第3話 天才児山下君の秘密
教育ママの元で育った木村君は、母親からいつも天才児山下君を引き合いに出されて頭に来ていた。
それでは木村君の母親は何故そこまで成績にこだわるのか?ましてや兄までもが能力以上の学力を要求されて、精神に異常をきたしていると言うのに……。
実は…この木村家は何と……国家公務員総合職試験に合格したキャリア官僚の最高位「事務次官」を務めた祖父を筆頭に、父の兄「審議官」も官僚で生粋の官僚一家だった。そして…更には祖母は大手企業の重役のお嬢様。叔母の実家は由緒正しいお寺のお嬢様 だった。
だが、木村君の母麗子だけは普通の家庭の、それも警視庁勤務の短大卒でノンキャリアの一般事務員だった。
だから結婚時には親の大反対を押し切ってやっとの事結婚にこぎつけたのだった。大恋愛の末の結婚だったが、美人で評判だった母麗子に夢中になったのは誰あろう父の方であったが、結婚して周りを見渡せば妻たちは揃いに揃ってブルジョアの巣窟。
若気の至りで美貌に夢中になり結婚したは良いが、周りの御婦人方は名門大学や名門お嬢様学校出身の富裕層の子女達ばかり。肩や妻麗子は零細企業金物工場を経営する両親の元、大した偏差値でもない二流短大卒。夢中になっている時は回りが全く見えていなかったが、自分のものとなってしまい冷静に見れば、何の能力もない只の金食い虫。
若かった父隆はあの時は美しい麗子だけいれば何も要らない。そう思っていたが今は違う。そうブランドが欲しい。そして若くて知性溢れる女を選んだ。プライドの高い父隆の現在の彼女は、正真正銘の国家公務員総合職試験に合格したキャリアの警察官だった。だから……妻が疎ましくなって来ている。
「子供達を君の二の舞だけは踏ませないでくれよ。両親に笑われる真似だけはしてくれるなよ」
「ハイ!」
このような言い方を言い続けられた母麗子は、何とかこの家族に溶け込もうと必死になって子供たちの教育に力を注いだ。だが、それが裏目に出て長男は精神に異常をきたして益々夫婦の溝が拡大している。
そして…更には女の影が?
(絶対に……絶対に……今の地位を失いたくない。あの女……ううん!許せない!)
※キャリア官僚: 中央省庁の幹部候補として採用。「一般(いっぱん)職(旧2・3種など)」とは別の 国家公務員試験「総合職(旧1種)」に合格しているエリ-ト。 多くは東京・霞(かすみ)が関で働いている。
◇◇
それでは……ただの子供同士の喧嘩だったが、隠しておきたい一番知られたくない秘密をぶちまけられた事によって、その後どうなったのか?
それは……小学2年生のある日の事だ。1人のクラスメイトが、天才児山下君に向かってこう言った。
「お前の家に変な人がいるらしいな?それも……誰か知らない行方不明の人を家に隠しているらしい?」
「君なんて事言うんだよ?誰がそんな事言っていたのさ?」
「ともかく君の家は問題のある家だって事だよ。パパは警視総監でそんな事筒抜けさ」
「何で……そんな事言うのさ?そんな事……そんな事……ある訳無いじゃないか」
余りの出まかせに頭にきた天才児山下君が、木村君の家の軒先に隠れて見張っていると、全く真逆の事実が浮かび上がった。木村君の兄が両親が居ない時間帯を見計らって、女の人が嫌がるのも聞かず強引に地下室に引っ張り込んでいた。
「木村お前は卑怯な奴だ。自分の家の中の事をさも僕の家の事のように言うなんて卑怯だ。僕見たんだ。君のお兄さんが知らない女の人を無理矢理家に閉じ込めている所を……」
この事実は警視総監の地位にある父親にしたら死活問題である。
日本警察官のトップが警察庁長官警様で、東京都の治安を守る警視庁のトップが警視総監様なのだが、父隆は日本警察官ナンバー2の地位に当たる立派なお方だ。息子が誘拐事件を犯しているなど絶対に有ってはならぬ事。
だが、この事実は大事にはならなかった。小学2年生のまだ幼児と言っても過言ではない子供の言う事など、子供から聞かされた父兄の誰もが聞く耳を持たなかった。
それもどっちも同じ事で相手を責めている。大の大人がこの出来事を本気に捉えようとはしなかった。それも……両方とも成績優秀で木村君の父親は何と……首都東京の悪を司る警視総監様で、母の麗子様は美人の誉れ高きママカ-スト最上位の誰もが恐れる麗子様。一方の天才児山下君は我が校始まって以来の天才児。
この2人にまかり間違ってもそのような事実が有ろう筈が無いと、誰もが話題にもしなかった。
だが、美人の誉れ高きママカ-スト最上位の誰もが恐れる麗子様は、この出来事を黙って見過ごす事は出来なかった。
(自分のような家柄もさして良くない二流短大卒のノンキャリアの自分が、ここまで上り詰めることが出来たのも、ひとえに夫隆の昇進のお陰。もし家の秘密息子が女の子を家に隠している事がバレたら、何もかも失ってしまう。何とかしなくては?その為には長男を精神病院に入院させなくては。そうだ!厚生労働大臣が定める行動制限で,衣類又は綿入り帯等 を使用して,一時的に身体を拘束し,その運動を制限することが出来るらしい?)
こうして…眠っている間に紐で手と足を縛って、夫の懇意にしていた精神病院に入院させることが出来た。後は息子が監禁していた娘さんだ。だが、ことのほか、ここの生活が快適だったらしく逃げ出そうとはしなかった。
それはそうだ。たまたま長男が誘拐した少女は、家庭に問題が有り虐待を度々両親から受けていた可哀想な少女だったので、それからすればこの家は天国だった。食事はお手伝いさんに三度三度作らせて、地下室で好きなだけ長男とゲームをしたりDVDを見たりの生活だったので、こんな自堕落な生活に甘んじれたので、まだこの家に暫くお世話になりた気な様子だった。
それから…どうも17歳の長男誠も母親譲りの美形だったので、家出少女にしても同年代のお坊ちゃまで、ハンサムボ-イに好意を抱いていたようだった。だから……監禁された凄惨な現場とは程遠かった。その挙句には「誠にもう一度会いたい!」と言い残してこの家を去った。
それでも…親切に説得してお金を握らせ追い返した。
だが、母麗子はあの天才児山下君によって木村家の一番知られたくない精神疾患のある落ちこぼれ長男誠の事が、白日の下に晒される事を何よりも恐れていた。
更には家出少女を誘拐監禁していた等、そんな事が白日の下に晒されたらこの木村家は完全にアウトだ。考えただけでも身震いがする母麗子だった。
そこで考えた。いつも目の上のたん瘤だった天才児山下君の家の全てを、これ幸いに暴いて、これ以上この由緒正しい木村家の恥部を晒さない様に、ぐうの音も出ない程に暴いてやろうと思い立った。
そこで早速興信所に依頼した。
すると……何と……過去に殺人事件を起こしていた?
それは……一体誰が?
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