第2話危険な思考
私は急いで雨の中を走っている。
突然のゲリラ豪雨だ。どこか入れる飲食店はないか。
するとボツンと薄暗い喫茶店が目に入った。
とりあえずあそこに入ろう。
カランコロン
「いらっしゃいませ。おや。大変でしたね」
50代くらいのマスターが私の様子を見て尋ねる。
「すみません、こんな格好で」
「今、タオルを持ってきますね」
「そんな、お構いなく」
あ、でもこんなびしょ濡れで店に入るほうが迷惑か。
「ありがとうございます」
マスターからタオルを受け取って体を拭く。
「よかったらコーヒーでもどうですか?無料でいいですよ」
「そんな何から何まで」
「ご覧のとおり閑古鳥が鳴いてますからね。ゆっくりしていってください」
「はい、ありがとうございます」
私はカウンターに座ってバックの中身を見る。
よかった書類は濡れていない。
「はあ」
私はため息をつきながら会社へメールを打つ。
「お忙しそうですね」
マスターがコーヒーを差し出す。
「どうも、私営業職をやってるんですけど向いてなくて」
「そうですか?そのようには見えませんが」
「話すのが苦手なんです。いざ仕事の話になると緊張しちゃって」
「私と普通に話せてますけどね、ちなみにどのような職業ですか?」
マスターは自分の分のコーヒーを入れる。
「生保レディってやつです。営業成績も悪くて。本当は違う夢があったんですけど気づいたらこの仕事をやってます」
「立派な仕事だと思いますよ」
「そうなんですけどね。でもこのままでいいのか悩んでて」
私は俯きがちにコーヒーを口に含む。
「姉ちゃんの夢って何なの?」
いきなり後ろから声が聞こえて思わず私はびくりと体を動かす。
「やれやれ。やっと起きましたか」
マスターが呆れた声で話しかける。
それに釣られて私は後ろを振り返る。
金髪の女子・・・中学生かな。いかにも不良って感じ。
「いいじゃん、どうせ客いないし」
「あの、娘さんですか?」
「違うよ、お客様」
「学校の時間でしょ?」
「学校は謹慎中でーす」
少女は悪びれることなく言う。
あまり関わりたくないが外はまだ雨が降っている。
「マスター私にも飲み物頂戴」
「いつものでいいですね」
マスターは当たり前のように動き出す。
すると少女が私の隣に座ってくる。
「それで夢ってなに?」
「え、えっと画家になりたかったの。私」
「へえいいじゃん。姉ちゃんいくつなの?」
「25よ。そろそろ親にも夢を追いかけてないで仕事を探せって言われてさ」
「大学でも行けばよかったじゃん」
「うち貧乏でね。何とか専門学校にも行けなかったのよ」
「ふーん」
「興味なさそうね」
「いや、まだ夢を諦めたくなさそうな顔してたからさ」
「いいのよ。それに今私仕事もプライベートも幸せだし」
私はにっこりと笑う。
「なんだよ、惚気話なら聞かないよ。他人の夢の話が気になっただけだから」
少女は下の席に戻っていく。
「公私が充実していることはいいことです」
マスターがにこりと笑う。
「ですよね、でも最近ちょっと怖いことがあって」
「怖いことってなに?」
少女が気になって戻ってくる。
「え、ああ。なんか最近郵便ポストに脅迫文が入ってるのよ」
「おや、それは物騒な話ですね。警察には相談しましたか」
「まだしてないです。とりあえず彼氏と一緒に帰ってもらってます。」
「警察に行った方がいいんじゃない?」
「うーん。仕事も忙しいし別に手紙だけだしね」
私はそこまで危険性を感じていなかったので軽く話を逸らす。
「時間見つけて行った方がいいよ!!」
少女は真面目な顔で迫る。
「それとその彼氏ってそんなに強そうな人なの?」
「いや、別に普通のサラリーマンだけど」
少女はマスターと顔を合わせている。
なんとか警察に行かせようとしているのかな。
「心配しすぎよ。あの雨も止んだのでそろそろ。コーヒーおいくらですか?」
「御代はいりませんよ。サービスです」
「そんな、申し訳ないです」
「いえいえ、気をつけてお帰りください」
「あ、ありがとうございました」
私は足早に喫茶店を出る。
「マスターどう思う?」
「なにがです?」
「脅迫文と彼氏」
「考えすぎでは?」
「だといいけどね。どちらかがヤラセをしているって思った。それだけ」
「そんなことする意味はないのではないですか」
「メンヘラとかだと彼氏に心配させようとかあるじゃん」
「ドラマの見すぎですよ」
「ヤンデレになって心配しない彼氏を殺したりして」
「やれやれ、そうそうちょうどケーキが焼きあがりましたよ」
「ラッキー」
少女はカウンターに座りなおす。
私は雨が止んだ道を歩く。
目の前に郵便ポストが見えたのでバックから封筒を出す。
私は封筒の表書きを見てにっこりと笑いながらポストに入れる。
「さてと仕事。仕事」
私は会社に向かって歩いていく。
今日もあの人は私の心配をしてくれるよね。
ふふふ。本当充実しているわ。
心配してくれなかったら。
にやりと笑う私を小さな子供が見ていたようで泣きそうな顔をしていた。
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