冒険者ギルドへ!そして過保護な守護天使!

 冒険者ギルドは大きな木造二階建てだ。一階は受付カウンターと酒場になっており、二階は、ギルド長室などがある。ギルドの裏には、訓練場があり、いかにもありがちな作りになっている。


  今日もギルドの中は騒がしい。


「依頼を受けたいんだ。いいかい?」


 と青年はカウンターに座っている女性にカードを渡し話しかけた。


「はい。確認しました。Cランク冒険者のアイン様ですね。どのような依頼をお探しですか?」


 冒険者にはランクがF~SSまで存在する。このアインという青年は、冒険者になって数年でここまでランクを上げた若手の有望株である。


「王都行きの護衛依頼はないかな?」


「少々お待ちください。…ありました。商人からの依頼です。お受けになりますか?」


 アインは依頼書を受け取る。


「どれどれ…少し待っててもらえるかな?パーティーのみんなと相談してくるよ。」


 受付嬢は返事を聞き、アインは酒場へと向かった。




 酒場につくとアインに声がかかった。


「こっちだ。依頼はどうだった?」


 そこには、大きな盾が目立つ男と格闘家らしい女、そして、エルフの女性がいた。


「あぁ、あったよ。」


 アインはそう言って席についた。


「商人からの護衛依頼だよ。他のパーティーと組んでこなすパターンだね。報酬は少し安いが受けようと思うけど、どう?」


アインの問いに髪をポニーテールにまとめた格闘家の女が答える。


「いんじゃない。そもそも王都のランク昇格試験が一番の目的なんだから。」


「ターニャは賛成か。二人はどうだ?」


 アインは、エルフと男に聞く。


「私も賛成かな。」


 とエルフが答える。


「セラも賛成か。ジンは?」


「俺も賛成だ。」


「よしっ、じゃあ受注してくるよ。」


 そう言ってアインは再び酒場から出ていった。


 この4人は、『心の剣』というCランクパーティー。さらに4人全員がCランクだ。前回の依頼でBランクへの条件をクリアし、王都で行われる昇格試験を受けに行こうとしていた。




 アインがメンバー達と相談をしていた時、シオン達は冒険者ギルドの目の前に来ていた。


「立派な建物だね。さっそく入ろうか。」


 そうして三人はギルドに入っていく。ギルドに入ると正面奥に受付がある。どうやら冒険者は仕事時だったらしい。受付には並んでいなかった。


「冒険者になりたいんだけどいいかな?」


 シオンは獣人族の女性に話しかけた。


 ちなみに受付嬢は、給料がよく人気ではあるが、容姿がよく、ある程度の対人戦闘が身についていなければなることのできない狭き門である。


「はい!では、この用紙に必要事項をお書きください。代筆も可能ですがどうされますか?」


 そう言って名前、種族、職業を書き込む紙を3人に渡してきた。


「代筆は大丈夫。職業はどうして書くの?」


「パーティーを募集したい方のためです。」


「なら書かなくてもいいんだ。」


「はい。記入しなくても問題ありません。」


「二人は書けた?はい、これでどうかな?」


 シオンはまとめて三人分を受付嬢に渡した。


「確認しました。では最後に犯罪履歴を調べますのでこの水晶に手をおいていただけますか?」


 受付嬢がそう言った瞬間シオンの後ろからものすごい殺気がギルド全体に放たれた。


 一瞬にしてギルドは静かになる。ある者は震え、ある者は気絶し、ある者は自らの武器にてをかけた。まじかでその殺気を受けた受付嬢は、元Cランク冒険者だったのだが、顔を青ざめて動けないでいた。


 少しばかりの時が過ぎ、気が付けばその殺気は何事もなかったかのように感じられなくなっていた。また、エルが(スキル・知覚妨害)を使ったらしく殺気の発生源はどこかばれなかった。


「失礼しました。」「ごめんなさいね。」


 二人が声はシオンに声をかける。


「ん?気にしないで。」


 実際シオンだけには殺気が当たっていなかったので何が起こったかはあまりわかっていなかったが2人から急激に怒りの感情が膨れ上がったのを感じたため、なだめるための発言だった。そう。今の殺気は2人からあふれ出したものだった。


