緊急依頼!集う実力者たち!

 ギルドに冒険者パーティーが駆け込んできた。パーティー名は(心の剣)。王都に来てからそう経っていないが、実力、人間性を兼ね備えたパーティーとして信頼されている。そのパーティーリーダーのアインが信じられないことを口にした。


「魔物の軍勢が森に集結している!ギルド長を早く呼んでくれ!」


 ギルドの者ほとんどが困惑している。そんなことは過去なかったからだ。強力な魔物が単体。または数体というのはあったが軍勢を作るというのは聞いたことがなかった。


 ただし、Cランク以下に限る。Bランク以上の冒険者は知っていた。多くの魔物を従わせることができるのは種族として上位の者にだけ可能なのだと。つまり、魔物の中でも竜種を含めた上位種が率いてきた可能性があるのだ。


「落ち着いて状況を説明してください。あなた!一応ギルド長に伝えて。」


カリーナはいち早く行動した。そして、アインたちから話を聞く。


「俺たちは討伐依頼で森に行っていた。だが、いつも通り森を探索しても獲物が見つからなかった。だから、いつもよりも少し深く潜った。そこで魔物の軍勢を確認した。さらに言葉を話せる者も確認した。」


 その話と様子をみて信憑性は極めて高いと判断する。そこに副ギルド長カレン・アガーが来る。


「カリーナ。緊急依頼だ。Cランク以上を招集しろ。」


 そこで疑問に思う。話だけでは決め手に欠けると。


「ですが。」


 その疑問を遮るように続けた。


「王城からも情報が来た。騎士団と同時に討伐する。」


 そこまでの規模かと驚愕する。王国最大の武力を使うほどに危機感を女王は抱いているのだ。


「わかりました。ではこれよりCランク以上は強制招集となります。これに応じない場合は厳しい処罰の対象となりますので注意を!」


 ギルド内全てに聞こえるように声をあげた。


「準備ができたものから南門に集合してください。詳しい話はそこで責任者が話します。」


 それを聞いたCランク以上には拒否権はない。緊急依頼が出ると街の出入りも厳しく管理されるため、そもそも逃げようとするものは少ない。


「これでよかったですか?」


「あぁ上出来だ。さて、私たちも向かうぞ。ギルド職員も戦闘のできる者は連れて来いと王城からの命令だ。」


「わかりました。久しぶりですね。リーダー!」


「ふっ。今は副ギルド長だ。」


 そうして冒険者たちは各々準備をし、1時間後には集結していた。




 南門には約50人の冒険者、100人近くの騎士団がいた。冒険者と騎士団の間に確執はない。なぜなら互いを率いている者達が、王国屈指の強者だからだ。冒険者側は(白狼の牙)や(青海の守護者)などのAランク冒険者たちが先頭集団におり、それを女性二人が率いていた。カリーナと副ギルド長カレン・アガーだ。


「あれが元Sランクパーティー(花鳥風月)のメンバーか。」


 騎士団の方から声が上がる。Sランクと言うのは冒険者の中で最強の一角を意味している。誰もが憧れ、誰もが畏怖する存在なのだ。また、騎士団にも冒険者あがりがいることも大きな要因だ。


 一方でほとんどの冒険者は、騎士団の先頭に立つ2人を見た。五芒星と言われる王国騎士団において最強の存在。それぞれがSランク冒険者と同等以上の強さと言われている。それが、二人。その二人が(花鳥風月)の二人に近づく。


「やっほー!元気だった?」


久しぶりだな!」


五芒星の二人が気さくに声をかけた。


 お久しぶりです!ラーナさん、ニーチャさん。」


「久しぶりだな、二人とも。」


 そう。この二人は元冒険者で(花鳥風月)のメンバー。ラーナ・アルシュタインとニーチャ・トーノだ。(花鳥風月)はこの4人ともう一人で構成されていたが、もう1人は行方が分からなくなっている。ただ、以前からふらっと旅に行くタイプだったのでメンバーはさほど気にしていない。


「お前たちが駆り出されるってことは私が思っていた以上の事態が起こっているということか。」


 先ほどのような和やかな雰囲気が消えた。


「うん。結構やばいくらいの魔物が何体かいるらしいよ。」


 ラーナは天才肌であまり頭がよくなく話も要領を得なかった。そこでニーチャが補足する。


「現在魔物の軍勢は2つに分かれてこの王都にゆっくりと接近している。それぞれに指揮官が存在していると見ている。それを討伐するのが我々の役目だ。」


「なるほど。了解した。それと今回の緊急依頼の報酬は国持ちなのだな?」


 さすが副ギルド長。その辺はしっかりしている。


「あぁそう聞いている。」


「わかった。それと森に関しては冒険者の方が慣れていると思うが編成はどうする?」


「カレンの言う通り斥候などは任せたい。騎士団の強さは連携にある。戦闘をするなら少し広いところがいい。」


 それならと話を聞いていたカリーナが地図を取り出した。


「では、ここがいいと思いますよ。少し進んだところに草原があります。そこで迎え撃つというのはどうでしょう?」


 反論はなかった。


「決まりだね。ならさっそくいこうよ!」


「そうだな。準備は早い方がいい。」


 人数の多い騎士団の方に最大限の力を発揮させるのが効率よく戦闘ができる。そう判断したカレンとカリーナは賛成し、そこが戦地に決まった。




 宿にて。


「おそらくここが戦地になると思います。今回のゲームの勝利条件は王城の敷地に入ること。冒険者たちを集結させることがこの軍勢の目的でしたが、まさか騎士団が出てくるとは。うれしい誤算でした。」


