第18話 フライパンは鈍器ですか?
「蛍くん、大丈夫??」
工藤さんに問い詰められるはずだった俺は現在ベッドの上にいた。
そう、ドラゴンよりも強い敵・船酔いによって。
そこに俺のことを下の名前で親しく呼ぶ天海さんが様子を見に来た。
「大丈夫、もう2回出すもの出したから」
こう返事をしたが実際はまだつらい。
「良かった! これ隊員さんから貰った追加の薬だよ」
「ありがとう、助かったよ」
そう言ってベッドの横にある机の上に水と薬が置かれて、俺はそれを手に取ろうとした。
その時。
「私が飲ませてあげようか?」
そう小さな声で顔を赤くしながら後ろで手をもじもじさせて言ってきた天海さん。
えっ?
なぜ?
今普通に自分で飲もうとしてたじゃん。
そして残念だったな天海さん。
上目遣いをされていたら折れていたかもしれないが、その赤裸々にもじもじするタイプの行動は俺の好みではないのだ。
そうして俺は返事もせずに普通に自分で薬を飲んでベッドに潜り込んだ。
天海さんは「えっ?」って顔をしていたけれども現在俺は鈍感な男なんだ。
よって聞き取り能力も鈍感になるんだよ、すまないね。
では、おやすみ。
もう一度言っておく、君に構っている暇はない今は船酔いと戦闘中なのだから。
******************************
「雨川さん、起きてください」
ん?
まだ眠い。
あと10分だけ寝させて…………。
「雨川さん、起きてください。青森に着きましたよ」
………
………………
ゴーーン。
突如、俺の頭に激痛が走った。
「痛っ!!」
俺の優雅な睡眠が何者かに邪魔されて、一気に目が覚めた。
起き上がり確認すると、そこにはなんと綺麗なナースさんがいるじゃありませんか。
そのナースの手にはなぜかフライパンが握りしめられていた。
「すいません、すいません!!」
すると、俺に向かって何度も何度も頭を下げて謝り出した。
「えっと、落ち着いてください。もう謝んなくていいですから」
俺がそう言うとナースさんは謝るのをやめて上目遣いをしてきた。
「怒ってないですか?」
おっと、可愛いも兼ね備えているのですか。
先程俺は上目遣いに弱いと言ったばかりですよ?
あっ言ってないか、自分でそう考えてただけだった。
「怒ってないですから、それでそのフライパンで俺を殴ったから謝ってたんですよね?」
「秋川さんに言われたからですよ! 秋川さんが『あいつたぶん全然起きないから、フライパンで殴って起こしてきてください』って言ったんですよ、だから………です」
またしょぼんとしたナースさん。
可愛いですね。
特段年上が好きというわけではないが、綺麗と可愛いと純粋を兼ね備えたナースさんってグッときますよね。
でも、俺は騙されませんよ。
あなたの左手の薬指にいかにも高そうな指輪がはまっているのを。
「まあ、あとで賢人を殴っとくんで大丈夫ですよ。それでなんですか?」
「もう着きましたよ、青森基地に」
あっそういえば揺れがかなり弱くなっているな。
やっと、青森か。
そういえば地味に初めて北海道から出たかも。
中学は修学旅行行っていないし、高校は修学旅行前にダンジョンに入っちゃったからな。
俺はベッドから起き上がり、ナースさんからそのフライパンを貰っておいて船を出た。
ちなみにそのフライパンの用途はあとで賢人を殴るためだけだ。
船を降りたら新鮮な外の空気を吸う暇もなく、ある自衛隊員さんに基地内へと連れていかれた。
賢人たちは既に基地内の食堂でご飯を食べているそうだ。
そうして俺が連れていかれた先は工藤さんの部屋だった。
食堂じゃないのか、ご飯食べたかったな。
隊員さんがドアをノックして入り、俺も続いて入っていく。
しかし、そこにはまだ工藤さんの姿はなく、俺はソファに座って待っているように言われた。
出された紅茶を飲みながら窓の向こうを眺めて少し待っていると、工藤さんが入ってきた。
「やあ、待たせてしまってすまなかったね」
「大丈夫ですよ、それよりも酔い止めの薬ありがとうございました」
「ヨイショ、いやいやそれぐらい大丈夫だよ。それよりも蛍くん、私たちを救ってくれてありがとう」
席に座った工藤さんは、改まって俺に向かって深く頭を下げた。
