第10話 雑魚配信者VSゴブリンエンペラー
「ふっ———!」
俺は短く息を吐き、地面を縫う様に姿勢を低くして駆ける。
手には小回りの効く短剣に、指と指の間に挟んだ殺傷用爆音玉。
「グルァアアアアア———ッッ!!」
「う、うぉおおおおお———ッッ!!」
俺はギリギリ目で追える速度の攻撃を、勘を頼りに地面を咄嗟に蹴って右に飛ぶ。
次の瞬間には、俺の居た場所に1メートル程のクレーターが出来、ゴブリンエンペラーの斧が突き刺さっていた。
「今———ッ!!」
俺は空中で体勢を変えて《投石術》を発動させながら殺傷用爆音玉を1つ投げる。
殺傷用爆音玉は、300キロを超える速度を維持したまま、斧を抜くのに手こずっているゴブリンエンペラー目掛けて一直線に飛んでいった。
瞬間———爆音玉が弾け、不協和音がボス部屋を包み込む。
更に中に入ったまきびしが飛び散り、ゴブリンエンペラーの皮膚を……。
「———チッ、無傷マ!? 少しくらいダメージ受けろよ!!」
まきびしはゴブリンエンペラーの皮膚を貫通することなく弾かれてしまった。
《いや硬すぎだろ!?》
《まあオークエリートとは比べ物にならないくらい強いからな》
《寧ろまともに戦闘出来てる白星が珍し過ぎる件について》
《珍しいと言うか初めてじゃね?》
《よく動けるな。意外過ぎるんだがww》
《白星、後ろ後ろ!》
《白星危ない!》
「ガァッッ!!」
「ぎょえええええ———ッ!?」
爆音玉を食らったゴブリンエンペラーだったが、暴走状態だからか殆ど効いた様子もなく斧を横一文字に薙いだ。
コメントによって気付いた俺はギリギリ斧と身体の間に短剣を滑り込ませ、鍔迫り合いが勃発し始める。
《おおおおおお!?!?》
《すげぇえええええ!?》
《火花散ってる! 火花散ってるぞ!》
《ゴブリンエンペラーと力比べする白星さんパネェっす!!》
《やっちまえ白星!!》
《まさかこの配信でこんなガチ戦闘が見れるとは……!!》
《レオナch:【50000円】頑張れ》
《レオナ様きちゃぁぁぁ!!》
《白星! レオナ様が見てるぞ!》
「グォオオオオオオ……!」
「ぐ、ぐぎぎぎ……!!」
一見互角の鍔迫り合いを展開している様に見えるが……《攻撃》のステータスがゴブリンエンペラーの方が高いのと、重い斧と言うこともあって確実に俺の方が押されていた。
でも此処で引いたら間違いなく潰される……!!
「人間ッ……舐めんな……ッッ!!」
俺は力比べは諦め、咄嗟に短剣を斧の刃先を滑らせる様にして受け流す。
斧は綺麗に短剣の刃を滑って地面に激突。
突然張り合いが無くなったせいでゴブリンエンペラーは体勢を崩した。
「おら、これでも食らえッッ!!」
一瞬で亜空間ポーチから玉を取り出して投擲。
体勢を崩したゴブリンエンペラーは避けられないと悟ったのか咄嗟に目を瞑り……その無防備な顔面に爆発玉が炸裂した。
「グォオオオオオオ———ッッ!?!?」
流石に無傷とは行かなかったのか、ゴブリンエンペラーは悲鳴を上げながら顔を押さえる。
「———その瞬間を待っていた……!!」
俺はゴブリンエンペラーの背後から全力で短剣を木の幹の様に太い首にぶっ刺した。
途端にゴブリンエンペラーの首から大量の血が噴水の如く噴き出す。
「———っ!? ガァアアアアアア!?」
俺は短剣を抜いて距離を取ると、短剣に付着した血を振り払う。
《す、すげえ……》
《おい、誰だよ狡くて雑魚って言った奴》
《小技も使ってるけど、全然狡く見えないのなんで?》
《いや普通に強くね?》
《強いと言うか……戦い方が巧みだよな》
《流石っす白星さん》
《パネェっす白星さん》
目も見えず、首からは失血多量で死にそうな程の血を噴き出すゴブリンエンペラーは必死に斧を振り回して暴れていたが……。
【———レベルが7上がりました】
遂に力尽きて血の海に崩れ落ちた。
「おっしゃぁああああああああああ見たかこの野郎おおおおおおおお———ッッ!!」
俺は雄叫びを上げながら《下剋上》を使った反動で激痛の走る身体を休ませる様に地面にぶっ倒れる。
流石にもう限界だった。
その瞬間———。
「———お兄ちゃん!!」
ボス部屋の扉が破壊され、そこからそれはそれは頼もしい1人の少女———唯が現れる。
俺はその姿を確認すると……襲い掛かる激痛に耐えかねそのまま意識を失った。
因みに———この瞬間の同接は21万人だったらしい。
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