パーティー結成!そして始まる大侵攻!
宿への帰り道。イグニールは少し寄り道をすると言って薄暗い路地にティナを連れ入っていく。すると後ろから下品な笑いと共に5人の男が近づいてきた。
「げへへ、痛い目見たくなかったら金をおいていきな。」
そう言って5人は笑う。だがイグニールはそちらに目も向けない。
「少し離れていろ。私の希少魔法を見せてやる。瞬殺だ、よく見ておけ。」
ティナは言われたとおりにする。
「なんだとてめえ!やっちまうぞ!」
聞こえていたのか短気な5人は武器を取る。イグニールはあきれるほどの単細胞だと思いながら無詠唱で(プロミネンス・弱)を発動する。その炎は周囲の温度をあげながらそれぞれ5人にぶつかり、一瞬で5人を消し炭にした。
だが何故か炎はあと3つ余っていた。それは突然上昇し何者かにぶつかった。そして声をあげる間もなく、同様に消し炭となった。その者たちはギルドの諜報員である。それぞれがBランク級の力量があったが、イグニールからすれば相手にもならない。
「今のが、イグニールさんの希少魔法…。」
ティナがイグニールに聞く。
「私の希少魔法。太陽魔法だ。」
「すごい魔法です!うらやましいなぁ。」
この世界において命の扱いはとても軽い。そういう倫理観が一般的だ。冒険者間での争いをギルドは建物内以外認知しない。これが一般的である。ただ、冒険者の中にも重く命を考える者もいるが、今は置いておく。
「ティナの魔法も努力次第でどこまでも強くなるだろう。」
「そうなんですか?」
ティナはあまり信じていないようだった。だがイグニールは自信を持っていた。
「あぁ。シオン様がティナを欲しいというくらいだ。まあいい。それじゃあ帰るか。」
そう言って歩き出す。
「え?欲しいってどういう…。あっイグニールさん待って。」
ティナは頬を赤くしながら宿に帰った。
ギルド長室は静かだった。人がいないわけではない。そこには、ギルド長、副ギルド長、ギルド職員の三人がいた。
「諜報部員との連絡が途絶えています。おそらくは…。」
「そうか。悪手だったかもしれん。金輪際ギルドはあの冒険者についての調査をしないものとする。ただ、二人には目を光らせておいてほしい。」
ギルド長はそう二人に告げる。
「わかりました。」
「わかった。」
再び部屋は静かになった。
ここはトウカ和国の王城の応接室。リヒト・セルマーの要請にイシュタルは応じ、こうして王の元に足を運んだ。ここには、イシュタルが神であることを知っている者しかいない。
「ジオラ。今回の大地震には神が関わっています。」
王は驚く。そして同時になぜだとも思う。
「何故、このようなことを?」
「私にもわかりませんが、アイデアルからそのことで話があるそうです。ではお願い。」
イシュタルの後ろに控えていたアイデアルが前に出る。そして全体を見渡す。イシュタルの後ろには守護天使二人。王側には騎士団長と宰相がいた。
「心して聞いてほしい…。まず初めに、大地震についてだが、大方の予想通り神による魔法だ。その理由は、できそうだったから…だそうだ。」
話を聞いていた全員が硬直した。そして激怒した。
「そんなことで!死者も出ているのだぞ!!」
「ジオラ!落ち着きなさい。アイデアル。話の続きを。」
掴みかかる勢いの王を止めたイシュタルは話の続きを促した。
「降臨された神の名はシオン。私の印象を言わせてもらうと…。子供のような方だ。おそらくこれからも自分がやりたいと思ったことを積極的に、何のためらいもなく行うだろう。」
ここで、イシュタルの守護天使二人が発言する。
「守護天使は何をしているんだ?止めなかったのか?」
「それだ。今回の1番の問題がそれなのだ…。お前たち二人にもかかわることだ。アロン、カロン。」
アイデアルは今まで以上に真剣な眼差しで二人を見る。先ほどから真剣に聞いていたアロンは特に何も変わらなかったが、思いが伝わったのかカロンもいつもとは違い真剣な顔になっていた。
「それで、どうしたというんだ?」
アロンの問いにアイデアルは答えた。
「シオン様の守護天使はミカエル様とサマエル様だ……。そしてその二人はシオン様を溺愛している。」
これにその二人を知っているアロン、カロン。さらに冷静なイシュタルでさえ開いた口がふさがらない。事情を知らない王たちは困惑する。
「一体誰なのですか?」
いち早く正気に戻ったイシュタルが説明した。
「…天界において武力の面で右に出るもの無しと言われるほどの二人よ。でもなぜ?なぜ今回の神の呼びかけに応じたの…。」
「それはわかりません。そしてここからはこの国に関わることです。」
国と聞いて全員がアイデアルの方を向くそれを確認しゆっくりと口を開いた。
「シオン様の次の目的は自身と同じ神を見ることだとおっしゃった。つまり、あの方達の次の目的地はここだ。そして言づてがある。」
