第2話 第一階層



 石扉を開けると幅と高さが4m程の洞窟が真っすぐに延びていた。

 多少は凸凹しているもののコンクリートとそれほど差のない程度には歩きやすい。

 加えて、壁際にたくさん生えている苔が青い光を放っているため視界は昼間と同じくらいには良好だ。


 なんともご都合主義なダンジョンだな。


 ここで青く光る苔を異世界鑑定で鑑定してみた。



 【result】

   名称 ≫発光苔(青)

   説明 ≫空気中の魔力を吸収して青く光る苔。ダンジョン内によく生息している。



 鑑定してみるとこのように表示された。



 とりあえず俺の装備は脇差を右手に持ち、左手には直径が50cmほどの円形の盾を持って挑んでみる。


 恐る恐る前へと進むとすぐに奥の方からいくつもの足音と金属が擦れる音が聞こえてきた。

 何かがすごい速さで走って近づいてきているようだ。

 俺は深く深呼吸をして頭のスイッチを切り替えた。


 徐々に見えてきた敵は緑色の肌をしており、鋭い眼光でこちらを見ている。

 数は3匹、そのうち後ろの一匹が頭に兜のようなものを被っていた。


 少しして顔が視認できるほどまで近づいてきたところでその魔物の確信ができた。

 ゴブリンだ。

 鼻が異常に高く、耳が横に伸びており非常に醜い姿をしている。

 身長は140cmほどだと思う。


 一応、異世界鑑定を使ってみる。



 【status】

   種族 ≫ゴブリン

   レベル≫ 5



 異世界鑑定Lv.1では種族とレベルしか表示されないようだ。

 にしても、魔獣にはレベルがあるのか。


 最初の魔獣としてはオーソドックスではあるが、いきなり人型というのは少しハードルが高く感じてしまう。


 3匹もいるのか……。

 おし、切り替えて初戦闘の開戦だ。


『ウォータージェット』


 走って向かってきている先頭のゴブリンの足元に俺は水魔法を放つ。

 すると前の一匹に運よく当たり、そいつが倒れると巻き添えを食らって3匹みんなが転んだ。


 俺はすぐに武器を脇差と盾から長めの槍に変えて、走っていき勢いよく頭に突き刺した。

 するとそのゴブリンが光の粒となり天井や壁に吸い込まれていった。


 おー、さすがダンジョン、ファンタジーだな。


 少し離れたところに転んだゴブリンが起き始めたので、槍を思いっきり投げると胸あたりに突き刺され「ギョエェェー」と絶叫していた。


 ゴブリンが叫ぶと同時に、鎧の被った強ゴブリンが起き上がって短剣を片手に向かってきたのでアイテムボックスから斧を取り出して遠心力で思いきって投げつけると顔面に直撃して消えていった。


 おっラッキー、ヘッドショット決まったね。

 槍を突き刺したゴブリンを見ると足掻いている様子もなく少し経つと消えていった。


 すると、ドロップ品のようにゴブリンの死体があったところにある物が落ちていた。


 鑑定すると、



 【result】

   木の棍棒×2

   錆びた短剣×1



 やはりドロップ品のようだ。

 てか、木の棍棒って使えないだろ。

 錆びた短剣ぐらいは投擲用として使えそうなので貰っておいた。


 ふー、初戦闘にしては上々じゃないかな?

 もしかしてこの武器って結構強い方なのかな?

 たぶん俺ってまだ弱いと思うんだけど、武器一刺しで死ぬって割と高性能な気がする。

 結構、使い捨て感覚で使ってたんだけど、次からはもう少し大事に使おう。


 そして、槍と斧を回収して斧だけをアイテムボックスに仕舞う。

 いやー、ニートやってて良かったわ。

 メニュー画面の切り替えや操作なんて朝飯前よ。

 武器がすぐに変更できたのもこれが理由だ。


 俺は再び深呼吸をしてさらに前へと進むべく歩き出した。


 少し歩きながら槍を振っていると体の異変に気付いた。


「槍がさっきより軽く感じる。これってステータスパラメーター的な物があるのかも。これもマスクデータなのかな?」


 あると仮定すると、行動によって伸び率が変わったりするのかな?


