第10話 芳しい香り
100階層。
そこは、異様な雰囲気に包まれていた。
スケール感覚が狂ってしまうほど大きな部屋に高い天井。
壁には等間隔にビックオーダーが整然と並んでいる。
そして、中央に凛として佇むボス。
俺はすかさずに鑑定をする。
【status】
種族 ≫エルダーリッチ(ユニーク)
レベル≫200
スキル≫パッシブ ≫魔法強化Lv.10
詠唱破棄Lv.10
王の威光Lv.5
≫アクティブ≫奴隷召喚LV.5
テレポートLv.10
魔法 ≫闇魔法Lv.10
蒼炎魔法Lv.10
氷結魔法Lv.10、
暴風魔法Lv.10
隷属魔法Lv.5
レベル200?!
まじか、いきなりハードル上がりすぎだろ。
しかも、魔法とスキルの保有率が今までの魔獣と比べるとダントツだ。
俺が一歩だけその部屋に足を踏み入れた。
その瞬間、いきなり目の前に先程のリッチが現れた。
『電速!!』
俺は先ほど覚えた電撃魔法・電速を反射的に発動し距離を取ることに成功した。
首筋に今まで流したことのない汗を感じた。
それほどまでに自分の感覚が一瞬で研ぎ澄まされた。
立ち入った瞬間に攻撃とかさすがに焦る。
あれがテレポートか。
上の階で電撃魔法を取得していなきゃ、やられていた恐れもあるな。
そんなことを考えながらも、リッチはテレポートで俺に詰め寄り、俺は電速で距離をとるという攻防が繰り広げられていた。
埒が明かないと判断したのかリッチは追うことを止めて立ち止まった。
すると、見たことない魔法を瞬時にいくつも放ってきた。
ちょっと、それは多すぎ。
だが、俺が気が付かないとでも思ったか、老いぼれリッチさん。
そう、リッチはそれらの魔法を弾幕として放ち、後ろに隠している手で蒼炎魔法を準備していた。
俺はあの魔法を見たことがある。
蒼炎魔法・ブルーサン、鉄球を蒼炎で太陽の如く熱量にして放つ魔法である。
しかし、それには弱点がある。
熱の充填時間が必要、そして
「その魔法、射程距離短いだろ?」
俺は電速で瞬時にリッチの背後に回り込む。
自分の弾幕で油断していたのか、リッチは一瞬だけ反応が遅れた。
『オーシャン』
俺はこの至近距離で水魔法レベル10のとき習得した魔法を発動した。
互いの間に膨大な質量の海水が流れ込む。
「知ってるか? 水蒸気爆発って現象。異世界の遅れた科学力じゃ、聞いたこともないだろ?」
ライデンフロスト現象。
膨大な熱量を持つ物質にその温度よりも沸点の低い液体を落とすと一瞬で水蒸気となり爆発する。
と、まあこれも家の警備をしているときに見た某アニメで知ったんだけど。
日本の誇る文化は最高ですね。
俺はその場を電速で壁際に逃げ、天井付近にアイスチェーンを刺し、海流に飲まれないように退避した。
もちろんエルダーリッチは、その波に水蒸気爆発と一緒に飲み込まれていったようだ。
あの魔法は途中でキャンセルできないピーキーな魔法だからね。
逃げられるはずがない。
少しすると水蒸気で覆われていた視界が徐々に晴れ、リッチの哀れな姿を確認できた。
俺は水魔法・オーシャンを解除し地面に降りた。
いや、呆気ない終わり方だな。
100階層のボスにしては弱すぎだろ、こいつ。
ふー、これなら一個上の黒スケと戦った時の方が楽しかったな。
また、黒スケ出てきてくれないかな、はぁ。
それにしても、オーシャンは使いづらい魔法だと思っていたがようやく初めての出番が出てきましたね。
と、エルダーリッチが光の粒となり消滅するのを待っていると、ドロップが現れた。
【result】
エルダーリッチの杖×1
え?
ええ?
まじですか、杖なんて要らない。
こちとら近接戦もする魔法使いを目指してるだから、武器を特化型にする必要性が皆無。
すると、ゴゴゴと下の階層へとつながる階段が部屋の中央に現れた。
あれ?
もしかしてこのダンジョン100階層で終わりじゃなかったりして…………。
俺は一応、杖を回収して階段を下りていく。
すると、どうだろうか。
降りた先に見慣れた休憩所の扉があった。
「まじか、まだ続くのかよこのダンジョン。まあ、いいや。お寿司を食べるのはもう少し先までお預けだ」
もうなんかこのモヤモヤした気持ちを切り替えるために、今日は特別に大ブタの霜降り肉(特上)を食べることにした。
あっうま。
やっぱ霜降り肉はゴブリン肉より数段美味しいな。
でも、脂っこいから量があんまり食べられない。
そんなちょっとした贅沢をして今日は就寝した。
******************************
101階層からはまた魔獣のアルゴリズムが変化した。
魔獣は単体でしか出現しなくなり、徒党を組んで襲ってくることが無くなった。
その代わり、魔獣自体の強さが桁一つ変わったと思わせるほど強くなっていった。
101階層から105階層の階層帯では、カラフルな巨大リスの魔獣が現れた。
リスと言ってもただのリスではなく幻惑魔法を使ってくる厄介な相手だった。
俺はMP消費を度外視で範囲攻撃魔法をひたすら放ち続けた。
105階層のボスを倒した時には、もう魔法を一発も撃てないぐらいには消耗した。
ここで改めてスキル・魔法力のMP2.2倍の恩恵を感じた。
しかし、重要なことはそんなことではないのだ!
