ。麗子を失ったら生きて行けない」
そう言うと、強引に麗子をベッドに押し込み「麗子はおれだけのものだ」そう言って麗子が拒むのも構わず抱いた。
(今日は話し合いの日だ。いよいよジョセフは私だけのものになる。ウッフッフッフ!)
「今まで会っていた都内の倉庫の2階は夫の知る所となり、誰が見張っているか分かりゃしないわ。益々夫との亀裂が広がるわ。ましてや愛人理恵がお腹に子供まで身籠ってしまっているの。今度ジョセフと会っている事がバレたらおしまい。やっとやっと目が覚めたわ。だから別荘を貸してくれてありがとう」
それと麗子がわざわざ東京くんだりからやって来るのには訳があった。それは……ジョセフが麗子とのセックス写真をこっそり撮っていたのだ。もしこんな事が夫に知れでもしたら、また週刊誌にでも売られてしまったら格好の餌食になってしまう。こうしてわざわざ別れ話と何よりフイルムを取り返そうとやって来たのだった。
一方の樹々は(そんな嬉しい事を言ってくれた麗子、私は歓喜で体が震えたわ。だが、私の意に反してジョセフが美しい麗子と別れることが出来ず、何と私の一番見たくない行為を目の当たりにしてしまったのよ。もうとっくに麗子が話を付けて帰った所だから2人で楽しもうと別荘に顏を出したのよ。するとその時見てしまったの。まるでヘビが交尾をするかのように、くねくね巻き付きながら激しく上下運動をしながら抱き合っていた。ええぇええええ!天から地獄へとはこの事ね。許せない!私にあれだけ絶対に別れると言ったのに……それなのに……それなのに……そこで私は復讐を考えた。アメリカ人妻ジュリアと美咲さん、それと山中課長にスマホ専用ボイスチェンジャーで電話を掛けたのよ)
「ジョセフと浮気相手の女がお友達の別荘で今日会っています。場所は軽井沢町大字○○2丁目3番地。もし心配でしたら一刻も早く行く事をお勧めします」
そして…飛んでやって来たのが山中課長だった。
そこで私は言ってやったの「この男ジョセフはあなたとアメリカ人妻と更には美咲さん、それとこの美しい麗子更には私とも肉体関係が有ったの。そして結婚を餌に金を吸い尽くしていたの。だけどね、この麗子だけは真剣だったみたい。結婚する女はこの女だってね」2人が幸せそうに愛し合いベッドで眠っていた。
山中課長はジョセフの身辺は把握していた。だが、いくら何でも重婚なんかある筈が無いと思っていたので把握できていなかった。樹々から婚姻届のコピーを見せられ、全てを聞いた時は啞然としたどころの騒ぎではない。それよりショックだったのがこの美しい麗子が現実に今私の目の前で、命より大切に思っていた男ジョセフとの疑いようのない現実を見せ付けられて、目の前が真っ暗になってしまった。
山中課長はカ——ッ!となり咄嗟に2人を次々に刺し殺した。
「私はアメリカ人妻がやっと離婚に応じてくれたので、ジョセフとこれでやっと結婚できると思っていた。それなのに……私の全てを奪い、そして…到底敵わない…こんな美しい女がいたなんて……許せない!許せない!許せない!殺してやる!」
血痕が勢い良く天井に飛び散るのも構わず延々と刺し続けた。
美咲は本当は山中より先に駆け付けていた。そして全てを窓越しに見聞きしていた。相手がⅮクラスの美人の誉れ高き麗子様だと分った時は、それこそ山中課長と同じ気持ちだった。だが玄関からではなく裏手から入ったので鍵が掛かっていて殺害出来なかった。だからガラス越しに全て見ていたが、殺害には一歩及ばなかった。
「仕返しをしてくれてありがとう。私が山中課長の立場になって居たかもしれない」
おわり
追伸
それでは何故、麗子の息子大和が「母が犯人ではない証拠がある」と言ったのか?
それは……ジョセフと一緒に殺害されていたからなのだが、調べで麗子の方が先に死亡している事が分かった。だから……先に死亡した麗子がどうしてジョセフを殺害出来ようか。
※死体の温度の低下、死後硬直、死斑の有無、角膜の混濁、胃の内容物の有無、膀胱にたまっている尿の量、遺体の腐敗状態などから死亡時刻算出。
それも何とも惨い事に、麗子だけ顔がクチャクチャに刃物で刺されて、人物特定が出来なかった。その為DNA鑑定で人物特定に1~2週間掛かった。そして…後日麗子の死亡も大々的にニュースで取り上げられた。
女の嫉妬は怖い!怖い!
欲望と復讐の果てに tamaちゃん @maymy2622
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