第3話 『 道の上の日常 』

 渡部が現場に急行したとき、 辺りは或る種の興奮状態にあった。

「ちょっとどいてよ」

 細身の渡部が人混みを掻き分け入っていくと、すぐ目の前に上司の背中が見えた。

相手は振り向かなかった。どうやらご機嫌が斜めらしい。渡部は一瞬俯くと、パッと表を変え、テープをくぐった。

「お疲れ様です」

「やばいなあ」その上司の呟きに、渡部は身を引き締める。

「すみません。遅くなりました」

 今度はもっと大きな声で言った。 それでも相手は背中を向けたまま。 いくらなんでも返事くらいしてくれてもいいだろう。 少々憤慨しながら上司の横に回ろうとした時、 渡部にもその態度が理解できた。

「後藤さん、 これ…」

「殺し、だろうな。 一応」

 初めて上司の乾いた声が聞こえた。

 目の前には折り重なった二人の グリーンの死体。 しかもそれらはそれぞれその身体の一部をもぎ取られたかのように失い、絶命していた。

「これってまさか:・」

「捕食だな」

 後藤はそう言うと、その場にしやがんでまだ頭部がある方の眼に瞼を被せてやった。「どうやら犯人は菜食主義か?」

 渡部は上司の戯言に笑いかけて思わず止めた。危なかった。もし笑っていたら自分もこの場に張り倒されるところだ。渡部は無言で靴にビニルソックスを取り付ける。

 さあ、 これで三日は家に帰れない。 戸締りは大丈夫だっけ?

 渡部は自分の家のある方角を一瞬仰ぎ見た。

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