第7話 脱。ソロ攻略



 俺は未だに51階層以下の階層に進むことができていなかった。


 そう、俺との相性が悪いあのカブトの幼虫がその階層に現在大量発生しているからだ。


 最初の51階層アタックの時にはそこまで数がいなかったのだが、少しすると大量発生するという有り様だ。

 なんでだろう、発情期でもあったのかな。


 そのため、ここ数日間俺はずっと50階層で何度も何度もリポップ次第、ボスの貪る成金ブタとの戦闘をしていたのだった。

 否、戦闘ではなく一方的な蹂躙なのだが。


 そこで気づいたのだが、このブタ意外にも経験値的なものが旨い。

 本当に旨い。


 異世界鑑定が2upのレベル5に、幻影回避が2upのレベル4に、水魔法が2upのレベル9へとあっさりと上がったのだ。


 俺の今のステータスはこうだ。



 【status】

   名前 ≫雨川 蛍

   称号 ≫Number 1

   スキル≫パッシブ ≫超動体視力Lv.max

             早熟Lv.max

      ≫アクティブ≫異世界鑑定Lv.5

             アイテムボックスLv.max

             幻影回避Lv.4

   魔法 ≫水魔法Lv.9

   装備 ≫



 異世界鑑定はより詳細な鑑定ができるようになり、幻影回避は幻影の残存時間が延び、回避時の速度がレベルが上がるごとに上昇している。


 さらに、水魔法は新しく水月すいげつとウォーターライトソードの2つの魔法を習得した。



 【水魔法】

   ウォーターソーサース

   ウォータージェット

   ウォーターフロア

   ウォーターバレット

   ウォーターバインド

   波動水

   ウォーターヒーリング

   水月(NEW)

   ウォーターライトソード(NEW)



 レベル8で覚えた水魔法・「水月」は三日月の形をした水の刃を飛ばす魔法だ。


 レベル9で覚えた水魔法・「ウォーターライトソード」は水月と同じく、三日月の形をした水の刃を体中から自由自在に発動する、近接用の魔法だ。


 俺はようやく殺傷性の高い魔法を2つも使えるようになったのだ!

