第14話 女子の買い物には万全の準備を!
「ランキング制度?」
「ああ、俺たちもラジオでしか情報が入手できないから詳しい詳細は知らないんだけど。4ヶ月くらい前かな、世界中の人すべてに強さの順番にランキングがあるって判明したらしい」
「へえ、またそんなゲームみたいな」
「本当、なんかゲームのイベントみたいな世界になっちまったよな~。まあ、そんなこと今は置いておいてこれを見てくれ。『ステータスオープン』」
賢人はそう言って、ステータス画面を俺に飛ばして見せてきた。
えっ、何その機能。
今までずっと一人だったから気づかなかったけど、そんな便利な機能があるのか。
【status】
名前 ≫秋川 賢人
称号 ≫Number 80,000,789
スキル≫パッシブ ≫不意打ちLv.3
≫アクティブ≫意思疎通Lv.2
不退転Lv.5
異世界鑑定Lv.5
魔法 ≫
装備 ≫
へえ、俺とは毛色の違ったスキル構成だな。
どんなスキルなんだろう。
……
…………
ってあれ?
異世界鑑定ができないな。
「お前のスキルを鑑定しようとしてもできなかったんだが、なぜか知ってるか?」
「ああ、それな。詳しいことは分からないが他人のステータスは鑑定できないようだぞ」
「へえ、そうなんだな。魔獣は鑑定できるのに人間はできないんだな」
「まあ、不思議だよな。それでランキング制度についてなんだがここの数字見てみろよ」
賢人はそう言って称号欄の数字を指さした。
一、十、百、千、万、十万、百万、一千万………8千万と789か。
「これがランキングなのか。じゃあ、賢人は世界中の中で8千万789位ってことか?」
「そういうことだ。どうやって解明したのかはわからないけどこの数字が今の社会での基準となっているみたい」
「すごい世界になっちまったな。…………ん? ちょっと待ってくれ」
この称号のNumberの数字がこの世界での強さってことだよな。
俺の数字はずっと1から変化したところを見た覚えがない。
俺はゆっくりと後ろにクルっと体の向きを変えて賢人に画面を見られないよう背中で隠しながらこそっと自分のステータスを確認してみた。
【status】
名前 ≫雨川 蛍
称号 ≫Number 1
スキル≫パッシブ ≫超動体視力Lv.max
早熟Lv.max
魔法力Lv.max
超バランス感覚Lv.max
≫アクティブ≫異世界鑑定Lv.8
アイテムボックスLv.max
幻影回避Lv.max
造形操作Lv.max
魔法 ≫水魔法Lv.max
氷雪魔法Lv.16(共存共栄)
電撃魔法Lv.11(共存共栄)
装備 ≫防具精霊・冷狐(マフラー)
防具精霊・雷狸(衣服:上下)
体温調整機能付きの外套
まあ、そうですよね。
今まで変わったことないのに、願っただけじゃ変わりませんよね。
いや、数字が低いと強いとは限らないよな。
数字が高い方が強い可能性だってあるよな。
……
…………
うん、駄目だ。
この仮説は無理にもほどがある。
そんなはずないよな、賢人より確実に俺の方がスキルも魔法も持ってるしな。
やばい、泣きたくなってくる。
これは非常に困る。
俺は普通に稼いで普通にコンテンツを消費して普通の家族と普通に生きていきたいだけなんだ。
「おい、蛍。なに現実逃避してるんだ?」
「えっ、してないし!」
「いや、顔に出てるから。お前が現実逃避している時って、目が死んだ魚のようになるから分かりやすいんだよ」
まじか、俺ってそんなに顔に出るタイプなのか。
俺は顔を振ってから少し深呼吸をした。
「一応、一応確認するけど数字の桁が大きければ大きいほど強いとかそんな素晴らしいことないよな?」
「ないな、数字の桁が低ければ低いほど順位が高くて強い。蛍、もしかして…………」
「なあ、賢人さんよ。俺のいつも言っていたことを覚えているか?」
「ん? あれか、『俺は普通に生きて、普通にコンテンツを消費しながら生きていく』ってやつだろ?」