 そんなことを考えていると、また遠くから足音が聞こえてきた。

 またゴブリンだ。


 この戦闘は、遠くから遠心力や腰を使って思いっきり武器をたくさん投げつけてみた。


 すると、やはり戦闘終了後は槍がさらに軽く感じた。

 

 この後、2時間ほどは何度か戦闘があったが色々工夫をして戦ってみた。


**************************


「ふー、結構疲れるな。でも、ゴブリン程度ならだいぶ攻略方法が確立できてきたな」


 そして、分かったことがある。

 やはり自分の行動次第で力が強くなったり、走るのが速くなっている気がした。


 ステータス画面があるということはレベルなんかももしかしたらあるのだろう。

 魔獣にはあるようだしね。


**************************


 そして、さらに進むこと1時間。

 俺の目の前にはまた石扉がある。


「これって、絶対ボス戦だよな。にしても、今まで同じようなゴブリンしか出てこなかったんだが。絶対ここのボスってゴブリンの上位種だよね」


 今までの戦闘で気づいたのだが、俺はこの状況をゲーム的な感覚で考えている傾向があるようだ。

 武器で血が出るのにもあまり拒否感はないし、ゴブリンの叫び声などにも特にモヤモヤした感覚など感じない。

 そして、ボス戦を前にしても緊張よりも高揚感の方が勝っている。

 たぶん一番影響しているのは、自分自身が少しずつだが強くなってきているのが実感できているからだろう。

 

