第9話 ポン!



「おっ、やっとレベルmaxだ」


 俺は75階層のボス・紅カラスを2回ほど周回したところで、幻影回避のレベルが25になり、LV.maxへと表示が変わった。

 スキルは25が一区切りなのかな。

 でも、25ってキリが悪いよな。


「クァ~」

 そんなことを考えていると、首元のクウがようやく起きたようだ。


「おはよ、クウ。本当にお前よく寝るよな」


 クウは仲間になってからというもの起きている時間は三分の一ほどしかない。

 3日あったら大体2日間はマフラーのまま寝ている。


 さて、ここの周回作業は終わったので、そろそろ76階層へ行きますか。

 普通のダンジョンであるならば大体100階層が目安だ。


 だとするならば、あと25階層だ、頑張るか。


 地上戻ったら、まず初めにお寿司を食べたいな。

 そろそろ魔獣の肉ばっかりじゃ、飽きてきたよ。



******************************



『アイスプラネット』


 巨大な氷の球塊が大きな地響きを鳴らしながら魔獣たちを容赦なく潰していく。


 俺は99階層のボスを倒した。


 99階層のボスは、スケルトンの騎士50体が隊列を組んで襲ってくるパターンだった。

 もちろん騎士だけではなく後方には魔法を使用してくるスケルトンもいた。

 普通であれば苦戦を強いられるだろう。


 しかし俺は、魔法中心の戦いに変更しているのだ。

 物量には物量で対抗させてもらったよ。

 まあ、俺の場合は質量の方なんだけどね。


 だけど、最近思うんだよ。


 魔法を中心に据えるとターン制のソシャゲをしている気分になる。

 要するに、さらにつまらない戦いになってしまったのだ。


 そこで、魔法も近接戦もできる万能タイプに転向をしようと思う。


 そしてボスドロップを回収し、いつも通りステータスを確認する。



 【status】

   名前 ≫雨川 蛍

   称号 ≫Number 1

   スキル≫パッシブ ≫超動体視力Lv.max

             早熟Lv.max

             魔法力Lv.max

      ≫アクティブ≫異世界鑑定Lv.6

             アイテムボックスLv.max

             幻影回避Lv.max

             造形操作Lv.4

   魔法 ≫水魔法Lv.12

       氷雪魔法Lv.10(共存共栄)

   装備 ≫防具精霊・冷狐(マフラー)



 76階層から99階層までの戦闘で大幅にスキルと魔法のレベルが上がった。

 より階層が深くなるにつれて経験値的なものが大量に貰えるようになったためだと思われる。


 水魔法が3upのレベル12、氷雪魔法が4upのレベル10、異世界鑑定が1upのレベル6、造形操作が3upのレベル4へとそれぞれ上がった。



 【水魔法】

   ウォーターソーサース・クリア(NEW)

   ウォータージェット・ウィップ(NEW)

   ウォーターフロア

   ウォーターバレット

   ウォーターバインド

   波動水

   ウォーターヒーリング

   水月

   ウォーターライトソード

   オーシャン(NEW)



 【氷雪魔法】

   スノウエリア

   アイスソード・ダブル

   アイスシールド

   アイスソーン

   アイスチェーン

   瞬間凍結

   ブラックバーン(NEW)

   霰(あられ)(NEW)

   アイスプラネット(NEW)

   アイスクリスタル(NEW)