このリス型魔獣、なんとスパイスをドロップしたのだ。
その個体の色によっては、ブラックペッパーやオールスパイス、カルダモンなど様々なスパイスをドロップしていった。
もうこれは周回するしか選択肢がない。
念願の香辛料なのだから。
アイテムボックスに眠っている霜降り肉がこれでやっと食べることができる。
我慢しといて良かった。
あの時、いつかスパイスをドロップする魔獣が出ると信じた俺を褒めたい。
ということで、MPが全回復してから周回作業を開始した。
******************************
「うま~!」
やはりスパイスは偉大だ。
今まではの食事ではお肉本来の味を楽しむだけだったが、今はもう違う。
「クー!」
「クウ、起きたか、おはよ」
マフラー化していたクウが俺の首からスルスルと降りて、俺の食べている肉をじっと眺めだした。
「ポン!」
「おっ、ぽんも起きたか。おはよ」
防具化していたぽんもそれを解除して、肉をじっと眺め出した。
「お前らって、食事要らないんじゃなかったのか?」
「――」
「――」
どんだけ肉に集中してるんだよ。
まあ、いいか。
「クウ、ぽん。食べていいよ、まだたくさんあるから」
「クー!」
「ポン!」
そう返事をして、肉を食べ始めた。
食事の要らない精霊もさすがにスパイスの芳しい匂いには敵わなかったのだろう。
そういえば、クウとぽんが一緒に起きてきたのはこれで2回目だ。
初めて、鉢合わせたときは俺がちょうどベッドから起きた時だった。
俺の被っていた毛布の上でお互い永遠にペコペコしあって、頭を下げあっていた。
あれが精霊流の挨拶なのだろう。
日本にも同じような文化があるが。
そんなことを思い出していると、食べ終えた精霊たちが再び防具化して俺の下へと帰ってきた。
「おい、クウとぽん。二人ともまた尻尾が出てるぞ」
「クッ!」
「ポッ!」
二人とも同じようなリアクションをして、尻尾を引っ込めた。
防具精霊って尻尾を変化させるのが苦手なのだろうか。
毎度毎度、尻尾だけ変化しきれていないのだ。
可愛いと言えば可愛いのだが、端から見れば俺に尻尾があるように見えてしまうだろう。
それだけは勘弁願いたい。
特に、獣人への変身願望とかはないしな。
そうして、再び終わりの見えないダンジョン攻略へと歩み始めた。
******************************
そして現在、155階層のボス部屋へと入った。
しかし、中を確認してもボスはいなかった。
おかしい。
今までこんなことはなかった。
よく耳を澄ますと羽音が聞こえた。
上だ!
天井付近には、紫の肌をした大蛇が二対の翼をはためかせて飛んでいた。
すかさず、鑑定をすると
【status】
種族 ≫ポイズンスネークバット
レベル≫245
スキル≫パッシブ ≫聴力強化Lv.max
アクティブ≫フライLv.max
硬化LV.15
脱皮LV.5
魔法 ≫毒霧魔法Lv.15
暴風魔法Lv.13
あれは蛇の体に蝙蝠の羽がついたキメラみたいだ。
それにしても毒霧と暴風って、相性やばいな。
しかも、あそこから降りる気が全くなさそうだ。
俺は大蛇の下へ行くために、空を駆けた。
そう、これは131階層のボスを倒したときに入手した足の装備品・天足というアイテムだ。
天足の効果は、天を掛けるとき最大3歩分の足場を作ることができるという優秀なアイテムだ。
こんな高さ、今の俺には2歩もあれば充分だ。
さあ、大蛇さん。
地面で戦おうじゃないか。
俺は真っすぐ駆けると、大蛇の長い尻尾が襲ってきた。
俺は普通に幻影回避する。
しかし、3歩目使ってしまった。
まぁ、いいか。
『アイスチェーン・クリスタル』
氷雪魔法レベル15で変化した、アイスチェーンが結晶化し透明度と硬度がより高くなった魔法で大蛇を巻き捉えた。
俺はそのまま地面に着地した。
3歩目がもう残っていなかったので、さすがに着地の時に足がジーンと来た。
そんな間も大蛇はクリスタルから逃れようと暴れている。
俺は腕力任せにそのアイスチェーン・クリスタルを引っ張り地面に落とした。
普段ならチェーンを経由して瞬間凍結を使用するのだが、相手は硬化のスキル持ちのため今回は使えない。
『チャージ』
俺は電撃魔法のレベル6で覚えるチャージで電気の力を体に蓄える。
『黒雷撃』
そして、指先から一点集中で黒い電撃を大蛇に向けて放つ。
俺はチャージの反動で数m後ろに流されてしまった。
しかし、その一撃で大蛇は散り散りに吹き飛び光となった。
