第7話 『 政治 』

 上手くいかないものだ。先日の市議会選挙でも敵方の「緑光クラブ」 はまた一つ議席を伸ばした。全くもって面白くない。あの顔色の悪い連中がこの「しろがね市」 の市政に口を出すかと思うと、想像するだけでムカムカしてくる。

 市民の反応もいかにも流動的だ。 長年この地は保守勢力が背負ってきたというのに、あの連中が現れてからは 「市政にクリーンな風を」 と云った始末。全くもって不愉快だ。

 クリーンだって?そんな耳障りの良いことを言う奴に限って権力を持ったら最後、神をも恐れぬ残虐非道を実行する。歴史がとうに見抜いていることじゃないか。ソ連崩壊後の東欧を見ろ。浅間山荘を忘れたのか。政治は汚い。その現実を受け入れた者だけが真実政(まつりごと) を任ぜらるに相応しいのだ。

 何とかせねばなるまい。このままでは市政がまかり通らぬ事態となる。何とかせねは…。

 また部屋の中がわずかに揺れた。最近ストレスがたまっているせいか、どうしてもこの揺れが自分の偏頭痛のせいと思えてしまう。開けっ放しにしているパソコン画面がニュース速報を伝えている。

「やつばり地震か」

 このところまた微震が戻ってきている。自然が相手なら仕方がない。通り過ぎてくれるのを待つだけだ。ふと目をずらすと別ニュースの項目が気になった。

「レッドリードの暗躍か?蛮行続く」

 どうやらこちらは狂信者集団の仕業らしい。 日中路上でグリーンのカッフルが突然集団暴行を受け、重傷を負ったらしい。 犯人グループは 「お前らの血は何色だ?」 の決まりゼリフを吐いて襲ってきたらしい。

「まるで、 アニメのヒーロー気取りだな」

 私は苦笑いをしながらも、今でも時折襲ってくる暗い記憶の影に、思わずこめかみを指で押さえる。

 もう大丈夫だ。精神科の医師も「心配ないでしよう。あとは日付薬がゆっくりと、 でも確実に治してくれますよ」 そう言ってくれた。 ノープロブレム、 ノープロブレム。恐怖を押さえつける必要はない。

 私はゆっくりと部屋の外の欅の木に目をやる。だって私にはあれ以上の恐怖は今後もあり得ないに違いないのだから。

 どうやら、風があるようだ。

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