イシュタル達は誰からの言づてかを察する。そして案の定二人の大天使からだった。
「シオン様に対して一切の無礼を許さないそうだ。そして、もしシオン様が気分を害されるようなことがあれば、大天使の怒りが我々にぶつけられる。」
王は事が深刻なことはわかるものの、大天使というものが理解できない。
「その神たちは危険ではないですか?いっそ戦うという選択肢も」
そう言ったところでアロン、カロンが大きく声を荒げた。
「そんなことできるわけがない!お前は大天使のことが分かっていない!!」
「天使とは次元が違うのよ!」
二人をたしなめながらイシュタルが王に対して発言した。
「正直戦うという選択肢はあり得ないわ。大地震を起こせる神だけでも戦うとなれば難しいだろうし、それに大天使二人となると。」
「もう一人。我が妹イグニールもあちら側につく。」
王はそこまでなのかと驚く。
「満足して他の地へ行くのを待つしかないわね。アイデアル、その神たちがこの国に来たらすぐに会うことにするから教えて。この国に力が降りかからない様に私たちで何とかするしかありません。」
「国としても最大限協力します。」
こうしてシオン達が訪れることが伝えられ、その日に向けて準備するのであった。
「ご主人様。イグニール達が帰ってきました。」
シオンは今日一日をやすらぎ亭で過ごした。何もしていなかったわけではなく、室内でも可能な魔力操作の練習をしていた。
「そっか。通して。」
シオン達の部屋にイグニール達が入ってくる。
「今日はどんなことがあった?」
シオンがすぐに話を聞く。そして今日1日の出来事を聞く。
「王都のギルドはいいな。あと襲われるってのも面白そうな体験だな。明日は俺もギルドに行くよ!」
シオンが明確にしたことで明日の全員の予定が決まった。そして夜が明ける。
その日ギルドはざわついていた。原因はもちろんシオン一行だった。一人の少年に美女数人が侍っているのだ。目立たないわけがない。幸いここはギルド内。絡んでくる者はいなかった。
「王都のギルドはでかいな。」
そう言ってシオンは話に聞いていたカリーナの受付に行った。
「Dランク冒険者のイグニールだ。討伐依頼を用意してくれ。」
カリーナは昨日パーティーの誘いを断っていたイグニールが集団で来たこと、そしてその集団の容姿に驚きながらも、渡されたギルドカードを確認する。
「確認しました。少々お待ちください。」
依頼を用意していると少年が声をかけてきた。
「君がカリーナ?聞いてた通り美人だねぇ。」
突然のことで驚いたものの笑顔で返事する。
「ありがとう。僕はお姉ちゃんたちの付き添い?」
まさかシオンが一番偉いとは思わない彼女は聞いた。
「そんなところかな。」
「そうなんだぁ。偉いねぇ。イグニールさん、こちらが今出ている討伐依頼です。それと皆さんでパーティー申請なさいますか?」
それにシオンが同意する。
「みんなでパーティー申請しようか。リーダーはイグニールね!」
それに驚くイグニール。異を唱えるのをグッと抑えて返事をした。シオンの言ったことが絶対なのだ。
「かしこまりました。…そういうことだ。パーティー申請をする。どうすればいい?」
ここでようやく力関係に気づいたカリーナは戸惑いながらも仕事をする。
「ではまず皆さんのギルドカードを貸してください。」
エルがシオンと自分、そしてミカの分をまとめて出す。その後にティナが出した。
「パーティー名はどうしますか?」
それにはイグニールが素早く反応した。
「これは私には決められません。」
「そうだなぁ。……(箱庭の旅団)にしようか。」
皆から同意の声が上がり決定した。
「ではリーダーをイグニールさんとして(箱庭の旅団)でパーティー申請します。…はい。完了です。」
こうしてDランクパーティー(箱庭の旅団)が結成された。
「ファングボアが見たい!」
そしてこの一言で依頼が決まった。この日から数日はシオンが見たい魔物の依頼を受けるという形で過ごした。その裏でエルとミカはシオンのため準備を進めていた。
王都に来て約半月が過ぎた。いろいろな魔物を見たりとても楽しかったがだんだんと飽きてきた。そう思いながらミカとエルと一緒にお風呂に入っていた。しかし、シオンがそう考えているのも二人にはお見通しだ。
「ご主人様。そろそろ刺激が欲しいでしょ?」
エルがそう切り出した。
「うん。ちょっと王都飽きてきたよ。」
「ご主人様。準備はできています。明日、決行しますがよろしいでしょうか。」
エルとミカに笑顔を向ける。
「もちろん!」
こうして後にアルテミア王国の歴史に残った魔物による侵攻。(大魔大侵攻)が始まる。
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