 そして、水魔法も使える魔法が一つ増えて、ウォーターフロアが使えるようになった。

 これは床一面に水を張り、相手の動きを阻害する効果があるようだ。

 直接的な攻撃力はないが、使いようによっては有用な魔法だろうと推測している。

 というのもまだ知能の低そうなゴブリンにしか使ってこなかったからね。


 そして、俺は高ぶる鼓動を抑えながら扉を開ける。

 今回は梃子など使わずに簡単に開けられた。

 やはり筋力が増えているのだろう。


 すると、中には見慣れたゴブリンが4匹と身長が2m以上あるゴブリンが1匹、円形の部屋の中央に居座っていた。


 敵のステータスを確認してみる。



 【status】

   種族 ≫ゴブリンキャプテン

   レベル≫ 15

   スキル≫統率



 ゴブリンの3倍のレベルって、さすがボス。


 異世界鑑定のレベルが一つ上がり現在2なのでスキルまで鑑定できたようだ。

 統率ってことは倒すのが少し厄介そうだな。

 おし、戦法はこれに決めた。


 すると、「ゴオォォーー」っとゴブリンキャプテンが大きな咆哮をあげた。


 それと同時に、俺は『ウォーターフロア』を発動し、敵の移動阻害を試みる。

 しっかりと成功したようで、5体の敵が魔法の範囲内に入った。


 俺はその範囲には入らないようにその周囲を走りながら武器を投げつける。

 投げつける、さらに投げつける。


 そうこれが俺の戦法、チキンとは言わせない。


 この方法は安全マージンを十分に確保しながら、腕力と敏捷と体力のステータスを上げることができる、そう考えているからだ。

 実際に敏捷はいつもよりも速く動けている気がしている。


 取り巻きのゴブリン4体は投擲で簡単に倒すことができた、しかし問題が起きている。

 ゴブリンキャプテンが俺が投げた武器を木製のハンマーで叩きつけてくるのだ。


 俺は投擲戦法を一旦やめて足を止めて、考える。


 そろそろウォーターフロアの制限時間だ。

 これ以降は、俺のMP(仮)的にも魔法は使用できない。

 ウォーターフロアは発動している間に少しずつMP的なのを消費していく魔法なのだ。


 これはダンジョンに潜って以来の一番のピンチかもしれない。

 投擲戦法は通じず、魔法ももう少しで使えなくなる。


 俺に残された道は近接戦闘しかない。


 相手は大ぶりなハンマー、俺はそれを踏まえて小ぶりな短剣を2本取り出す。


 そして魔法を解除すると、ゴブリンキャプテンは汚い笑みを浮かべた。

 俺はそれと同時に相手に向かって駆けていく。


 まずは相手のハンマーを封じるために短剣を一つ投擲する。

 読んだ通りに敵は短剣をハンマーで防いだ。


 俺はそのまま近づき短剣で敵の足に突き刺すが、意外と硬くあまり深くは刺さらなかった。

 敵はハンマーを横薙ぎに振りかぶるが、俺はコロコロと転がりながらギリギリ躱すことができた。


「あぶなー、死ぬかと思ったぞ。ゴブちん」


 さて、リーチの短い武器では俺の力で致命傷を与えることは難しそうだ。

 俺は螺旋槍を一本取り出して装備する。


 再度、駆けだし短剣を次は足元に向かって投げるもハンマーで防がれる。


 俺は次に槍を上半身に向かって投げつけ刺すことに成功するもまだ浅い。

 そこで槍の石突の部分に向かって蹴ると敵は悲鳴を上げた。


 そこで、相手のハンマーを踏み台にして再度空中で装備したハンマーで顔面に叩きつけるとゴブリンキャプテンの首から嫌な音がして90度に折れ曲がった。

 その巨体が力無く後ろ側に倒れて光と化していった。


 俺も腰が抜けたようにその場に尻餅をついて天井を見上げる。


「あー、終わった。まじで死ぬかと思った。この武器全然通じないじゃん。嫌、単に俺の筋力的なパラメーターが低いのかな? まあ、いいや。さてどんなドロップがでるか楽しみだな。なんせボスだしね」


 そうしてゴブリンとゴブリンキャプテンのドロップ品を鑑定する。



 【result】

   ゴブリンの肉×3

   錆びた短剣×1

   セレクトスキルスクロール×1



 うぇ、ゴブリンの肉なんて食えるのか?

 まぁ、食料が手に入ると考えただけましか。

 

 錆びた短剣はいつも通りだな。


 問題はこれだよな、セレクトスキルスクロール。

 鑑定してみると、詳細が出てきた。



 【result】

   名称 ≫セレクトスキルスクロール・中級

   効果 ≫スクロールに記載されているスキルを一つ任意に選択して取得できる。

   一覧 ≫耐寒、夜目、投擲、超動体視力



 おお、新たなスキルが獲得できるのか!


 これは悩みますね、投擲は欲しいけどこの数時間投げすぎてだんだんと上手くなってる気がするんだよね。

 夜目も欲しいけど今のところの重要性はない。

 やっぱり超動体視力にするか、スポーツが上手い人は動体視力すごい発達しているって聞いたことあるし。

 ポチッっと。



<パッシブスキル・超動体視力を獲得しました。レア度5、プラチナスキル。おめでとうございます>



 うわっ、なに、びっくりした。

 急に頭の中に女性の声が聞こえてきた。



<さらに、スキル・早熟を獲得しました。レア度6、ユニークスキル。おめでとうございます>



 また、同じ女性の声が聞こえてきた。

 少しびっくりしたが、ステータスを確認してみる。



 【status】

   名前 ≫雨川 蛍

   称号 ≫Number 1

   スキル≫パッシブ ≫超動体視力Lv.max

             早熟Lv.max

      ≫アクティブ≫異世界鑑定Lv.2

             アイテムボックスLv.max、

   魔法 ≫水魔法Lv.5

   装備 ≫軽い木槌



 今まで何も変化のなかったステータス画面がボス一回倒しただけでかなり変化していた。


 異世界鑑定が1upしてLv.2に、水魔法が1upしてLv.5に。

 そして、スキル欄がパッシブとアクティブの2分化されている。

 今、取得したスキルの詳細を確認してみると。



 【skill】

   名称 ≫超動体視力

   レア度≫5(プラチナスキル)

   状態 ≫パッシブ

   効果 ≫元の動体視力から2.0倍強化される。行動系統のスキルに補正が掛かる。



 【skill】

   名称 ≫早熟

   レア度≫6(ユニークスキル)

   状態 ≫パッシブ

   効果 ≫早熟する。成長率が通常の2.2倍となる。一定の成長を終えるとこのスキルは消滅する。



 レア度の指標はよくわからないが、2つとも当たりスキルなのではないだろうか。

 まあ、後で検証してみるか。


 次に、水魔法を確認してみる。



 【水魔法】

   ウォーターソーサース

   ウォータージェット

   ウォーターフロア

   ウォーターバレット

   ウォーターバインド

   波動水はどうすい



 波動水という魔法が新しく追加されていた。

 効果を確認してみると、掌を勢いよく前に突き出すことで水の波動を打ち出す魔法のようだ。そして、対象との距離が近ければ近いほど威力が高いようだ。

 これは近距離戦闘用だな。


 そして! ついに!

 波動水が使えた時点で予想はしていたのだが、なんとウォーターバレットとウォーターバインドが使えるようになっていた。


 ウォータバレットは水弾を同時に5つ放つ魔法だった。

 しかも、ホーミング付きだった優秀魔法。


 ウォーターバインドは対象を球状の水の中に閉じ込めて拘束する魔法であった。ただし、そこまで射程がない魔法であるため注意が必要だ。


 これで戦いの幅が急に広がって、明るくなったな。


 俺は休まった体を起こしてボスが倒れた後に出現した下へと降りる階段を下りていった。

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