やはりこのコンボの破壊力はやばいな。
あれだけの巨体を一瞬で粉砕するとか。
だけど、これだけ強くなっているはずなのに未だにこんなにも攻撃の反動を受けてしまう。
これは俺の現在ある2番目に強い攻撃手段だ。
俺は大蛇のドロップを確認する。
【result】
セレクトスキルスクロール・上級×1
おお。
久しぶりのスキルスクロール。
しかも、これは第1階層で初めて獲得した選べるタイプだ。
俺は早速と手に持ち詳細を鑑定する。
【result】
名称 ≫セレクトスキルスクロール・上級
効果 ≫スクロールに記載されているスキルを一つ任意に選択して取得できる。
一覧 ≫毒耐性、超投擲、杖術、超バランス感覚
毒耐性は、魅力的だが回避型の戦闘をしている俺には必要性が低い。
超投擲、もう君は要らない。
練習しすぎて充分うまい自信がある。
杖術は、論外だ。
やっぱりこれか。
<パッシブスキル・超バランス感覚を獲得しました。レア度・5、プラチナスキル。おめでとうございます>
またもやレア度5のスキルですか。
本当に地上に帰ったら宝くじを買ってみようかな。
さて、そんなことよりも超バランス感覚はどんなスキルだろう。
【skill】
名称 ≫超バランス感覚
レア度≫ 5
状態 ≫パッシブ
効果 ≫元のバランス感覚から2.0倍強化される。行動系統のスキルに補正が掛かる。
さて、効果を見てもよくわからないので実際に動いて検証してみますか。
結果から言おう、俺はまたしても素晴らしいスキルを手に入れてしまったようだ。
最初は、バランス感覚と言われてもあまりイメージが思い浮かばなかった。
しかし、使ってみると近接戦闘が非常にやりやすくなった。
まずは、重心移動がかなりスムーズに行えて、まるでプロの体操選手にでもなったかのように体を自由自在に動かせる。
そして、空中戦だ。
空中で体勢を崩すことが無くなり、さらには攻撃を躱すことさえもできるようになった。
要するに、自由自在に体の姿勢を維持できるようになり、この体がまるで自分の体ではないように動かせるそんなスキルだ。
スキル・超動体視力の時もそうだったが、使う度に最適化されていった。
これも同じ系統のスキルだと考察しているため、今後もどんどん最適化されていくだろう。
ちょっと、夢だったんだよな。
アクロバティックな戦闘をすることが。
アクロバティックに相手を切り裂き、アクロバティックに魔法を放つ。
やはり派手でかっこいいだろう。
これも魔法同様に練習あるのみだ。
最後に、自分のステータスを確認しておく。
【status】
名前 ≫雨川 蛍
称号 ≫Number 1
スキル≫パッシブ ≫超動体視力Lv.max
早熟Lv.max
魔法力Lv.max
超バランス感覚Lv.max
≫アクティブ≫異世界鑑定Lv.7
アイテムボックスLv.max
幻影回避Lv.max
造形操作Lv.12
魔法 ≫水魔法Lv.18
氷雪魔法Lv.16(共存共栄)
電撃魔法Lv.11(共存共栄)
装備 ≫防具精霊・冷狐(マフラー)
防具精霊・雷狸(衣服:上下)
【水魔法】
ウォーターソーサース・クリア
ウォータージェット・ウィップ
ウォーターフロア・スロウ(NEW)
ウォーターバレット・ショットガン(NEW)
ウォーターバインド・プリズン(NEW)
波動水・インパクト(NEW)
ウォーターヒーリング・ダブル(NEW)
水月・ダブル(NEW)
ウォーターライトソード
オーシャン
【氷雪魔法】
スノウエリア・ストーム(NEW)
アイスソード・ダース(NEW)
アイスシールド・雪花(NEW)
アイスソーン・蕗の薹(NEW)
アイスチェーン・クリスタル(NEW)
瞬間凍結・氷雪世界(NEW)
ブラックバーン
霰
アイスプラネット
アイスクリスタル
【電撃魔法】
電撃掌打・ショット(NEW)
ディスチャージ
マグネティックフォース
サンダーボルト
電速
チャージ(NEW)
黒雷撃(NEW)
黒雷落とし(NEW)
エレクトリックヒール(NEW)
雷化(NEW)
うん、このダンジョンに潜り始めたときより大分強くなったな。
最初の頃が懐かしいよ。
水魔法と大量の武器だけで攻略していた日々、そしてゴブリン肉。
我ながらかなり頑張った。
そんな感傷に浸っている場合ではない。
攻略再開だ!
※注意)ライデンフロスト現象を間違った解釈で書いてますのであしからず。
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