試験終了!強いぞ竜は!

 訓練場には50人ほど、冒険者志望の人たちがいた。割合は意外なことに男女半々だ。これはこの国の特色が前面に現れていた。程なくして数人の男女が声をかけた。


「これより冒険者登録及びランク決定のための試験を始める!」


 大勢の目つきが変わった。しかし、イグニールは何も変わらない。Aランク冒険者が入ってきた時点で大体の力量を把握して、その結果簡単に試験を突破できると判断したからだ。


「俺が今回の試験監督を担当することになった。(白狼の牙)のリーダー、ハルスだ。皆には2つのグループに分かれてもらう。前衛と後衛だ。じゃあさっそくわかれてくれ。」


 参加者たちは各々分かれる。見たところ前衛の方が人数が多く時間がかかりそうだ。それを判断したイグニールは後衛の試験を受けると決めた。



「それじゃあ、各自試験管の指示に従って、始めてくれ!」


「後衛の試験について説明するわ!」


 そう言ったのは青い髪の女だった。


「私は(青海の守護者)のリーダー、セレンよ。皆には私と私のパーティーメンバーの魔術師と戦ってもらうわ!1人持ち時間は3分。その間に自分の全てをぶつけなさい!それじゃあ後衛は3グループに分かれて行うわ。」


 そして、試験管3人の元にそれぞれ5人ずつくらいが並ぶ。イグニールはセレンのグループの最後尾に並んだ。並びは番号札の早い順だ。


「じゃあ、私たちも始めるわよ。ルールは魔法と体術のみの戦いとなるわ。次の順番の人はそばで待ってもらうけどそのほかは休憩していいわよ。」


 そう言われたのでイグニールは早々に観覧席にいるティナの元へ歩いて行った。後ろでは1人目が始まったようだ。


「イグニールさん。どうしたんですか?」


「時間があるからな。暇つぶしに来た。」


 ティナはそれに苦笑した。


 試験官は(青海の守護者)のセレンさんですか。」


「知っているのか?」


 ティナは元気いっぱいに話す。


「はい!とても有名ですよ。(青海の守護者)は魔法使い主体のパーティーで属性もほとんどの方が水だそうです。イグニールさんは何の属性なんですか?」


「私は希少魔法が使える。属性については…、おっとそろそろ私の番が近いようだ。それではティナ、行ってくる。」


「気になりますが、行ってらっしゃい!」


 思いの他試験が早く終わっているらしい。イグニールが戻ると4番目がもう始めていた。


「火よ、わが手に集まれ!(火球)!」


「魔力操作があまいわね。(水壁)!」


 さすがAランクと言ったところか。セレンは詠唱破棄が使えるようだ。


 その後一方的な展開となりセレンが圧勝した。


「あなたはEランクね。魔法使いでも体術は練習しといたほうがいいわよ?はいこれ。これを受付に渡して。」


「はい!ありがとうございました!」


 紙をもらい4番目の志望者はギルドの方へ向かった。


「それじゃあ次はあなたね。ルールは覚えているかしら?」


「あぁ。」


「じゃあ試験を始めるわ。今から3分よ。……始め!」


 イグニールは動かない。セレンの魔法を待っているようだった。


「先手を譲るとはずいぶん余裕かましてるわね。それじゃあこっちから行くわよ。(水槍・2連)!」


 2つの水でできた槍がイグニールへと向かう。しかしイグニールは動かない。セレンはその様子に驚き魔法を解除しようとするが、その瞬間、周囲の気温が一気に上昇し、水槍が蒸発した。


「えっ?」


 セレンを含めた周囲の人間も何が起こったか理解できない。


「どうした?そんなものでは話にもならないぞ?」


 そう言われて黙っているセレンではない。


「いいわ。次はこれよ!(水龍・5連)!」


 先ほどとは比べるまでもなく強力な魔法がイグニールへと向かっていった。するとイグニールは人差し指を水龍に向けた。


「くだらん。(プロミネンス・100分の1)。」


 指先から小さな炎が現れすぐに水龍5体とぶつかる。次の瞬間には水龍は蒸発しなくなっていた。セレンは驚きのあまり動けない。本気ではなかったものの、Cランク冒険者を余裕で屠れる程度に魔力を込めたからだ。


「なっ!あなた一体?」


「次はこちらから行く。(太陽砲・100分の1)。」


 魔法が指先に完成される。その瞬間Aランク冒険者の直感がやばいと告げる。しかし、魔法が放たれる直前に声が響き渡った。


「試験終了だ!」


 イグニールは魔法を指先にとどめたまま、声を発した男に声をかけた。


「まだ3分たっていない。」


「あぁ。だが、先程の魔法を防いだ時点でお前はDランクの資格があるとギルド長である俺が判断した。だからまずはその物騒な魔法を解除しろ。」


「そういうことならば。」


 イグニールは魔法を解除した。


「セレンご苦労だった。後は俺が引き継ぐ。」


「わかりました。」


「ついてこい。話がある。」


「連れがいる。長くはかけられない。」


 ギルド長は少し考えた後、


「ならその連れも一緒だ。」


 イグニールはティナの元へ行き事情を説明した。ティナは理解が追い付かずにポカンとしていたが、強引にイグニールに連れていかれた。ギルド長室に入るとイグニールとティナはソファに座るように促された。