 水魔法では、新しい魔法が1つ増え、既存の魔法2つが変化した。


 まずは、オーシャン。

 これは膨大な量の水を発生させる魔法だった。

 さすがに造形操作でもこの量の水の操作は難しいので、少し使い道の難しい魔法だ。


 そして、「ウォーターソーサース」が「ウォーターソーサース・クリア」に変化した。

 これは、水がさらに美味しくなったくらいだろうか。

 いつも通り、戦闘には不向きな魔法であることは変わらない。


 しかし、魔法名が異様に長くなり使いづらくなった。


 そこで興味本位で「クリア」とだけ言ってみたら、しっかりと発動した。

 変化したことにより、魔法の省略ができるようになったみたいだ。



 次に、「ウォータージェット・ウィップ」だ。

 これもクリアと同じく、魔法の質が変化した。


 今までは、1Lほどの水を勢いよく噴射するだけの魔法だった。

 それが、消滅することなく鞭のように持てるように変化したのだ。


 しかし、これも正直使い道が難しいのだ。



 そして、氷雪魔法もまた新しく4つの魔法を習得した。


 「ブラックバーン」は、見えにくい氷を地面に張ることで敵の足場を奪う魔法。


 「あられ」は、限定的だがスノウエリアを発動時のみ使用が可能である魔法で、その名の如く霰を勢いよくその範囲に降らせる広範囲攻撃魔法だ。


 「アイスクリスタル」は、触れた対象を硬度が非常に高い結晶に変化させる魔法だ。

 もちろん任意で解除することが可能だ。

 瞬間凍結と似ているが、この魔法は簡単には対象を破壊できないのが大きな違いであった。



 そして、魔法と造形操作のレベルが大幅に上がったのは戦闘だけが理由ではなく、休んでいるときや寝る前に練習していたのが良かったようだ。


 水魔法の練習は、ウォーターライトソードを掌に出し色々と形を変形させることで練習し、今では丸や四角などの簡単な造形がすぐにできるようになっている。


 氷雪魔法の練習は、アイスソード・ダブルを両手に纏わせて、それを鎌や斧などに変形させることでレベルを上げた。


 もっと練習すれば、複雑な形も再現できると俺は踏んでいる。


 そして、次は100階層だ。

 しかし、下りたらすぐにボス戦が始まるというパターンもあるだろう。


 俺は恐らく次が最後の階層だと踏んでいる。

 それを考えるともう少しだけスキル造形操作のレベルを上げておきたい。


 おし、96階層に戻って一休みしてからこの階層帯を周回しますか!



******************************



「で、できた!」


 俺はついこの達成感あふれる気持ちを叫んでしまった。


 現在は、96階層の休憩所。

 そこで、俺は念願である氷の薔薇を掌に完成させることができたのだ。


「約1か月、よく頑張った俺!」


 そう、約1か月もの間、俺は96階層から99階層までを何度も周回し、造形操作の練習を毎日し続けた。

 本当に頑張ったよ、俺。


 ただし、使い道は今のところ眺めていると綺麗、そんなところだ。


 いずれ、戦闘で活用できるくらいには昇華させてみせる!


 さあ、目的も達成したことだし、そろそろ100階層のボス戦に挑みますか!



******************************



『アイスプラネット・薔薇』


 膨大な質量をもつ氷の薔薇が大きな地響きを立てながら、大群であるスケルトンの騎士を押しつぶした。

 そして、華麗に氷の薔薇が散った。


「うん、頑張った甲斐があったってもんだな。実に綺麗な魔法だ。いやー、一人で鑑賞するのが勿体ないな」


 帰ったら、妹にでも見せてやるか。


 すると、氷の薔薇の残骸から一匹の青く輝く魔獣が何事もなく立っていた。


「ガッ、ガッ」


 その魔獣は、今倒したスケルトンの騎士だった。

 しかし、先ほどまでの魔獣との違い、それは骨が黒く、そして青く輝いていた。


 ユニーク個体か。


 すると、その黒スケルトンが一瞬ブレた。


 途端、俺の横に腕を振りかぶったスケルトンが視界に映った。


 俺は反射的に腕でその攻撃を防いだが、そのまま数mほど飛ばされた。

 最初は何が起こったかの状況が理解できなかった。


「痛っ!」


 そして、腕に痛みが走った。


 まじかよ、まじかよ。

 めちゃくちゃ痛い。


 俺の超動体視力を持ってしても攻撃の瞬間しか姿が見えなかった。


 しかも、腕が痺れてやがる。

 あの青い光、雷属性持ちかよ。


 それにしても、速いな。

 どうするか。


 すると、またしても黒スケルトンがブレた。


『ブラックバーン』


 俺はその瞬間に地面に見えにくい氷の床を張った。

 黒スケルトンはその氷に足を取られて勢いよく転んだ。


「黒スケよ、安易な攻撃だったな。俺も同じスピード型なんだよ。いくら今の俺より速いからって、対処法くらい考えてるさ。ゲーマー舐めるな」


 初めて攻撃を受けたときには動揺したが、今ではもう落ち着いている。


 俺は未だに態勢を整えられていない黒スケルトンに再び魔法を使った。


『アイスソーン』


 俺の足元から黒スケルトンに向かって、地面を這うように氷の床ができていき、そこから氷の棘が穴だらけの黒スケルトンの体に突き刺さる。


 間を置くことなく、俺は再び魔法を発動する。


『瞬間凍結』


 俺はその氷の床を経由して、黒スケルトンを一瞬で凍結させた。


 俺はブラックバーンを解除し凍結した黒スケに向かって歩いていった。


「ふー、まじで痛かったよ。ただ改めて実感したよ、ここがファンタジーの世界なんだって。痛いのはもう嫌だが、初めて戦いのスリルってのを味わえた、そこは感謝してる。じゃあな、ありがとう」


 そう言って、黒スケの頭蓋骨を指で弾き粉砕した。


 すると、そこには一切装飾のない真っ黒な宝箱が現れた。


「おっ、レアドロップゲット。ユニーク個体で結構強かったから、期待感が高まるな」


 そう、ウォーターヒーリングで腕を回復させながら呟いた。

 初めて回復系の魔法を自分自身に使っている、この光景につい笑みがこぼれた。


 そう、これなんだよ。

 こういうのがダンジョン攻略のあるべき姿だよな。


 腕の痛みがとれたことを確認すると、俺は宝箱に手を掛けた。


 そこには、黒いフランダースカットの宝石が入っており、宝石の中心では青いオーラのようなものが揺らいでいた。


 あれ、この形の宝石って…………。



 【result】

   名称 ≫精霊の封印石(黒)

   説明 ≫精霊が封印されている宝石。解除するには扉が必要。



 やっぱりか!

