第4話 淡谷小太郎の物語



 東の孤島、日本。


 そこでは現在ある報道が小学生から大人の間で話題となっていた。



――とある田舎にある高校の一室。



「おはよー、小太郎こたろう。ニュース見たか?」

間宮まみや、おはー。ニュースなんて見てないよ。起きたのギリギリだったからね」

「おい、まじかよ。ほらこの記事見てみろよ」

 そう言って、間宮はスマホでとある記事を見せる。

 その記事にはこう書いていた。



『世界に異変? 謎の洞窟が世界各地で突如として現れる』

 現在、世界各地で突如として謎の洞窟が数多く出現している。日本では、5つの洞窟が確認されている。場所は、北海道、新潟県、茨城県、山口県、大分県の5箇所だ。その全てが現在、自衛隊によって包囲され外からは確認できない状態になっている。これは明らかに異常な事態なのではないだろうか。しかし、この対応は日本だけに留まらず、アメリカやロシア、韓国でも同じような対応を軍隊が行っているようだ。

 さらに、中でも特筆すべき点がある。洞窟の周囲では、数体の正体不明の動物が確認されている。

 そして、インターネット上ではその正体不明の動物の画像が多数アップされており、地球になんらかの異変が起きているのではと話題を呼んでいます。

 (画像)



「えっ、なにこれゴブリンじゃん。これ日本?」

「いや、タイだってさ。意外と近くね?」

「近いっちゃ近いけどさ、これCGとかじゃなくてまじなの?」

「んーどうだろう、今ネットで大量に写真がupされてるけど明らかに合成した写真とかもあった」

「どうせアメリカ人とかのいたずらだろ。ほら先生来たぞ、クラスに戻れよ」

 小太郎に言われて、間宮は隣のクラスに戻っていった。


「おーい、ホームルーム始めるから席に着けよ」

 先生がそう言うと、一人の生徒が声を上げた。

「せんせー、ゴブリンのニュース見た?」

「ゴブリン? あーあれか、どうせ合成だろ。おい、そこの男子たち静かにしろ。モンスターが地球に出るなんてあるわけないだろ。ちゃんと現実見ろよ。じゃあ、出席取るぞー」


 その日、授業はいつも通りつつがなく終えるそのはずだった。




――小太郎の視点。




 6限目の最中。


 現在は睡眠の授業だ。

 否、本当は古文の授業なのだが、ただの子守歌にしか聞こえない。


 そんな時後ろの席の生徒から小声で声を掛けられた。


「おい、小太郎。起きろ、小太郎」

「ムニャムニャ、なんだよ」

「外見てみろ、外。あれ、ニュースでやってたゴブリンじゃないか?」

 何言ってんだこいつと思いながら、外を見てみる。

 すると、そこには緑色をした小人が3人いたのだ。

「な、あれそうだよな、小太郎」

「うん、ゴブリンにしか見えないな」

 すると古文の高山先生が注意してきた。


「おい、そこの二人。静かにしなさい、寝るのは構わないが話はするなよ」

 その注意に対して、後ろの生徒が答える。


「先生、外に朝ニュースで見たゴブリンがいるんすよ」

「そんなわけないだろ、寝ぼけてるのか?」

 先生がそう言うと、周りからクスクスと笑いが起こる。


 しかし、このクラスでカーストの高い安代あしろが声を大にして言う。

「えっ、先生! まじでいるっすよ。外見てみてくださいよ。緑色の小人がいる」

 その声を聞いてクラス中の生徒が窓際に集まり出した。

 

 そして、みんな口々に言った。

「えっまじでゴブリンじゃん」

「うわー、まじだ」

「武器持ってんじゃん、あれやばくない?」

「先生! 警察に電話しないと!」


 生徒が口々に言うため、先生も仕様がなく確認するや否や走り出した。


「おい、荷物まとめて、席で待機しておけ! 少し職員室に行ってくるから!」

 そう言って、走り出していく先生。


 それでもこのクラスの騒がしさは収まらない。

 ましてやバカな生徒が「俺は冒険者になる」なんて騒いでいる始末だ。

 その前に銃で自衛隊に駆逐されるだろう、バカが。

 俺はこの時はそんな悠長なことを考えていた。


 少しすると校長先生の一斉放送が校内に響き渡り出した。


『校長の渡辺です。皆さん一旦手を置いて落ち着いて聞いてください。現在、校舎の外に不審な動物が確認されています。刃物を所持していると思われるため、絶対にクラスから出ないようにお願いします。先生方は一旦職員室に集まってください。繰り返します―――』


 そんな放送が流れた後、校舎内にドタバタと足音が響き渡り出した。

 恐らくみんな外を確認しているのだろう。

 野次馬どもめ。


 俺は荷物をまとめて、スマホでニュースを確認してみると朝の報道よりも多くの場所でゴブリンが確認され始めているようだ。

 いったい、何が起き始めているのだろうか。


 すると、担任の先生がクラスに入ってきて席へ戻るように促す。


「えー、みんな放送で聞いたと思うが。外に変な生き物がいる。恐らくゴブリンだ。ニュースは本当だったようだな。現在、警察に連絡したら自衛隊が派遣されてくるようだ。かなり大きな事態となると予想される。今は校舎から出ることが一番危険だ。スマホ使うことを許可するから家族に一度連絡してください。ただし、焦らないように」


 先生がそう話していると、校庭に戦車や大型のトラックなど自衛隊と思われる車たちが大量に入ってきた。


 先生が手を叩く。


「はい、まだ話は終わってないよ。家族に連絡しながらでいいから聞いてね。今から放送で順番に体育館に避難しますので、荷物をまとめてください」


 すると、放送でクラスが呼ばれて体育館へと避難訓練の要領で向かう。


 中に入るとステージの上には緑の迷彩服を着た自衛隊の人たちが30人ほど銃を持ちながら立っていた。

 これってまじでやばい事態なのかもな。

 世界規模で起こっているのかな?


