第17話 結構、まじめな戦闘です

 


 現在、俺は賢人に服を引っ張られて上官さんの下へと連れられて、強制的に頭を下げさせられていた。


「いきなりどうしたんだね、秋川君と雨川君」


「すいません、この騒動の元凶はこいつです。こいつワイバーンの肉を持っています」


「ふふ、やはり君たちだったか。でも、こちらが確認し忘れていたミスだからそんなに謝る必要はないよ。それよりも、あいつらはこの船よりも飛ぶ速度が速いからいずれ追い付かれるだろう。その時は君たちも協力してくれよ。それで全部チャラにしてあげるから。そして、もし全員生きていたらその時は私の肩でも揉んでもらおうかね」


 上官さん、あんたってやつはなんていい奴なんだ。

 感謝するぜ。


 すると、上官さんはある隊員に呼ばれて船尾の方へと向かっていった。


 その後すぐに俺は賢人の強制謝罪から解放された。


「なぁ、賢人さん。上官さんの言っている感じだと、あの数のワイバーンは今の自衛隊の戦力じゃ処理できないってことだよな?」


「当たり前だろう。ワイバーン自体が北海道から撤退する原因となった魔獣だぞ。1,2匹ならともかくあの数え切れないほどのワイバーンは確実に無理だろうさ。実際、俺たち15人でも1匹も倒せない相手だぞ」


「やっぱそうなのか。なぁ、一個頼まれてくれないか?」


「なんだ?」



******************************



『超級魔法・オプティカルカモフラージュ』


 俺は賢人に頼みごとをした後に監視カメラのないところを探して超級魔法を使用し姿を隠した。


 そして、俺は隊員が慌ただしくしている船尾の方へと向かい少し先の上空を確認した。

 そこで俺は無音のお面を装着し、外套を外した。


 確か、天海さんは100体以上いるって言っていたよな。

 実はここに来る前に天海さんにこっそりとワイバーンの数を確認してもらっていたのだ。


 さすがにレベル150のワイバーンを100体も倒すのは時間が掛かる。

 しかも、今回は船に寄せ付けてはならないという条件付きのミッションだ。


 力を制御していては間に合わないだろう。

 賢人の言っている感じだと、2体以上この船に近づけてはならないのだから。


「クウかぽん起きてるか?」

「――」

「ぽん!」


 かろうじてぽんは起きていたようだ。

 助かった。


「ぽん、久しぶりに解放やるぞ! 準備してくれ!」

「ぽん!!」


『雷狸 解放』


 俺はぽんの解放を発動した。

 これで一気に仕留める。


 俺は先に船から海面に立てるだけの氷を張り、そこへと降りた。

 少しすると、天足2歩分の範囲内にワイバーンが近づいてきた。


 さあ、ミッションの始まりだ!


