冒険者奮闘!騎士の躍動!

 門兵は絶望する。魔物の集団が現れたからだ。つまり、冒険者と騎士団がやられた可能性がある。


「そ、そんな…。」


 このままでは王都内に侵入される。そして魔物によって多くの民が蹂躙される。そんな光景が頭をよぎる。震える足をたたく。


「ここは通さない!」


 魔物たちに門番が立ちふさがった。その時、肩をたたかれた。


「よく言った。ここは任せろ。」


 振り返るとそこには王都冒険者ギルドのトップ。剣聖ムサシ・ハルトリードが立っていた。ムサシは一振りの剣を抜く。


「ここは俺に任せろ。お前は王城にこのことを伝えに行くのだ。」


「は、はい!」


 門番。カールは一目散に走った。


「さて。ここから先、そう簡単に行けると思うな!」


 魔物たちを相手に一人で対峙した。


「こいつは我が相手をする。グリフォン。カースキング。お前たちは配下を連れて目的を果たせ。」


 仮面をつけた一人の人間がそう指示を出した。


「かしこまりました。」


 王冠をかぶり、黒いマントを羽織った骸骨が返事をした。グリフォンはライオンの体に鷲の羽をもった獣だ。言語は理解するが返事はできないのでひと吠えするだけだった。彼らは指示に従い配下を動かす。もちろんムサシが待ったをかける。


「行かせるわけがないだろう。」


 ムサシは冒険者時代Sランク冒険者として活躍し剣聖と謳われるほどの剣の達人。今もなお、その実力は衰えてはいない。


 素早くグリフォンに切りかかる。グリフォンは避けるそぶりを見せない。周りの配下たちにも反応がない。だが、油断はない。なぜなら、グリフォンはSランク指定モンスター。魔物のランクの最上位に位置する存在だ。自身の最大最速の上段からの一太刀で切ろうとした。


 しかし、剣が止められた。止められたことへの驚きはない。問題は、止められ方だ。いつの間にかいた仮面の人間に剣が右手で掴まれていた。


「お前、魔族か?」


 人間業ではない。そう考えたムサシはあらゆる可能性を加味し、そう尋ねる。


「我をあのような低俗な存在と一緒にするな。」


 返事は魔族を罵る言葉だった。すでにカースキングとグリフォンは王都内に侵入した。だが、ムサシは目の前の相手から目を離さない。隙を見せれば命取りになる相手だと先ほど理解したからだ。仮面の人間は剣を離す。それと同時にムサシは後退した。


「我の名はアグニ。この名は偉大な主人から頂戴した名だ。よく覚え死んで逝くがいい。」


「俺はムサシ・ハルトリード。お前を倒す者の名だ。覚えておけ!」


 先に動いたのはムサシ。身体強化魔法を身にまとい、剣に光魔法を付与する。


「(スキル・飛来切り)!」


 連続で目の前を切る。するとアグニを光の斬撃が多数襲う。だが、避けない。


「(スキル・プロミネンスオーラ)。」


 アグニから紅い熱風が放たれた。それはアグニを中心に球体となり回転している。周囲にはありえないほどの熱を放つ。まるで小さな太陽。光の斬撃はそれに飲み込まれた。


「くっ。近づけない。(スキル・環境適応)。」


 ムサシの体から汗が引く。


「(スキル・飛来一線抜刀)!」


 今度は剣に水魔法を付与した。さらに先ほど分散させた斬撃を一振りに集約した。だが、斬撃はどんどん蒸発し、ついには消えた。


「俺の魔力量じゃ抜けない。」


 ムサシは基本属性を網羅しており、それを剣に付与して戦う。単純な剣の腕は一流だが魔力量が少なかった。それを付与斬撃という形でカバーした。


 しかし、基本魔法は込められた魔力量で威力が決まる。鋭く放つことで今まで通用してきた。実際グリフォンやカースキングであれば通用しただろう。だが、アグニには通用しなかった。


「貴様は我相手には役不足。ここまでだ。(太陽魔法・太陽砲炎球)。」


「太陽魔法だと!」


 アグニの正体に勘付き驚く。それは大きな隙となった。アグニは指先にできた小さな炎の球をムサシに飛ばす。ムサシは自分を水魔法で囲う。


 アグニが放った小さな炎の球はムサシにぶつかると急速に拡大し、水魔法を蒸発させ、ムサシを中心に炎の球体を作った。その炎はムサシを地面ごと燃やし尽くした。そして、球体は徐々に元のサイズに戻り、アグニの指先に再び帰った。