 そして、全生徒が体育館に集まるとマイクの前に校長先生が立った。

 すると、皆一様に話すのを止めた。

 校長先生ってすごいよね、マイクの前に立つと誰もが話すのを止めるから。


「校長の渡辺です。これから自衛隊の方から重要な話があるのでしっかりと聞くように。じゃあ、お願いします」


 唯一、銃を持っていない自衛隊の隊員がマイクの前に立つ。


「初めまして、自衛隊所属の川谷かわたにと言います。えー、皆さん突然の事態で分からないと思いますが、落ち着いて聞いてください。現在、報道やネットで色々なことが発信されていますが、今から話すことが真実です。現在、日本に留まらずに世界各国で正体不明の生物や洞窟が確認されています。高校生の皆さんには”ゴブリン”と言った方が分かりやすいですかね。普通では地球に存在しない生物が武器を持って各地で徘徊しています。そして、ここも例外ではありません。そのため、ここら一帯の住人には危険が去るまでは自衛隊の基地にて過ごしてもらいます。君たちは、今から外にある車でそこまで移動してもらいますので指示に従って行動してください。家族への連絡は移動の時に早めにしておいてください、これから各地で回線が込み合う恐れがありますので、無事を伝えておいてください。君たちは今から橘第三基地に移動しますので、その旨を伝えてもらっても構いません。それでは、順次移動を開始いたします」


 そんな大事な話を俺はトイレから聞いていた。


 いや、昼に飲んだ牛乳がダメだったのかな?

 体育館へ移動する際に我慢できずに駆け込んでしまった。

 やばい、このままだと置いていかれちゃうかも。

 だけど、お腹壊してるから便座から離れられない。


 誰か近くを通らないか耳を澄ましていると、足音が聞こえてきた。

 よし来たな!


「すいませーん、自衛隊の方ですか? 先生ですか? 今、生徒がお腹壊してトイレにいますので置いてかないでくださーい。2-Cの淡谷小太郎あわやこたろうですー」


「グギャギャギャ」


 あれ?その返事やばくない?

 えっもしかして自衛隊でも先生でもない?

 ゴブリンさんですか?


 俺は息を押し殺してやり過ごそうとした。


「グルグルグルル」

 俺のお腹はとても欲求に正直なようだ。


「グギャッ!!」

 ゴブリンと思わしき足音が完全にこのトイレの中に入ってきた。


 まじですか、まじですか。

 そのまま踵を返して帰ってくださいよ。

 やばいなんか武器を用意しなきゃ。

 俺は自分の鞄を漁るも武器になるようなものは何もなく筆箱も机の中に置いてきてしまったようだ。

 しまった、これしかない。

 そう考え抜いて、俺は鞄についていたキーホルダーの人差し指大の聖剣(笑)を手に取る。


 ふー、ふー、落ち着け俺。

 相手は武器を装備しただけの最弱ゴブリンだ。

 対して俺は状態異常持ちの高校生、装備は聖剣なんだ。

 勝機は…………ないな!


 するとゴブリンは個室の扉を順番に開け始めた。

 やばい次は俺のいる個室だ。


 すると、勢いよく俺の入っている個室が開けられた。

 ゴブリンはそこに誰もいないのを確認して後ろを向く。


 すると急にゴブリンに影が落ちる。


 俺は個室の上の方にスタンバってゴブリンの隙をついて武器を蹴り飛ばして、目に聖剣(笑)を思いっきり突き刺した。

 ゴブリンは武器を落とし、目を押さえながら悶えだした。


 俺はゴブリンが落とした武器、短槍を手に取った。

 ゴブリンの胸めがけて勢いよく突き刺すもすんでのところで躱された。

 俺はそこから短槍を横薙ぎに振りぬくとゴブリンの体に傷を作った。


 体勢を立て直して、次は一発で突き刺すフェイントをかけてから再度胸へと向けて槍を前に突き出す。

 すると、見事にフェイントに引っかかったゴブリンの胸を貫く。

 途端、ゴブリンは壁にもたれかかるように倒れた。


「勝ったぞーー!!」


 俺はどんどん速くなる鼓動を抑えるため、大きな声で叫んだ。


「おい、誰かまだいるのか? どこだ!」

 俺の声が聞こえたのか、男の人の声が聞こえた。


「トイレです!」

 俺が答えるとすぐに2人の自衛隊員がトイレに入ってきた。


「君、大丈夫か? ゴブリンが校舎に入ったと連絡があったのだが………」

 自衛隊員は壁にもたれかかっているゴブリンに気付く。


「あー、たぶんこいつのことですかね。倒しちゃいました」

 俺がそう答えると、自衛隊員の人が驚いたような表情を浮かべた。


「君がやったのか?」

「はい」


 自衛隊員は状況把握能力が高いのか無線に向かって話す。


「こちら、相川。ゴブリンを確認、すでに死亡した模様。加えて、生存者を確認、至急車にお連れ致します」


 無線を置くと、同時にゴブリンが光の粒となって消えていった。

 俺はつい声を出してしまった。


「あっゴブリンが………。まじかよ、ファンタジーかよ」

「えっと、とりあえず車まで一緒に行こうか」

「わかりました」


 そう言って、俺の愛剣の聖剣を回収して自衛隊員の後をついていく。


 そうして俺は無事みんなと同じ所へと着き、重要参考人として数多くのお偉いさん方とお話をする毎日を送っていた。


 そう淡谷小太郎、近い未来「ダンジョン冒険者」になる男の話である。

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