「そこの女がご主人様に失礼なことを言ったのでつい。」


「我慢しようとは思ったのよ?」


 受付嬢からすれば、普段通りの仕事をしようとしただけだったが、エルとミカからすれば主人であり神でもあるシオンに対して今まで犯罪をしたかことがあるかという確認は受け入れられないものだった。シオンは2人が慕ってくれていることを少しうれしく思いながら受付嬢の心配をした。


「大丈夫?おーい。」


 そう言って目の前で起こすように手をたたいた。ぱんっぱんっと鳴らすと受付嬢は我に返った。



「だ、大丈夫でふ。はい。」


 と噛みながら返事をした。ちょっとかわいい。


 シオンは手早く水晶に手を置くと青く光り清廉潔白なのが証明された。二人も同様だ。


「で、できました。これがギルドカードになります。再発行にはお金がかかりますので無くさない様に気を付けてください。」


 言葉を選ぶように受付嬢は告げる。


 その時、ドンと勢いよくドアが開けられる音がし、斧を背負った体格のいい獣人族の男がギルドに入ってきた。すると一直線にシオン達へ近づき受付嬢の真っ青な顔を見た途端に突然殴りかかってきた。


「ニーナに何をしたーーー!!」



 もが男にボコボコにされる三人の新人冒険者を想像した。なぜならこの男はBランク冒険者。この町で一番の実力者だ。


 しかし、実際はそうはならなかった。それは、瞬間的に起こった。ドゴッと鈍い音がしたと思ったらそこに男はおらず、酒場の壁にぶつかるまで吹っ飛んでいった。


「二人ともちょっとやりすぎ。」


 シオンは苦笑いをした。


 行われたのは単純だ。殴ろうとした男の懐にミカが入り込み、カウンターの回し蹴りをくらわせたのだ。その間エルはシオンを抱え数歩ほど距離をとっていた。



「お、お兄ちゃん!」


 ニーナは受付カウンターを飛び越え、兄であるドグラスの元へと走っていった。


「行っちゃった…。まあ冒険者には慣れたし、いいかっ。」


 周りの冒険者が驚きのあまり動けない中、シオン、エル、ミカは平然とギルドから出ていった。


 ちなみに冒険者の規則などはエルとミカが知っていたためそっちに聞いた。基本的に依頼には2つの種類があるらしい。通常依頼と指名依頼だ。依頼は受付嬢からランクに応じたものをいくつか渡され、その中から選ぶそうだ。特例として緊急依頼というものがあるのだが、それはCランク以上にしか効力がないため今はおいておく。


「この町にはたいしたやつはいなさそうだね。手っ取り早く王都に行こうか。」


「わかりました。」「そうね。」


 そう言って3人は人ごみの中へと消えた。





 アインが酒場から出たとき、強烈な殺気を感じ武器を取った。しかし、どこからの殺気かわからない。一瞬にしてそれはなくなり、少し経ってふうと息をはいた。


 パーティーメンバーの様子を確認しようと周りを警戒しながらもゆっくりと振り向いた瞬間、ドゴッと音がした。その途端に大きな塊が自分のすぐそばを通り過ぎていった。


「な、なんだ!?」


 それはドンッと壁にぶつかって止まった。


「…ドグラスさん?セラっ急いで回復魔法を!」


「はい!この者を癒す力を(ヒール)!」


 セラは杖を突きだす。すると杖の先端に魔法陣があらわれ、淡い光がドグラスを包んだ。


「ううん…はっ、ニーナは!ニーナは無事なのか?」


 ただならぬ雰囲気でドグラスは駆け寄っていたアインに問いかける。


「お兄ちゃん!」


 そこで酒場にニーナが走ってきた。


「何があったんですか?」


 アインはドグラスとニーナに聞く。


 ドグラスはあまり覚えていなかった。


 ニーナに話しを聞くと、ドグラスは勘違いをして新人冒険者に殴りかかってしまったそうだ。そして反撃を受けた。


 妹に対してとても過保護なドグラスはこういった事件を多数起こしている。平たく言えば常習犯だ。


「ドグラスを蹴りでここまで飛ばすなんて…。」


 そのターニャの呟きが酒場全体に広がるほどそこは静かになっていた。

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