「頭を上げてくださいよ、工藤さん。元はと言えば俺のせいなんですから」
「それもそうだったね、あとで肩でも揉んでもらおうか」
そう笑顔になる工藤さん。
「それはもう賢人にやらせますんで」
「それはそうとして船では君の体調が悪かったようで、話を聞けなかったけど今度は話してもらうよ? そうしないと私たちも上の者に説明ができないからね」
さっきまでの笑顔はどこかへ行きまじめな空気へと変わった。
「何から話せばいいですか?」
「そうだね、まずはこれからかな」
工藤さんはそう言ってポケットからカードを取り出した。
ステータスカードか。
俺はそれを受け取った。
「これは俺のですか?」
「ああ、そうだよ。君のステータスカードだ」
俺はそれを色々と観察しているが、工藤さんのステータスカードのようにステータスが全く表示されなかった。
しかし、やはりこれを見せなくてはならない時が来てしまったか。
「それでどうやって使うんですか?」
「一度自分のステータス画面を表示してからそこに重ねるようにそのカードをかざすとそのカードは有効になるよ」
そうなのか一度自分のステータスを出さなければならないのか。
俺は工藤さんとカードを交互にチラチラと見る。
「ああ、すまなかったね。私がむやみにステータスを見せるなって言った張本人だったね。外の扉の前で待ってるから終わったら声を掛けてね」
工藤さんはそのまま部屋を出てくれた。
ふー、これで一人で確認できるな。
『ステータスオープン』
【status】
名前 ≫≫雨川 蛍
称号 ≫≫Number 1
スキル≫パッシブ ≫超動体視力Lv.max
早熟Lv.max
魔法力Lv.max
超バランス感覚Lv.max
≫アクティブ≫異世界鑑定Lv.8
アイテムボックスLv.max
幻影回避Lv.max
造形操作Lv.max
魔法 ≫≫水魔法Lv.max
氷雪魔法Lv.16(共存共栄)
電撃魔法Lv.11(共存共栄)
装備 ≫≫防具精霊・冷狐(マフラー)
防具精霊・雷狸(衣服:上下)
体温調整機能付きの外套
うん、やはりこんな短期間では称号は変わらないか。
俺は一息吐いてから貰ったステータスカードを自分のステータス画面にかざした。
すると、ステータスカードの上にスラスラと現在書いているかのように文字が浮かび上がってきた。
この演出どこかで………。
ああ!
あのダンジョンの落ちたとこにあった石扉の巨乳のお姉さんのところだ!
てことは、やはりこれはそっち側に関係がある物なのか。
その文字が止まるとそこには見慣れた文字が書かれていた。
【status card】
名前 ≫雨川 蛍
称号 ≫Number1
装備 ≫防具精霊・冷狐(マフラー)
防具精霊・雷狸(衣服:上下)
体温調整機能付きの外套
おっと、そういえば装備も表示されるんだったな。
これ今外したらどうなるのだろう。
俺は小さな声で防具精霊たちに話しかけた。
「クウ、ぽん、起きてくれないか?」
「クウ?」
「ぽん?」
俺は2匹ともゆすり起こした。
「お前たちって防具以外の姿に変われるか?」
「クッ!」
「ポン!」
2匹ともそう鳴いて獣の姿に変わった。
うん、そうじゃないんだよな。
防具精霊たちはこの装備欄から外すことはできないのだろうか。
「ちなみにその姿といつもの防具以外の姿になれないか?」
すると2匹とも考えている人と同じポーズで考え出した。
うん、これはこれで絵になるな。
「ポン!」
すると、ぽんが「ひらめいた!」みたいに片手をぽんと叩いた。
そのまま小さな両手を俺に向けてきた。
「抱っこしろってか?」
「ポン!」
俺は言われた通りにぽんを抱くとそのまま小さくなってゆきある指の一つに収まった。
指輪か。
材質がぽんのままで毛がふさふさしている指輪に変化した。
俺は自分のステータスカードを確認する。
【status card】
名前 ≫雨川 蛍
称号 ≫Number1
装備 ≫防具精霊・冷狐(マフラー)
体温調整機能付きの外套
ぽんの表示が消えたな。
でも、なんでだろう。
この指輪普通に鑑定するといつものぽんのステータスが表示されるのだが防具欄には表示されない。
この姿は防具扱いではないってことかな。
どちらかというとアイテム扱いってことか。