 今までは打撃型の魔法しかなかったため、斬撃型の魔法が使えるようになったのは非常に嬉しい。




――そして現在、ボス部屋の扉の前で水魔法の練習をしながらリポップを待っていると扉の奥から「ブモオォーー!!」と聞こえてきた。


 ボスのリポップが完了したようだ。

 たぶん「復活したぞー」とでも言ってるのではないだろうか。

 ただの推測に過ぎないが。


 ということで、早速ボス部屋にお邪魔する。


「ただいま、ブタちん。そろそろスキルスクロール落としてくれよ、頼むから。俺がゲーマーだからってそろそろボス周回も飽きてきたよ」


 本当、切実に。


 ということで、早速『水月』発動。


 ボスがちびブタを召喚する前にサクッと水の刃を飛ばす。


 毎回のことなのだが、「えっ?」みたいな驚いた顔して胴体から真っ二つにされるデカブタ。

 少し滑稽に見える。

 そして、光となる。


 ボスブタの体積に見合った大量の光の粒が消えると、いつも通りそこにはドロップが落ちていた。



【result】

  大ブタの霜降り肉(特上)×1



「ちぇ、また霜降り肉かよ」


 そろそろ霜降り肉だけでアイテムボックスが2枠埋まってしまう。

 2枠、要するに200個だ。


 そして、俺は下の階層へは下りずに扉からボス部屋を出て壁際に腰を下ろした。



******************************



「ブモオォーー!!」


 再度、リポップしたようなので早速ダンジョンに突入。

 と、同時にサクッと倒す。


 いつもの如く膨大な光の粒が無くなると、そこには見たことのない豪華な装飾が施されている宝箱が現れた。


「おっ、ついに新しいドロップだ! 地味にこのダンジョンで宝箱出たのって初めてだな。さてさて、何が出るかな」


 俺は少しの高揚する気持ちを抑えながら、宝箱に近づく。


 おっと、危ない。

 ダンジョンに宝箱…………罠がある危険性もあるよな。


 でも、罠感知スキルとか持っているわけでもないし、どうするか。


 …………うん、今の俺に安全に開く方法なんてないな。

 とりあえず休憩所に行くか。


 俺はアイテムボックスに宝箱ごと仕舞い、一階層下の休憩所へと向かった。


 休憩所に入りすぐに宝箱を取り出し、部屋の中央に置いた。

 俺はというと一番長い槍を手に持ち扉からすぐに出れる体勢をとっている。


 その体勢で俺は槍先を使って器用に宝箱を開けた。


 すると、宝箱の中から白い煙がモクモクと出てきた。

 すかさずに槍を収納し、部屋から飛び出て扉を閉めた。


「やっぱり、罠があったか。あの時、勢いに任せて開けなくて良かったわ」


 そして、収まるであろう頃合いを見て再び扉を開けた。

 しかし、まだ白い煙が部屋に充満しており俺は少し手を触れてしまった。


「冷たっ!」


 その煙はただ冷たいだけの冷気だった。

 そう、俺はただの冷気に一人ビクビクして罠だなんだと焦っていただけだった。


 恐る恐る俺は冷気が充満している気温の低い部屋に入り、宝箱の中を確認する。


 そこには、実に綺麗な白く透き通ったフランダースカットの宝石が冷気を放ちながら入っていた。


 鑑定してみると、



【result】

   名称 ≫精霊の封印石(白)

   説明 ≫精霊が封印されている石。解除するには扉が必要。



 また精霊か。

 それと扉って、あのフクロウに…………。


 途端、その封印石から膨大な冷気が発生し、視界が白く包まれた。


 うわっ、何これ。

 寒いんだけど、いやマジで。


 部屋に充満していた冷気がある一点に収束されていく。


 すると。

 そこには、冷気を放つ白い小さな狐が座っていた。


「ク?」


 ク?って可愛いかよ。

 にしても、この狐が精霊なのか?


「えっと、お前が精霊?」

「クー!」

「ちょっと鑑定させてな」

「クー!」



 【status】

    種族 ≫防具精霊・冷狐

    名前 ≫

    契約者≫雨川 蛍

    スキル≫パッシブ ≫共存共栄

       ≫アクティブ≫防具化(マフラー)