 俺は早速、天足でワイバーンの近くまで駆け上がっていき、魔法の射程範囲内に入ったことを確認した。


『雷化』


 電撃魔法レベル10で覚える魔法・雷化。

 これは自分自身が雷となり、対象から対象へと貫通し攻撃する魔法だ。


 電速との違いは、連続使用回数が多くなるという違いと任意の場所の選択ではなく対象が選択できることだ。

 そう雷化とは大量の魔獣に襲われた際に一番の殲滅力を誇る魔法なのである。

 もちろん今回の対象とはワイバーン、電撃魔法が一番効果あるのだ。


 俺は青と黒の電気と化し、次々とワイバーンを貫いていく。


 ワイバーンたちは今何が起こっているのかわからないだろう。

 何も見えずに次々と仲間たちが落下していくのだから。


 すると、俺の視界には明らかに普通のワイバーンとは異なる魔獣が映った。

 雷化のままだと鑑定ができないので途中で電速に切り替えて一匹のワイバーンの背中をお借りした。



 【status】

   種族 ≫爆炎竜

   レベル≫500

   スキル≫フライLv.max

       炎尾Lv.max

       硬化Lv.max

       物理耐性Lv.max

       統率Lv.max

       眷属リンクLv.max

   魔法 ≫爆炎魔法Lv.max

       竜炎魔法Lv.max



 この時、俺は初めてドラゴンを見た。


 そのスキルと魔法の構成、そしてレベル500のドラゴン。

 明らかにこの群れの長なのだろう。


 こいつは確実に俺の制覇したダンジョンの深層にも匹敵するレベルの魔獣だ。


 それと初めて見る魔法・爆炎魔法。

 字面から推測するに広範囲魔法バンバンと撃ってくるタイプだろう。


 しかし、その爆炎竜は俺に気づいておらず動く気配もないのでワイバーンの掃討作戦の続きを再開した。


 少しして、下を確認するともう意外と近くに船が確認できた。


 ワイバーンはあと10体。

 これなら間に合いそうだ。


 ワイバーンを貫き続けること、その時間わずか2分にも満たない時間だった。


 やっと残り一体となったところで俺はふいに殺気を感じた。


 すぐにその一体のワイバーンの背中に乗り、上空を確認すると先ほどの爆炎竜が大きな口を開けてエネルギーを放出しようとする瞬間だった。


 ブレスだ。


 俺はその瞬間に一撃でこのドラゴンを倒すことは無理と判断し、船を守る選択を取った。

 正直、後に思えばなぜこの選択を取ったのかはわからない。

 

 ただ、船には賢人、そして優しくしてくれた上官・工藤さんがいる。

 そう考えたからだろうか。


 俺は電速で船の船尾へと降り、防御魔法を発動した。


『アイスシールド・雪花』


 俺は巨大な雪の結晶型のシールドを幾重にも重ねて発動した。


 次に、アイスクリスタルでの強化をしようとしたその瞬間、爆炎竜のブレスが放たれた。


 それはあり得ないほどの広範囲にありえないほど威力の込められた爆炎攻撃だった。


 発動したシールド次々と粉砕されていく。


 その間にも次々とアイスシールドを発動し続けた。


 俺の腕はブレスの熱量でジリジリと焼かれていった。

 しかし、俺はそんなことも気にせずに魔法を発動し続けた。


 正直、もう何時間ほど発動すれば耐えられるのかと考えるほどその時間は長く感じた。


 しかし、実際のその攻防の時間はたった数秒でしかなかったのだ。


 そして、俺の意識はあるときを境にもう無かった。



******************************



―秋川賢人


 俺は蛍と別れた後に上官さんがいる船尾の方へと戦力になるクラスメイト5人と向かった。


 正直、俺たちはもう無理だと思っている。


 確かに蛍は世界で一番強いがあの数のワイバーン相手だとさすがに無理だと思っている。

 実際の強さは見たことないが一度見せてもらったステータスには空を飛ぶことのできるようなスキルや魔法はなかった。


 空を飛べる相手に地上戦だと例え強くても苦戦が強いられるだろう。


 そうして俺たちは船尾へと到着するとそこにはほぼ全員と思われる自衛隊員がいた。

 俺たちも加わることを上官さんに伝えて、船尾にいるみんなが臨戦態勢に入った。


「秋川君、雨川君はどこへ行ったのかな? 彼も戦力になると思うのだがね」


 緊迫した空気の中、上官さんが突然俺に話しかけてきた。


「蛍は乗り物酔いしたそうで、トイレでくたばってますよ。もうあいつは戦力になりませんので俺たちだけで頑張りましょう」


 すると、上官さんは突然大きな声で笑い出した。


「ははは、雨川君は面白い少年だね。そうか、私たちだけで頑張ろうか! ここにいる皆さん! この戦闘の勝ち目はほぼありません」


 急に上官が今まで誰も口にしなかったことを高らかに言い出した。

 正直この上官が狂ってしまったのだと思った。


「しかし、ここで死んでいるようじゃ今後私たちの世界に未来はありませんよ! ここが踏ん張り時です、死ぬ気で勝ち抜いてみせようじゃないですか!! そして、帰ってあいつらの肉で祝杯でも挙げましょう!」