俺は次にクウを抱き上げる。
「クウもできるか?」
「クウ!」
そう鳴いてクウも白いふさふさした指輪に変化した。
これで工藤さんに見せても大丈夫だろう。
いや、称号のところは大丈夫ではないのだが。
さっきから「まだかーい?」って扉をドンドンと何回も叩いてくる工藤さんに俺は返事をした。
「遅いよ~、雨川君。私だって君のステータスが気になっているんだから。って、服装が変わっているね、なんか見られたくない装備でもあったのかな?」
「いえ、いつまでも戦闘服だとあれだと思ってジャージに着替えただけですよ。と、まあそう言いたいところなんですがそのニヤニヤした顔は何を言っても無駄なようですね。」
「うん、バレバレだよ。君があるスキルを持っていることももうわかったよ」
「あるスキルとは?」
「言ってもいいのかい?」
「はい」
「アイテムボックスを持っているね?」
俺はつい紅茶を吹いてしまった。
たったこれだけの要因で分かってしまうのか。
これのようなスキルはアイテムボックスしかないのかな。
「はは、わかりやすいね、でも、安心していいよ。このことは私の胸の内にしまっておくからね。それで早くカードを見せてくれないかい?」
俺はカードを渡すことを渋る。
「あのー、これのことは胸の内に秘めてくれたりは………」
「それは場合にもよるがたぶんできないね。じゃないと、上の者になんて説明すればいいかわからないからね。ただこれだけは約束しよう。君が不利になるようなことが有れば私ができる限りのことはさせてもらうよ。一応、君に命を救われた身だからね」
「…………わかりました。じゃあ、大きな声出さないでくださいよ?」
「もちろんだとも」
ということで、ついに俺はステータスの情報を賢人以外の人に初めて見せるわけだ。
俺は手に持っているカードを工藤さんに渡した。
「…………………」
「工藤さん? なんか言ってくださいよ。このシンとした空気は心臓に悪いですよ」
そう語りかけるも何も反応をしない工藤さん。
いや、これは完全に脳をシャットダウンしていますね。
すると、起動しだした工藤さんがすっとカードを返してくれた。
俺はそれを受け取りポケットにしまうも、今にも笑い出しそうだ。
それは工藤さんの目が完全に生気を失っているからだ。
でも、一応は俺を見ている。
けれども、完全に意識は明後日の方向に向いているようだ。
俺は再起動するのを紅茶を啜りながら待った。
少しすると工藤さんが口を開けた。
「雨川君? 君は私になんて物を見せてくれたんだ」
「いや、工藤さんが見せろ見せろって言ったんじゃないですか。俺はずっと渋ってましたよね?」
「ああ、そうだったな。いやいや、それにしても1位なんて……。私の想像を遥かに超えてきたね。精々3桁か4桁だと思っていたよ。まさかシングルにお目にかかれる日が来るなんてね。ははっ」
「それで俺の処遇ってどうなるんですかね?」
「正直、わからないよ。この情報は私だけでは抑えきれるレベルの物ではないからね。それに君がカードを手にしたことによってランキングの1位のところに今頃『Number1』の文字と『日本』の文字が表示されている頃だろうね。さてさて、これから君も忙しくなりそうだ」
「まじですか………。嫌なんですが」
「まあ、私に任せてくれ。前に私も君ほど順位が高いわけではないが君のような状況になったからね。私ができるだけ頑張ってみるよ」
「お願いします、それとこれどうぞ。」
俺はそう言って机の上に大ブタの霜降り肉を10個ほど置いた。
「これは?」
「ダンジョンで入手した霜降り肉です。俺の秘蔵コレクションの一つです。頑張ってくれる代わりと言ってはなんですがこれでも食べて頑張ってください」
「ああ、そんな貴重な物を。ありがたく受け取るよ。それじゃあ、君もお腹が空いただろう。食堂に行って食べてくると良いよ」
その後、俺は隊員さんに連れられて食堂でから揚げ定食を食べた。
久しぶりの揚げ物美味しかったです。
すると、
『雨川蛍さん、雨川蛍さん。至急、上官室へと来てください』
突然、放送が食堂内に響き渡った。
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