第15話 イタズラは計画的に…



 俺たちは倶知安町から出発してニセコの山を越えたあたりで一晩を過ごすことになった。


「なあ、雨川。俺たちの寝袋出してくれないか? もう寒くて死にそうだよ。まじで函館目指すのはあと2,3ヶ月待って雪解けが終えてからにすればよかったと後悔してるわ」


「いや、そうなると俺が困るんだが。えっと、はいこれ」


 俺はそう言って人数分の寝袋を取り出して渡した。

 すると、俺以外の全員がもぞもぞとその場に寝袋を敷いて入っていったのだ。


 俺はこいつら環境適応能力高すぎだろと思ってつい見入ってしまった。


 さすがに俺でもみんなが寒そうに寝袋を使って外で寝ているのに、俺一人だけ魔法のテントのベッドで温々と寝るのは気が引けるな。


 俺は賢人の下へと行き、無言で寝袋を剥いだ。


「ちょっ、蛍何するんだよ。寒いだろ」


「いや、そういえば言い忘れていたんだがな」


 俺はそう言ってアイテムボックスから魔法のテントを取り出し、地面に置いた。


「何それ?」


「鑑定してみな。これ普通に使っていいから、全員余裕で入るし中は暖かいし風呂もある、トイレもベッドだって人数分あるよ」


 賢人は鑑定しているようで、めちゃくちゃ嬉しそうにしている。


「おい、みんな! 蛍がなんかスゲー魔法のテント持ってるの隠してたみたいだぞ! こっち来いよ!」


 賢人はみんなに大きな声で言い放った。

 いや、めちゃくちゃテンション高いな。

 こんな賢人、昔じゃ絶対見れなかったよな。


「えっ、何々??」

「魔法のテント??」

「隠してたって??」


 など、様々な反応をしていた。

 みんな一様に異世界鑑定を使っているようで、食い入るようにリザルト画面を見ている。


 すると、賢人が先陣を切ってテントの中に入っていき、続くようにみんなが入っていった。


 この魔法のテントは認識阻害の魔法が掛けられているが俺は念を入れてみんなが中へと入った後に超級魔法・オプティカルカモフラージュをテントに掛けて中へと入った。


 中はもうお祭り騒ぎだった。

 ただ荒らさないでくれよ、一応俺のテリトリーなんだから。

 そして思ったのだ、やはり一人でここにいたら皆になんて言われたことか。


 しかし、俺の思いを裏切るかのように一人の男子がベッドへとダイブしたのだ。

 はぁ、これだから嫌だったんだよ。


 まあ、心を落ち着かせるんだ。


 ご飯はどうしよう。


 皆が俺に持たせている食料のほとんどは缶詰や乾パンなどの保存食料なのだ、しかも数が少ない。

 確かに久しぶりに地上のご飯は食べたいがこれじゃないんだよな。

 しかも、栄養が偏りそうだし。


 でも、後でサバの味噌煮だけは貰おうかな。


 そう、ダンジョンで獲得できる食料はなぜか栄養が高いようなのだ。

 だって、1年以上も肉しか食べていないのに体調不良になったことなど一度もなかったのだ。

 むしろ体調は毎日すこぶる良かった。


 本当にファンタジーな食べ物だよな。


 ただ食料まで提供すると後々絶対にみんなに集られたり、頼られたりする。