 そう言うと、周りの隊員たちが声を上げた。

 そうか、これが鼓舞というやつなのか。


 俺はそれに乗っかり、今までにないくらい声を上げて意識を高めた。

 鼓舞と言うのはここまで戦意を上げてくれるものだと初めて感じた。


 すると。


 なんの予兆もなく一体のワイバーンが落下したのだ。


 それを皮切りに、次々とワイバーンが落下するという現象が起きていた。


 周りのみんなは何が起きているのかわからない様子で、唖然とその光景をただ眺めていた。

 もちろん上官も例外なく開いた口が閉まらないようだ。


 その中でも俺はすぐに蛍の仕業だと分かった。

 一度、蛍には光学迷彩の魔法を掛けてもらったことがあるから分かる。


 恐らく透明化して戦っているのだろう。


 そして、俺はあいつと別れる前に言われたのだ。

 『今からあいつら倒してくるから、俺は船酔いしてトイレで死んでるとでも言っといてくれ』と。


 今この光景を目にして初めて思った。

 あいつは強い。

 いや、強すぎるのかもしれない。


 どれだけの苦境を乗り切ってあれほどの強さを手にしたのだろうか。


 俺はあいつに今は頼られている。

 しかし、あれほど強さを俺が支えられる自信がない。


 すると、一度ワイバーン達が次々と落下する現象が止まった。


 それをみた全員がすぐに開いた口を塞ぎ戦闘態勢を取った。


 しかし、その準備も無駄ですぐにワイバーンの落下現象が始まった。


 すると、ワイバーンが落ちたことにより徐々に奥にいるワイバーンも見え始めた。


 その時、誰かが声を上げた。


「おい、あれってワイバーンじゃないぞ!!」


 その言葉と同時に全員がその魔獣を鑑定した。

 もちろん俺も鑑定したがそこにはあまりにもふざけているステータスが記されていたのだ。


「ドラゴン…………」


 そう誰かが呟いたのは全員の耳に入っただろう。

 それぐらいこの場は静まり返っていた。


 すると、そのドラゴンが大きく口を開けて何かを繰り出そうとしているのが見えた。


 俺はこの時「死んだ」と、そう思った。


 俺だけじゃないだろう。

 ここにいるみんながそう思ったのではないだろうか。


 その全員が思った瞬間、船尾に突如として巨大な雪の結晶が出現したのだ。

 その次にはそれが幾重にも重なっていきこの船を覆えるほどの防御が張られていったのだ。


「蛍」


 俺はその時無意識に親友の名前を呟いてしまった。

 すると、すぐ隣にいた上官がその言葉を聞いてしまった。


「秋川君、あの魔法は雨川君が?」


 俺はその上官からの言葉に何も答えなかった。


 そして、その会話の間を掻き消すかのように、ドラゴンのブレスが放たれた。


 俺はその瞬間目を逸らしてしまった。


 しかし、いくら待っても何も起こらなかった。


 俺はすぐに目を開けるとそこには次々と魔法を発動している蛍の姿があった。


 髪が青白く所々逆立っており、黒いズボンに青白いマントを羽織った後姿。


 いつもの姿とは違う。

 しかし、あれは間違いなく蛍の姿だった。


 俺だけではなくその光景をここにいる全員がただ見ていることしかできなかった。


 俺はこの時間がとても長く感じ、そしてその光景が綺麗と思えてしまった。


 ドラゴンブレスの威力が上がり、蛍が魔法を展開する、そして綺麗に散っていくその光景が。


 俺は無意識に蛍へと近づいていた。


 そこには腕が焼け焦げている蛍の姿があった。


 俺はこの時に我に返り何かしなきゃ、とそう思った。

 しかし、今の俺には何もすることができないとすぐに考え付いた。