    魔法 ≫氷雪魔法Lv.5



「いきなりすぎて色々聞きたいことが多いんだけど、とりあえず俺が契約者となっているが、これは本当か?」

「クー!」


 白狐はてくてくと近寄ってきて、前足をポンと俺の足に置いた。


 特に俺自身は動物好きというわけではないが、不覚にも可愛いと思ってしまった。

 そして、不覚にもそいつを抱き上げてしまった。

 ただちょっと冷たいよ、君。


「それで名前はないのか?」

「クー」


 白狐は右の前足を俺に向けて突き出した。


「俺に名前を付けろってか?」

「クー!」

「うーん、キツネ・シロ・キツキツ・シオとかはどうだ?」

「クゥー………」


白狐は落ち込んだように下を向いた。


「いや、ごめんって。まず俺に名付けを頼むのが間違いなんだよ、センスが壊滅的なんだからさ。ゲームの名前だってボンボン丸だぜ?」


 おい、キツネさんや、やれやれって顔するんじゃないよ。


「じゃ、じゃあ、クウはどうだ? クー、クー鳴くからクウ」

「クー♪」


 おっ顔が明るくなった。

 ついに俺にもセンスという才能が付加されてしまったようだ。


「じゃあ、今日から俺と共存共栄するってことでいいのか? スキルにも共存共栄ってあるし」

「クッ!」


 クウはそう鳴くと俺の手からもぞもぞと抜け出して、俺に飛びかかってきた。

 そして、首元にくるくる巻き付いて収まった。


「おっ、これが防具化ってやつか? ただマフラーという防寒具なのに冷たいよ、クウさんや。冷気抑えられないのか?」

「ク? クー!」


 任せろと言わんばかりに、冷気がクウに収束されていき普通に温かい動物になった。

 もちろんマフラーはクウと同じ体温だ。


「おお、いい感じ! ちゃんと温かい!」


 ただ、上下ジャージにモフモフの白いマフラーって絶妙にダサい。


 今は一人だからいいが、他人にはこの格好あまり見られたくない。

 例えニートだとしても世間体という言葉は俺の辞書にあるのだよ。


 あと、初めて入手した防具がマフラーってどうなのよ。

 普通は胴体や足、手を先に揃えるのが一般的でしょう。

 マフラーなんて防御力なさそうなんだけど。


 そういえば、氷雪魔法の使える魔法を確認しないと。



 【氷雪魔法】

   スノウエリア

   アイスソード・ダブル

   アイスシールド

   アイスソーン

   アイスチェーン



 おお、名前から何となくは想像できるが水魔法とはまた違った魔法だな。

 今日はもうだいぶ体が疲れているから明日クウに試してもらおう。


「クウ、今日は疲れたから明日、氷雪魔法見せてほしいんだけどいいかな?」

「クー!」


 そこで俺はベッドに体を沈めた。


「てかさ、クウはマフラーのまま寝るのか?」

「ク? クー!」

「おっそうか。あと、さっきから気になっていたんだが尻尾だけ変身できてないぞ」

「クッ」


クウは「やっべ」みたいな感じで尻尾を引っ込めた。



******************************



「さあ、クウさん。氷雪魔法を見せてください!」


 現在、51階層を攻略せんとカブトの幼虫と向かい合っている。


「クッ!」


クウは俺を前足で指してから、防具化して俺の首に巻き付いた。


「えっ、俺がやれって? 無理だよ、氷雪魔法なんて覚えてないし」

「クッ!!」


お前ならできるって感じで顔だけ防具化を解いて、こっちを向いてくる。


「わ、わかったよ。できなくても文句言うんじゃないぞ」


 一応、念を押す。

 確か、氷雪魔法の最初の魔法は……


『スノウエリア!!』


 すると、俺が確認できる範囲全てが一瞬で雪に覆われた。


 そして、目の前のカブトの幼虫が徐々に氷で覆われ動かなくなった。


「えっ、マジ? なんで、俺が使えるの?」


 俺はすぐに自分のステータスを確認した。



 【status】

   名前 ≫雨川 蛍

   称号 ≫Number 1

   スキル≫パッシブ ≫超動体視力Lv.max

             早熟Lv.max

      ≫アクティブ≫異世界鑑定Lv.5

             アイテムボックスLv.max

             幻影回避Lv.4

   魔法 ≫水魔法Lv.9

       氷雪魔法Lv.5(共存共栄)

   装備 ≫防具精霊・冷狐(マフラー)

       はじめての脇差



 やはり、魔法欄に氷雪魔法の文字が記されていた。

 クウのスキル・共存共栄には魔法を共有する効果でもあるのか?


 分からないことも多いが、分かったこともある。


「クウが防具化していれば俺も氷雪魔法を使えるっていうことだな?」

「クー!!」


「おし、じゃあ、氷雪魔法も使えるようになったし、この51階層を突破するか! 他の魔法は道中に確認するぞ!」


 そうして、俺はクウと一緒に51階層を駆けていった。


 結果から言うと、カブトは元々倒せるので問題はない、幼虫も氷雪魔法一発で倒すことができ、前に苦戦したのが嘘のようにサクッと突破することができた。


 その後、56階層まではカブトやクワガタなどと変化はあったが氷雪魔法のおかげで簡単に突破できた。


 氷雪魔法さん優秀過ぎる。

 5つの魔法の効果はこうだ。


 「スノウエリア」は、かなり広範囲を一瞬で雪原に変化させる魔法のようだ。

 効果は、氷雪魔法の威力を上げることのできるフィールドを作り出す、そんな感じだ。


 「アイスソード・ダブル」は、両手を氷の剣に変化させる魔法。

 敵を切りつけるとその箇所は解凍しない限りは回復できなくなる状態異常を付与する効果だ。

 あとは、ただの剣でしかない。

 水魔法のウォーターライトソードと比べると少しばかり使いづらいが、併用すると使いやすくなるだろう。


 「アイスシールド」は、自分の目の前に円形の強度が高い氷を張るだけの魔法。


 「アイスソーン」は、自分の足から氷の床を任意の方向に発生させ、その床面の氷を棘の状態に変形させることで攻撃する中距離範囲攻撃魔法だ。


 「アイスチェーン」は、手から氷の鎖を放出する魔法で、ある程度は操作が可能である。

 しかし、操作がかなり難しく、今のところは大雑把な動きしかできない。

 今後の練習でどれだけ操作ができるようになるかに期待だ。




 そして、例の如く何もない休憩所でクウと一緒に休養を取った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る