「そうだとも賢人くん、正解だ。そんな君には面白いものを見せてあげよう」
俺はそう言って賢人にステータス画面を飛ばして見せた。
「おう、ステータス見せてくれるのか。…………すごいスキルと魔法の数だな。これはランキングも高……………………」
ふむふむ、賢人は驚いて声も出ないようだな。
かく言う俺も驚いているよ。
「なあ、蛍。俺にはNumber1と見えるんだが、幻覚見せてたりしないよな?」
「残念、俺にはそんな俺強いアピールする趣味はないし、そんな細かい幻覚を見せるスキルや魔法も持っていないんだな。まあ、幻影を見せるスキルはあるけどここでは関係ないか」
「………まさかこんな身近に1位のやつがいるなんて思いもしなかったよ。それでお前これどうするんだ?」
「どうするってできれば知られたくはないよな。ただ賢人は俺よりも頭がいいし現状についても俺より詳しいだろ。だから知恵を借りたい」
「そういうことか」
賢人は少しだけ下を見て考え事を始めた。
こいつはいつも唐突に考えを巡らす習慣があるのだ。
ただこういうときの賢人は頼りになる。
ことが多い、大体8割は頼りになるが2割はポンコツだ。
「賢人。もちろん親友だからって無償でやってくれなんて言わないよ。俺と一緒に函館に向かわないか? もちろんお仲間様も一緒でいい。ランキングが1位と発覚した今、俺には頭の切れる仲間と現状に詳しい仲間が欲しいだけなんだ。このままだと俺は東京に戻れてもいいようにお国に扱われるだけだ。どうだ?」
「もちろんお前の頼みなら断らないさ。でも、本当にいいのか?俺たちは弱いし、怪我人だっている。函館に着くのがもっと遅くなるぞ?」
「怪我人なんていたのか? だったら、そいつは後で俺が治すから問題ない。しかも、ここは
「怪我を治すこともできるのか。それは助かるよ。でも、蛍が1位ということを伏せて皆を説得しなくてはならないってことだよな?」
「そうだな、でも賢人ならそんなの簡単だろ?」
俺はそう言って賢人に向かって笑みを向けた。
「ああ、楽勝だ。任せとけ!」
そうして俺たちはその日寝るまで二人で今まであった出来事やみんなの説得方法などの話をして寝たのであった。
約1年6か月ぶりに気の許せる友達と話すこの時間はとても短く感じ、心の余裕が生まれたような気がした。
******************************
「と、いうことでみんな! 蛍を含めた16人全員で函館を目指してみないか?」
賢人がここにいるクラスメイト全員をとある部屋に集めて、説得をしていた。
「賢人それはいい案だとは思うけどよ、怪我人はどうするんだ? もし逃げるようなシチュエーションになったら俺たち全員が道づれになるぜ?」
「それについてはもう決めているよ。蛍、頼むよ」
部屋の一番後ろで話を聞いていた俺は賢人が怪我をしていると言っていた天海彩(あまみさや)の下へと向かった。
そして俺は天海にだけ聞こえるように小さな声で言った。
「怪我をしている足を見せてくれないか?」
天海は意外と素直に怪我をした足を見せてくれた。
その怪我は確かにひどかった。
やけどをしたように赤く腫れあがっていたのだ。
彼女は足に火系統の魔法を食らってしまったらしい。
『ウォーターヒーリング』
俺は彼女の足に手をかざして、魔法を発動した。
すると、その怪我はみるみると治っていった。
「「「「おおっ」」」」
周りの数人が声を上げたが、俺は無性に背中がむず痒かった。
こういう空気って未だに慣れないな。
「おし、これで怪我は治ったはずだ。天海、足は普通に動かせるか?」
天海はおもむろに立ち上がって足の具合を確認し始めた。
「うん、大丈夫みたい。むしろ普段より動かしやすいくらいだよ。ありがとう、蛍くん」
いや、そんなに頬赤らめても無駄だよ。
俺は鈍感系じゃないがここは鈍感に徹するべきだな。
それと、君なにさらっと下の名前で呼んでいるんだ。
やめなさい。
まあ、そんなこと面と向かって女子に言う勇気はないがな!