 その次の瞬間、ドラゴンのブレスが途切れて蛍がそのまま後ろへと力なく倒れた。


 俺は蛍が頭を打たないように滑り込み、支えた。


 その拍子に、蛍の付けていた仮面が外れた。


 そこには全体的に少し青白く光ってはいるがそれは間違いなく蛍であった。

 しかし、意識を失っている。


 すると、横に一人の隊員が来た。


『ヒール』


 その隊員は魔法が使えるようで回復の魔法をすぐに蛍へと掛けた。

 そこに、後ろから上官が歩み寄ってきた。


「これは雨川君だね? 今までのは彼が?」


 そう俺に問うてきた。

 しかし、俺はその問いには答えなかった。


「それよりもワイバーンは全滅しましたがドラゴンはまだです」


 そう言うとすぐに蛍が目を覚ました。


「あれ…………賢人だ。俺ってもしかして意識失ってた?」


 蛍はそうケロッと起き上がって聞いてきた。


「ああ、そうだ。それであのドラゴンは倒せるか?」


 俺は心配ではなく、ドラゴンを倒せるかどうかをすぐに聞いた。


 蛍を心配してないわけではない。


 ここでドラゴンを倒せる可能性があるのが蛍しかいなかったというだけだ。


「誰に向かって言ってる、楽勝だ。『エレクトリックヒール』」


 蛍はそう言って、自分の腕に回復魔法を掛けてからドラゴンの方に振り向いた。



******************************



―主人公


 不覚にも俺は意識を失っていたようだ。


 俺はすぐに腕の痛みに気付き確認するとそこには焼け焦げた自分の腕があった。


『エレクトリックヒール』


 これは一度発動するとその箇所が修復するまで回復し続ける持続的な回復魔法だ。


 その後、徐々に痛みが引いて行き俺はドラゴンへと向き直った。

 俺って攻撃はかなり強い方だが守りはあまり強くないのかもしれない。


 ドラゴンはブレスの反動なのか、その場から動けないようでいた。


 そうして、俺は優先的に直した右腕を上空に掲げた。


『チャージ』


 俺は体に電気を貯める。


『黒雷撃』


 ドラゴンに向けて、黒い電気が迸っていきそのままドラゴンの片翼を貫通し破壊した。


 ドラゴンは片翼で浮こうとするもバランスが崩れていた。


『チャージ』


『黒雷撃』


 再度、俺は魔法を行使してもう片方の翼を撃ち抜き破壊した。


 ドーーン。


 ドラゴンはそのまま海へと落下していった。

 所詮はドラゴンだ、海でそのまま溺れて死ぬだろう。


 あっでもドロップが何だったかだけは気になるな。

 でも、もう回収はできないから仕様がないか。


 そう思いながら俺は後ろを振り返ると、なぜかここにいる全員が俺を見ていた。


 えっ何で見えてるの?


 俺はすぐに自分の姿を確認すると、なんと光学迷彩の魔法がいつの間にか切れていたのだ。

 しかも、俺の姿って今はぽんの解放姿だよね。


 えっと、これどうしよう。

 完全に収集がつかない状態だよな。


 てか、絶対気絶したときに魔法きれたよね。

 とりあえず何か言わなきゃこいつらずっと俺のこと見てるよな。


「えっと、みなさんこんにちは。実は今のは俺じゃないんですよ。もう一人の俺っていうかなんて言うか…………」


 すると、賢人が俺の肩をぽんと片手で叩いた。


「もう隠すのは諦めろ。ここの全員がお前の戦闘姿を見ていたぞ」


 それは俺にとっては地獄からの囁き声に聞こえた。


 とりあえず、ぽんの解放を解いてその場をそっと立ち去ろうとするも無理だった。

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