 それだけは勘弁したい。


 賢人は別だけど。


 まじでどうしようか。


 そんなことを考えていると、賢人が近寄ってきた。


「蛍、考え事なんてしてどうしたんだ?」


「なぜわかるし」


 いや、本当にこいつはなぜいつも俺の心をぴたりと当ててくるんだ。

 そんなに俺の表情ってわかりやすいのかな。


「いや、お前とは長い付き合いなんだ。それぐらいわかるさ。それでどうしたんだ?」


「言わないぞ、賢人に言ったら絶対出せって言われるし」


「ふ~ん、いいのかな。俺にそんな態度とって」


 こいつは何を言っているんだ。

 ここは普通のふりをするんだ。

 絶対にあれの在りかは分からないはずなんだから。


「ふん、構わないさ。俺は真白な男だからな」


「へえ~、じゃあお前の部屋に入って前に2枚、右に3枚目の畳の下にある物ひよりちゃんに言っちゃおうかな~」


「賢人さん、私ダンジョンの食料が大量にアイテムボックスに眠っているのです」


「ふふ、速攻だったな」


「てか、なぜ知っている。あんな場所普通は探さないだろう!」


「いや、不自然にズレていた時があったからその時見た」


「不覚! それでその食料をみんなに渡すべきか渡さずにいるべきか迷っていたんだよ」


「そういうことか、俺としては提供してほしいと言いたいがお前一人にそこまで甘える気もないよ。好きにすればいいさ。だけど、こんなことわざ知っているか?」


「なんだ?」


「『情は人のためならず』ってやつ」


「残念、そんなことわざは聞いたことがない」


「だよな、現代文とかお前苦手だったもんな。まあ、このことわざ意味も2通りあるんだけどな、俺が今言いたい意味は「良い行いは巡り巡ってお前にやってくる」ってことだよ」


「なんとベタな。なあ、それって暗にお前が食べたいだけじゃないよな?」


「正解♪」


「はあ、仕様がないな。ただし、物々交換だ。俺はサバの味噌煮の缶詰を全て頂くぞ。これでいいだろう?」


「ああ、サンキューな!」


 そう言って、俺はダンジョン産の肉を提供した。


 もちろん大ブタの霜降り肉なんて贅沢品は提供しない。

 ゴブリン肉だけだ。


 最初女子は嫌な顔していたが、久しぶりの肉だって男子たちが食べ始めて、旨い旨いって言いだしてからは無くなるのが秒だったよ。


 その後は、みんなベッドで熟睡していたよ。


 俺も寝ようとしたが、クウとぽんが起きてきたので少し遊んでから寝たよ。


 もちろん今後いいと言うまでは獣化せずにずっと防具のままいるように言っておいた。

 クウとぽんがあいつらに見つかると面倒になることは必至だからな。



******************************



 俺はみんなよりも一足先に起きて、外に出た。


 まずはテントの光学迷彩を解除しなくてはならないからだ。

 そうして解除したら、大きく深呼吸をした。


 やっぱり外の空気は気持ちがいいな。

 ダンジョンも空気は悪くないのだが、なんせ密閉空間だからね。

 少し息苦しさもある。


 だけどここは北海度!

 そして自然豊かなニセコ!