 ミカは宿で淡々と話す。エルはそこから付け足す。


「ある程度消耗させたところで敏捷性の高い魔物とちょっと強い魔物で王都に入る予定よ。それと、ご主人様は私たちと空で観戦よ。」


「うん。あっ一応これ着けようか。雰囲気って大事だし。裏で糸を引いている感じの。盛り上がったら3人で参加しようか!」


 そう言ってシオンは仮面を渡す。二人はふふっと笑いそれをつける。ちなみにイグニールにも渡してある。イグニールは今回の魔物軍のボスだ。


「じゃあ、始めようか。」


 三人は愉快に笑った。





 大魔の森には多くの魔物が生息しており、奥に行けば行くほど魔物は凶悪になる。また、その中でも上位の存在は言葉も理解して話す。こんかいの軍勢を率いているのもこの知能がある魔物による仕業と考えられていた。


「ここまで統制されているのか。」


 ニーチャは呟く。


「確かにこれは驚くべきことだが、練度はないだろう。あまり気にしすぎるな。」


 カレンの言葉は正しかった。今でこそある程度の隊列が整っているが、所詮は魔物。いざ戦いになったら暴れるだけだ。


「二人とも。動くよ。」


 ラーナの声に反応し全員の目が向く。前方には二つの軍。片方は獣型、遠目で見るとファングボアの上位版であるヘビーボアが多い。一方はヒト型はオークの上位ドスオークが多い。ヒト型の方が動いた。ガァァァァ!!という怒号を一斉にあげる。そして、走り出した。


「我々もいくぞ!!」


 ニーチャの声に合わせこちらも一斉に走った。そしてついに始まった。互いに先頭がぶつかった。冒険者・騎士団側の先陣はAランク冒険者パーティー(白狼の牙)だ。矢のごとく真っ直ぐ敵陣を貫こうとするが、数で防がれる。だが、最初のぶつかり合いは勝利と言っていいだろう。次に大きな水龍が魔物たちを飲み込む。(青海の守護者)の合成魔法だ。それは大きく口をあけ、魔物たちに大きな被害をもたらし消えた。


 その後は乱戦となる。Aランクパーティーがいったん下がった瞬間に突っ込んだのはラーナだ。双剣をもち、素早く切り裂いていく。動きは洗練されているというより獣に近い。体を低くし相手の懐に入り素早く切り裂くだけだ。


「こんな程度じゃ満足できないよー。」


 そうラーナは戦闘狂だ。ドスオークを次々に切り裂きながらできるだけ強い魔物を探しそこに行く。だが、手ごたえがありそうなのは発見できない。


「つまんないなぁ。」


 戦闘開始からかなり経った。まだまだ魔物はいるが、すでにヘビーボア主体の獣の軍も参戦しており、あとは時間の問題という状況になっていた。騎士団と冒険者がしっかりと協力し、戦うため、かなり優位だ。だが、魔物側の指揮官はまだ発見できない。(花鳥風月)のメンバーは指揮官をあぶりだすため奮闘する。


「カリーナ!まだ見つけられないか?」


 カリーナは(スキル・気配察知)を持っており、強大な敵の居場所をいち早く掴むことができる。そして、カリーナはその気配がここにはないことを確信し困惑した。


「い、いえ。先ほどから何回も確認しているのですが、おそらく、ここにはそこまで強い魔物はいないと思いますし、隠れていることもないと思います。」


 カレンとニーチャは周りを見渡す。確かに魔物は多い。だが、それだけだ。ほとんど全てこちらが圧倒する形で冒険者と騎士団は魔物を倒している。


「ニーチャ。何かがおかしい。私の考えを話す前にお前の考えを聞かせてくれ。」


 真剣な眼差しでそういったカレンを見つめ返したニーチャは確信めいた様子で返答した。


「カレンと同じだと思う。我々はここに誘い出されているのかもしれない。そして敵の本当の目的は王都そのもの。」


「やはりか。カリーナ!気配察知は王都まで届くか?」


 ニーチャの発言に驚きながらも思考を切り替える。


「少し待ってください。………町に直接に向かっている魔物がいます!二つの気配を確認しました!おそらく今回の魔物の中で一番強力です。」


 カレンは瞬時に考える。少数でないと間に合わない。


「私たちだけで行くぞ。ラーナ!来い!強い魔物がいるぞ!」


 そう叫ぶと遠くから「どこーー!!」とラーナが猛スピードで走ってきた。


「よし。行くぞ!」 


「はい!」


「あぁ。」


「おーーう!」


 三者三様に気合をいれ、最高速で走った。

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