「ふっ。」


 その炎はアグニが息を吹きかけると簡単に消えた。


「さて、私も向かうか。ご主人様は楽しんでおられるだろうか。」


 そう言って平然と王都内に歩いて向かった。





「そんなっ!!」


 急いで王都に向かう途中でカリーナが驚きの声をあげた。


「どうした??」


 走りながらカレンが問う。


「先ほど戦闘を行っていたと思われるギルド長の気配が…、消えました。そして、王都内に多数の魔物の気配がします。」


 カレンは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


「まさか、ムサシを倒せる魔物がいるとは…。」


「ムサシがやられただとっ。」


 一方ニーチャは驚いた。単純な剣において最強の男が倒されたのだ。魔法込みで戦えば自分が勝つが、魔法なしの場合絶対に勝てない。そんな男が負けたのだ。


「ムサシが勝てない相手かー。」


 ラーナは強い相手と戦うことしか考えていなかった。


「とにかく急ぐぞ。もうすぐだっ!」


 元(花鳥風月)たちは一段とスピードを上げた。





 門から王城へは一本道だ。ずっと真っ直ぐ進むだけ。それだけに攻めやすい。だが、守りやすくもある。カースキングとグリフォン達はアグニの指示に沿って真っすぐ進んだ。


「手ごたえのある相手はまだ来ませんね。」


 身の丈以上の鎌を振り下ろして兵士を切り裂いていく。グリフォンは兵士を鎧ごと踏みつぶす。二人の配下たちは逃げ遅れた住民を見つけては殺していた。


「ようやくお出ましですね。」


 前方に騎士団が待ち構えていた。先頭には二人の騎士がいる。カースキングとグリフォンは警戒する。王都内に入って初めて警戒した。理由は簡単だ。二人のうち長槍を持った方はたいしたことはない。だが、もう片方の盾を持った騎士は別格だ。おそらく、先ほどのギルド長よりも強い。


「ミハエル。あなたは雑魚の相手をしなさい。私がそこの2体をやります。」


「かしこまりました。カノール様。ご武運を。」


 ミハエルは槍を構える。それは電気を纏っており、かすっただけでもダメージが入る構造になっていた。


「雑魚を片付けるぞ。ついてこい。」


 ミハエルに続いて騎士団は剣を構え、魔物たちへ向かって攻撃を開始した。騎士団たちの実力はすさまじかった。誰一人魔物にやられることなく連携し倒していた。


「さて、私たちは進まねばなりませんので、どいていただけませんか?」


 声帯のない骸骨がどこからか声をだす。


「あなた方はこの先には進めません。ここで朽ち果てるのだから。」


 カノールは剣を抜く。それはきれいな装飾が施されていた。汚れや刃こぼれ一つなかった。


「(暴風魔法・螺旋風神槍)。」


 風が螺旋状に剣を覆いそれは剣ではなくランスの様に鋭くなった。斬るではなく突くことに特化した武器に変わった。盾とランスを構える。


「希少魔法ですか。厄介ですね。」


 カースキングは観察するがグリフォンは違った。強く地面を蹴りカノールへと突進する。寸前に迫ると前足で踏みつぶす。


「(暴風魔法・嵐脚)。」


 カノールの軸足に風が纏う。ジェットの様に後方に風が噴射した。その勢いのままグリフォンを突き刺した。まさに一撃必殺。見事なカウンターで串刺しにした。ドサッとグリフォンは倒れる。


「あなたもこれと同じようにしてあげます。」


 鋭い視線がカースキングを突き刺す。


「面白い。」


 カースキングは強者との戦いに高揚した。


 カノールとカースキングの戦いはカノール優勢で進んでいた。鎌は盾で防がれる。一方ランスの一撃は重く鋭い。カースキングの強さは強靭な一撃と魔法耐性にあるが、どちらもカノールに凌駕されていた。


「これで終わりです。」


 ランスが頭蓋骨を砕いた。スケルトン系の魔物は魔核を砕かれたときに死ぬ。カースキングの魔核は脳の場所にあった。カノールはそれを見抜いていた。


「なかなかの強さでした。」


 魔法を解除し剣を鞘に納めた。

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