 その宝石を手に持つと、さらに輝きが増す。


 その瞬間、俺の体に電気が走った。


「ポン!」


 ポンって可愛いかよ。

 そこには、全体的には黒くお腹だけが白い小さな狸が二足で立っていた。

 狸は「ポン!」と鳴きながら、よちよちと近寄ってきた。


「あーはいはい、先にちょっと鑑定させてな」

「ポン!」


 俺は狸の頭を撫でながら鑑定をした。



 【status】

   種族 ≫防具精霊・雷かみなりたぬき

   名前 ≫

   契約者≫雨川 蛍

   スキル≫パッシブ ≫共存共栄

      ≫アクティブ≫防具化(服:上下)

   魔法 ≫電撃エレクトリカル魔法Lv.5



「おー、お前電撃魔法なんて魅力的な魔法持ってるのか!」

「ポン!」

 狸はどうだと言わんばかりに元々出ているお腹をさらに前に突き出した。

 にしても、雷魔法ではなくて電撃魔法とはまた特殊な。


「俺はお前の契約者の雨川蛍だ。よろしくな」

「ポン!」

 俺が手を出すとそっとその手に小さな黒い手を乗せてきた。


「おし、まずは名前を決めないとな。俺には名付けの才能なんてないからあんまり期待しないでくれよ」

 クウの時も同じだったが、やれやれって顔をされた。


「んー、じゃあ、お前もクウと同じ感じにするか。ポンって鳴くからひらがなで『ぽん』でいいか?」

「ポン!」


 ぽんは大きくその小さな頭で頷いた。


「じゃあ、早速防具化してみてくれないか?」

「ポン!」


 ぽんがそう鳴くと、ぽんが徐々に大きくなっていき俺の体と同じ大きさになり、お腹を叩いた。


「そこに突っ込めってことか?」

「ポン!」


 さあ、って感じで手を大きく広げるぽん。

 俺は意を決して、お腹に突っ込む。


 すると、そこにはまるでぽんがいなかったかのように空をきった。


 あれ?

 ぽんどこ行った?

 

「ポン!」

 と、俺のお腹から鳴き声が聞こえた。


 自分の格好をよく見ると、見慣れたジャージではなくスポーティーな黒い上下の服へと変わっていた。


「おお、これがぽんの防具化した姿か!」


 体を動かしてみるとかなり動きやすい。

 動きが常に補助されているような感覚だ。


「ぽん凄いな! これ体めちゃくちゃ動かしやすいよ! でも、防具精霊ってことはこの服ってもしかして防御力も高いのか?」

「ポン…………」


 ぽんは申し訳なさそうに鳴いた。

 まじか、防具は得ても紙装甲は変わらずだな。


「まあ、体が動かしやすくなるだけでも十分助かるから、そんな落ち込むなって」

「ポン」

「これからよろしく頼むな!」

「ポン!」


 そう言って、気合を入れたがまだボスのリポップには時間があるので電撃魔法の検証を行った。

 まず使える魔法はこんな感じだ。



 【電撃魔法】

   電撃掌打

   ディスチャージ

   マグネティックフォース

   サンダーボルト

   電速



 電撃魔法は、雷魔法とは異なり全体的に攻撃に特化した魔法であった。


 「電撃掌打」は、掌打を繰り出したときに相手に麻痺を与える効果があるようだ。


 「ディスチャージ」は、指向性の紫電を放電することが可能な単体攻撃魔法だ。

 貫通力もある程度あり、攻撃速度も速いので有効活用できそうだ。


 「マグネティックフォース」は、磁力を触れた対象に付与する魔法だ。

 使い道次第では活躍できる魔法だろう。


 「サンダーボルト」は、相手の頭上から高火力の落雷を落とす魔法。

 耐久力の高い相手には有効だが、使った後に硬直が少しあった。


 そして、「電速」。

 これはあの黒スケルトンが使っていた魔法だ。


 自分自身が電気と化し、電気の如き速さで任意の場所まで移動する魔法のようだ。

 どういった理論で発動できているのか全くの不明だが、これぞファンタジーって魔法だった。

 加えて、非常に使いやすく今後重用させてもらうだろう。


 ということで、そろそろリポップする時間が近づいてきたので俺は100階層へと降りる階段へと足を踏み入れた。

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