「そこに座れ。」


 職員が二人の前にお茶を置いた。


「俺がこの王都冒険者ギルドのギルド長。ムサシ・ハルトリードだ。単刀直入に言う。お前をBランクで登録する。いいな?」


 この処置は前代未聞の事例だった。過去にCランクからというのは何件かあったがBランクは初めてだったからだ。その場にいた職員とティナは驚くとともに返事は聞くまでもないだろうと思っていたが、イグニールからは予想外の返事が返った。


「断る。Dランク以上になるつもりはない。」


 ティナは驚いてイグニールの顔を二度見した。だがムサシは冷静に質問をした。


「緊急依頼か?」


「あぁそうだ。さっさとギルドカードを作れ。私は依頼を受けねばならん。」


 ムサシはイグニールの今の返答で彼女が誰かに仕えている。または雇われているのだと感じた。


「受けねばならんとは?誰かに仕えているのか?それとも雇われているのか?」


「くどい。あまり私を怒らせるな。」


 そう言った瞬間、ムサシの周囲だけ気温が上昇した。


「わかった!これを受付に渡せ。そうすればギルドカードを作れる。」


「ふん。ティナ、行くぞ。」


 イグニールはティナを連れ受付に行った。


 ムサシはギルド職員に話す。


「おい。あの女の身元を調査しろ。」


「了解しました。」


 職員はそうして部屋から出ていった。


「裏には誰かがいる…。」


 ギルド長はそう呟き報告を待つことにした。


「はい。ギルドカードです。それと今受けられる仕事はこれですね。」


 受付嬢のカリーナからギルドカードを受け取る。


「では、ファングボアの討伐依頼を受ける。」


「かしこまりました。ですが、くれぐれもティナちゃんのことをお願いしますね!」


「あぁわかっている。ティナ、いくぞ。」


 イグニールはティナを連れギルドを出ようとしたとき、冒険者から勧誘の声がかかった。


「君!ちょっといいかな。僕はCランクパーティー(生命の大樹)のリーダー、ファルスだ。ぜひ君に僕のパーティーに入ってほしいんだ。」


「断る。」


 イグニールはその男を見もしないで断る。その男は断られると思っていなかったのか、唖然とする。


 「どうしてだい?ソロでやるのは限界があるから、パーティーに入った方がいいと思うけど。」


 その後もくどくど勧誘を続ける。そして、イグニールの我慢の限界が訪れかけた時、女性が割って入った。


「あなた、過度な勧誘は禁止よ。」


 Aランク冒険者のセレンだった。納得はしていなかったが、相手が悪いと感じたのかファルスは引き下がった。


「余計なお世話だったかしら?あなたは即Dランクだったからこれからも勧誘に気を付けた方がいいわ。」


「いや、助かった。そうか。じゃあ私は行く。」


 このやり取りの間ティナは驚き過ぎてまったくついていけていない。


「待って。ファングボアの討伐に行くんでしょ?探すのにコツがいるから手伝うわよ?」


 イグニールは即座に自分で探すのと手伝ってもらうのかどちらが効率的かを考える。


「わかった。なら行くぞ。」


 こうしてイグニールとティナ、セレンはファングボア討伐に向かった。




「(太陽砲・200分の1)。」


 突進してきたファングボアの眉間を魔法が貫く。もちろんイグニールだ。ちなみにイグニールは竜の気配を完全に断っているため魔物が攻撃してくるが、本来なら気配に気づいた瞬間に即刻逃げ出す。


「さすがね。Dランクモンスターじゃ相手にもならないか。」


「す、すごいです!イグニールさん!」


 ティナはイグニールの強さに相当驚いた。


 ある程度ファングボアを狩った後、夕暮れが近いので急いで帰った。帰りの道中、セレンからの質問攻めにあった。勧誘に関しては、とっくに断った。


「希少魔法よね?どんな魔法なの?」


「答えるわけがないだろう。」


 多くの質問をしているがほとんど返答はこんな感じだ。だからセレンはティナと会話することにした。


「ティナちゃんはイグニールとどこで会ったの?」


 突然話を振られ反応が遅れる。


「…あっ。イグニールさんたちとはちょうどこの辺で会いました。」 


「ん?イグニールには仲間がいるんだ。」


 イグニールは眉をひそめる。


「詮索はやめろ。ティナもあまりしゃべりすぎるなよ?」


「は、はい!」


「ごめん、ごめん。イグニールの強さに興味があったのよ。」


 そんなやり取りをしているうちにギルドに着く。ギルド内は少し混んでいた。


「それじゃあ私はここで。また機会があればよろしくね!」


「ありがとうございました!」


 ティナは元気よくお礼を言うが、イグニールからは特に反応はなかった。そして、カリーナの受付に並ぶ。ようやく自分たちの番がくる。


「行ってきた。証明部位はどこにだせばいい?」


「こちらにお願いします。」


「ティナ、頼む。」


 ティナが魔法で小さくしていたファングボアの牙を元のサイズに戻し、5つ置いた。


「5体分ですね。では、報酬です。銀貨2枚となります。」


 イグニールが受け取り、ティナに一枚渡す。


「こんなにもらえません!!」


「いや、受け取っておけ。2人の時の報酬は半々だと言われている。」


 その言葉を聞き絶対にこの意見を曲げないという意思を感じとりあえずもらっておくことにした。そうして2人はギルドから出たが、その後に続いて数人の冒険者がついて行った。

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