 もう空気だけとは言わずに全身で自然を感じるために、まだ足跡のついていない新雪の部分を探して盛大に背中からダイブして空を見上げる。


 はぁ、最高。


 すると、上空に俺の至福の時を邪魔するように何かが飛んでいた。


 なんだよ、あいつ。

 こんなに距離があると鑑定ができないから何かは詳しくはわからないがあれ絶対魔獣だろう。


 しかも、空飛んでるやつって総じて倒すのが面倒くさいんだよな。

 空を駆けて近づくっていう手間を加えなきゃならないから。


 すると、その空飛ぶ魔獣が俺の方向目掛けて降下してきた。


 いや、来るなよ。


 視界に入って邪魔するだけじゃ飽き足らずに攻撃まで仕掛けてくるのかよ。


 そんなことを考えながら俺はのそっと起き上がって、異世界鑑定が使える範囲内に入ったときに確認した。



 【status】

   種族 ≫ワイバーン

   レベル≫150

   スキル≫フライLv.max

       ブレス・炎Lv.10

       炎尾Lv.15

       硬化Lv.20

       物理防御壁Lv.15

   魔法 ≫竜炎魔法



 あれが、賢人の言っていた北海道奪還作戦を撤退させる元凶となった魔獣か。

 結構レベル高いな。

 しかも、飛行タイプの魔獣だから確かに厄介な相手だろう。


 正直、倒すの面倒くさい。

 だって、俺の使える属性って結構炎属性との相性悪いんだよね。


 賢人曰く、あのワイバーンが日高山脈を中心として大量に蔓延っているらしい。

 なんで、日高山脈からわざわざニセコの方まで来るんだよ、あいつ。


 俺は戦いを見られたくないため、テントの入り口をアイスシールドで塞ぎ誰も出られないようにしておいた。

 これで心置きなく戦える。


 俺は足装備のアイテム天足で空を2歩駆けた。

 すると、それに合わせたかのようにワイバーンが炎を纏った尻尾を振り下ろしてきた。


 俺はその攻撃を態勢を変えて難なく躱す。

 上空で尻尾を叩きつけてくる相手とは幾度となく戦ってきたんだ、超バランス感覚のスキルと合わせれば簡単だ。


 俺はすぐに体勢を整える。


『氷雪世界』


 俺の手から勢いよく白い冷気が噴出しワイバーンを覆う。


 氷雪魔法、瞬間凍結の変化した魔法・氷雪世界。

 今までは対象に直接的または間接的に触れていなければ発動しなかったが変化したことにより中距離であれば触れていなくても空気層を通して発動することができるようになった。

 ただし、めちゃくちゃMPを食うようになった。


 これが決まれば楽勝に勝てるはずだ。


 しかし、そんな単純ではなかった。


「嘘だろ?!」


 ワイバーンの体の一部は凍らせることに成功したが、急所は炎と硬化のスキルで守ったようだ。

 なんて火力と硬さなんだよ、今まででもこんなに火力のある魔獣には会ったことがない。


 しかし、ワイバーンはもうほとんど瀕死であったようでフラフラと降下していった。


 氷雪魔法に耐えられたらもうあの魔法を出すしかないじゃないか。

 俺もワイバーンと並行して自由落下しながら魔法を発動した。


『ディスチャージ』


 俺の指先から紫色の電気がワイバーンの頭に一直線に進み、撃ち抜いた。

 MP的にもこの魔法は消費が少ないから単体の魔獣相手なら便利だね。


 ワイバーンは力なくそのまま落ちる速度が速くなり、地面に落ちた瞬間に凍っていた箇所が砕け散った。

 そして、光となった。


 もちろん俺はそのまま自由落下するはずもなく、3歩目の天足を発動して自傷ダメージなく着地した。


 ふー、普通に強かったな。

 今度からワイバーンを相手にする場合は最初から電撃魔法使っていこうか。


 ワイバーンが砕け散った場所に向かうと、ちゃんとドロップを落としていったようだ。



 【result】

   ワイバーンの肉×1



 こいつも肉をドロップするタイプだったのか。

 みんなもまだ起きてこないようだし、試しに焼いてみよう。

 もし美味しかったら今度乱獲させてもらおう。



******************************



「まずっ!!」


 いや、めちゃくちゃまずいな。

 昔食べたことのある臭みの抜けていない熊肉のような味だ。


 これはもう要らないや。

 あっでもあとで賢人に食べさせてみよう、ふふ。


 そんなことを考えながら魔法のコンロなどを片付けていると賢人が起きてきた。



 あっ、アイスシールド解除するの忘れてた。

 案の定、賢人は思いっきりテントの出入り口でアイスシールドに頭をぶつけた。


 俺はすぐに魔法を解除する。


「蛍、おはよう。なんか今透明な何かに頭打ったんだが。あれ? 無くなってる」


 賢人は何もない出入り口を恐る恐る突っついている。


「おはよ、賢人。朝っぱらから、頭おかしくなったのか?」


「いや、寝ぼけてたから俺の勘違いだったのかも。なんでもないよ」


 おっ、なんかいい方向に勘違いしてくれたからこのままにしておこうか。


 その後、俺が丁寧にスパイスで味付けしたワイバーンの肉を賢人に旨い肉だと偽って提供したら盛大に吹きだしていた。

 正直、腹を抱えて笑ってしまったが、あの時の賢人の目は怖かった。


 もう悪戯は止めておこう。

 何されるかわかったもんじゃないや。


 そうして俺たちは再び函館に向けて移動を開始した。



******************************



「あそこが自衛隊の最終防衛地点か」


 俺の視線の先には簡易的な防衛施設がいくつも建ち並んでおり、その周囲には何重ものフェンスや壁が立ちはだかっていた。


 さすがにこの1年ぐらいでは壮観な防衛施設とかは建設できないか。


 そう、俺たちはついに函館に到着していたのだ。

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