すると、賢人がまたこのグループの指揮を執り始めた。
やっぱりこういうところは賢人ってすごいんだよな。
だからこそ俺も賢人を尊敬している。
「じゃあ、反対意見があるものはいないってことでいいかな?」
クラスメイトみんなが無言で賢人の意見に頷いた。
「じゃあ、出発は明日の朝一にするよ。少しでも体の違和感があったり、怪我があるものは今日のうちに蛍に治してもらってくれ。蛍それぐらいやってくれるよな?」
賢人はニヤリと俺に向かって言った。
いや、こんな状況で断れるわけがないだろう。
俺は無言で首だけを縦に振った。
その後はもう大変だった。
ほぼ全員が俺のところに来て、小さな傷や腰の張りを治してくれって言いだしてきたのだ。
傷はいいんだが腰の張りぐらい誰かにマッサージでもしてもらえよ、と思いながら全員治しました。
その後は、全員でデパートを周ってぞれぞれ必要な物を俺に渡してきてアイテムボックスに仕舞うという作業を延々とさせられた。
いや、男子はみんなすぐに終わるから良かったんだ。
女子がもう長すぎるのだ、これが世間でよく言われている女子の買い物は長いというやつなのかと俺は17になって初めって知ったのである。
女子って恐ろしい……。
******************************
「彩、探知頼むよ」
「うん、わかったよ賢人」
俺たちは早朝、デパートの唯一の出入り口にみんなでスキーを装着して準備していた。
ちなみに天海彩はこの中で唯一魔獣を探知することのできるスキルを持っているようだ。
いや、あんた優秀だったのかい。
「賢人くん、近くに6体の魔獣がいるみたい」
「わかった、二人で行くぞ、蛍!」
俺はただ頷き賢人と二人でデパートを出たのであった。
出て少しすると、そこには白いゴリラがいたので一応鑑定してみた。
【status】
種族 ≫スノウゴリラ
レベル≫40
スキル≫投擲Lv.5、筋力増大Lv.5
魔法 ≫雪魔法Lv.5
うん、弱いな。
ただ素で光学迷彩持ちなうえ、デカイ雪玉投げてくるゴリラってだけだ。
ちなみに俺と賢人も現在は俺の魔法で光学迷彩持ちな人間だ。
「なあ、賢人。お前ら全員ならあれ何体倒せる?」
俺はみんなの戦闘力を一応確認するため、賢人に尋ねた。
「そうだな、全員で掛かれば2人で1体を倒す感じになるとは思う。おっ、近づいてきたぞ」
うわ、みんなそんなレベルなのか。
でも、賢人でもこの世界で8千万位くらいだからこの地球全体でみたら強い方なんだよな。
確か、地球の人口って70億人くらいいるんだったよな。
うーん、この地球って大丈夫なのか?
そんなことを考えながら俺は一人でサクッと5体の白ゴリラを波動水でぶん殴った。
もちろんすぐに光と化していった。
「なあ、賢人。試しにあと1体いるから一人で戦ってみてくれないか?」
「おい、蛍。そんな無茶言わないでくれよ」
「大丈夫お前ならできるさ! もし怪我しても俺が治してあげるからさ。さあ、行った行った!」
俺はそう言って賢人の光学迷彩を解き背中を叩いた。
賢人は「嘘だろ?!」みたいな顔して嬉しそうに駆けていったよ。
いや、結論から言うと賢人は防戦一方で全然勝てそうになかったから最後は俺が倒しました。
その後、俺たちはデパートへとみんなを迎えに行って出発したのであった。
一応、先頭は賢人。
その次、その次にモブA~モブMたちが続き。
最後尾に俺となぜか天海さんだ。
でも、初めて感じたよ。
北海道では一般的である小学校などで主に行われているスキー学習が役に立ったと。
あの時はなんでこんな小さな小学生に自分の背よりも高くて重いスキー道具をスキー学習の度に家から学校まで一人で持っていかなきゃならないんだって思っていたが、初めて役に立ったよ先生。
その後は、函館までの道中で度々魔獣が出現したが天海の探知スキルのおかげで事前に知ることができ、みんなで頑張って倒していたよ。
まあ、大体の魔獣は俺が弱い水魔法だけを使って倒したんだけどね。
だから常に天海さんが俺の隣で探知の結果を言ってくるようになったんだ。
そのおかげというべきか、天海さんと仲良くなってしまったよ。
案外彼女はいい子だったよ。
まあ、いい子止まりだけどね。
俺が鈍感系を貫き通しているからか、賢人が先頭でずっと苦笑いしていたよ。
いや、賢人さん俺が演じていることばらさないでくださいよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。