第7話 亀裂
麗子は現在38歳。独身時代警視庁勤務時には、色んな男性から引く手あまただったが、若干20歳で結婚したのでジョセフほどのイケメンに遭遇した事は、一度たりとも無かった。
今まで一度も感じた事の無いこの胸のときめき。
◇◇
2年前の11月某日に樹々オ-ナ-に京都旅行に誘われた時から、麗子の裏切りは始まった。
あの時はジョセフが樹々オ-ナ-に頼み込み、やっと実現した小旅行だったが、麗子の想いは複雑だった。
「麗子さんもお誘いして一緒に京都に行きましょうと、ジョセフが言っているの」
樹々オ-ナ-から聞いた時は、嬉しい反面心の中が七転八倒して迷いに迷った麗子だった。
(会わない方が絶対に良い。ましてや旅行に行き益々この気持ちを抑えることが出来なくなる。多分……夫子供なんて目に入らなくなってしまう)
そんな心情では有ったが、抑えきれない熱い思いを振り切ることが出来ずに、とうとう旅行の日を迎えてしまった。
そして…ジョセフの強引さに負け車の中で唇を奪われてしまった。
◇◇
隆はいくら仕事が忙しいと言っても水曜日の、妻との午後7時からのお決まりのデートの日だけは、余程の急用が無い限り厳格に守り通していた。
この日は妻との外食とホテルでの甘い時間を楽しむ日だ。
こうして…タクシーで代官山のいつものお寿司屋さんで食事を摂り、いつものホテルにチェックインした2人だった。その頃はまだ長男も精神疾患など表れていない幸せな家族だった。その為思春期の息子も居るので、たまにはホテルで夫婦の時間を過ごしていた。
「麗子はいつも本当に綺麗だ。愛しているよ」
「フフフ!私もよ」
「いつものように一緒に風呂に入るぞ」
「嗚呼……本当ですね?でも……でも……今日は……チョット……あなたおひとりで入って下さらない?」
「何を言っているんだ。良いじゃないか」
「今日はチョット疲れているので……ごめんなさいね」
麗子は一緒には風呂には入らず後から1人でシャワーを浴びた。だが、隆の求めには答えなくてはいけない。
麗子の想いとは裏腹に隆は久しぶりの2人の時間に喜びもひとしお。
今日は子供もいないので愛する妻と思い切り楽しもうと、ベッドで久しぶりに若い妻麗子をまさぐっていると一瞬首すじに微かに赤い……ほんの少しだから(まぁ仕方ないか。ひっかいたのだろう?だが、いつも水曜日は……私とのデートのためにネイルサロンに行っている筈なのに……美しく手入れされた爪が微かに欠けている……)
最初の疑いは微かなものだった。
だが、今まではどんな時でも家に帰ると飛んで出て来て、向かい入れてくれた麗子だが、最近は仕事が早く終わって帰って来ると、時たま麗子が家にいない事が増えて行った。
そこでお手伝いさんに聞くとお友達の所だと言う。
考えてみれば習い事は幾ら遅くても5時くらいには終わっている。それから大和だって小学生。もう、いつもママが居なくてもお友達と遊んだり、お手伝いさんとお留守番だって苦痛ではない年頃。反対に親の目を盗んでゲームに明け暮れることが出来るので何の心配もいらない。
(まぁ……妻も家族のために頑張ってくれている。たまには羽を伸ばしたって当然の事だ」
そんな事が度々重なったある日、隆は麗子が帰って来た時の髪が妙に乱れている事に気づいた。
更には遅れて帰って来た時に限って今までの上品な服装から、流行を取り入れたファッションになって来ているのに気付いた。また自分の魅力を最大限に引き出せる体の線が出る服装を着こなし、脚の線が綺麗な麗子はミニスカ-トをはく事が多くなってきている気がする。
一層美しくなった妻を嬉しく思う反面、不安をぬぐい切れない隆。
(今までは育児で大変だったからひと段落して羽を伸ばしたくなるのは分かるが、こんなに美しくては男の視線を否が応でも浴びてしまう。まさかあんな従順な妻が浮気を?)
そこで不安になった隆は、お手伝いさんに麗子の様子を逐一報告して貰う事にした。
◇◇
ある日お手伝いさんが車でスーパーに買い物に行った日の事だ。その日は御主人様に頼まれていた美味しい明太子の店が、10キロほど離れた場所に有るのでワザワザ車でやって来た。
すると隣の薬局に奥さんの車らしき黄色のワーゲンを見掛けた。と言ってもそんな車に乗った人は幾らでもいる。だが、御主人様から妻を監視するように言われたので、早速車の中を覗いてみた。
すると……何と……いつも車の後部座席にある大和君の大好きな、漫画のキャラクターナルトのぬいぐるみが置かれてあった。
「嗚呼……奥様の車だ!」
そこで暫く陰に隠れて見張っていた。するとその時奥様が薬局から出て来た。そして若い美しい男と親しそうに出て来た。
麗子はジョセフに家に迎えに来て貰えば浮気がバレるので、タクシーを利用したり交通機関を利用したり、また車をパ―キングに泊めて待ち合わせをする事も有った。それか、ジョセフの会社の倉庫の駐車場に止めたりもしていた。
早速その事実をお手伝いさんは御主人様に報告した。
「あの~?奥様が同年代か、少し若い男の人と親しそうに車でどこかに出かけました」
「嗚呼……そうだったか、ご苦労さん」
(ウウウン💢許せぬ!)
こうして…隆は興信所を使って2人の関係を徹底的に調べ上げた。
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