涅槃の章 その参 20年前を回想し現在の物語との整合性を果たす



 

 釈迦しゃかと太陽を目指しながら弥勒みろくは20年前を回想していた。



 そう。


 土星の周回軌道上に突如として現れ地球へと向かった「あの物体」の事を。

 そして、「その物体」を釈迦と一緒に10分の1の質量にした事。

 隕石と化した物体が地球に激突した後、研究所に向かい母以外の人達の無事を確認した事などを。




20年前



 釈迦と弥勒が光速で地球から「あの物体」に接近した頃には、ソレは木星の周回軌道から離れ地球へと進行を始めていた。

 釈迦は進行軌道を逸らそうとしたが直径33kmの物体の進行軌道を変える事は出来なかった。


「うーん、これはこの物体の質量を削るしか無いですね」


 弥勒に解脱げだつさせられたばかりの阿修羅あしゅらは驚いた。


「そんな事が可能なのか ?」


「やるしか無いでしょう。アナタもいますからね」


 これらの会話は音声では無い。

 真空の宇宙空間では声帯では声は出ない。そもそも培養された肉塊の釈迦に声帯は存在しない。

 2人と言うか2体は思念で会話をしている。


 今の2体は思念体しねんたいとして存在している。


「そもそも何で進行軌道を変更できないんだよ?」


 弥勒の問いかけは真っ当なものだった。

 質量を削る、なんて事をするよりも進行軌道を変更させる方が簡単だからである。

 アレの進行角度を少しずらすだけで良いのだから。


「それが出来ないから困っているんですよ」


 弥勒の問いかけに釈迦は困ったように答える。


「私が軌道をずらしてみましたが直ぐに地球への軌道に戻ってしまうのです。アレは地球に激突するように自動で軌道修正をするように作られているようですね」


 釈迦の答えに弥勒は唖然あぜんとする。


「・・・・作られたって ?」


「その問いには後で答えましょう。今はアレの質量を削る手段を考えなくては」


 釈迦の毅然きつぜんとした口調に弥勒は口をつぐむしか無かった。

 そして、別の問いかけをする。


「アンタの、その余剰次元からパワーを貰う事は出来ないのか ?」


「難しいですね。釈迦は攻撃をする仏ではありませんから。私のキャパではアレを消滅させる程のパワーは得られません」


「じゃあ、もっとパワーのある仏を降臨こうりんさせるとか」


 弥勒はなおも問いかける。


阿弥陀如来あみだにょらいを降臨させる事も考えたのですが。パワーが強すぎて私が制御できるかどうか」


「阿弥陀って、そんなにスゴイのか」


 弥勒は素朴な疑問をていする。


「如来の、いえ仏の最上位ですからね。制御できなくて暴走したら、この天の川銀河どころか宇宙そのものが消滅するかも知れません」


「シレっとコワイ事言うな! 制御できないモノを降臨させるな!」


「ですよねぇ」


 ました釈迦の声に弥勒は苛立いらだつ。


「もっと扱いやすいヤツは居ないのかよっ!」


「とりあえず持国天じこくてん増長天ぞうちょうてん広目天こうもくてん多聞天たもんてん四天王してんのうを降臨させます。いずれもオリジナルの私がおしえを聞かせていた者達ですから制御は可能です」


「四天王ってよく聞くけど、ソイツら強いのか ?」


 不躾ぶしつけな弥勒の問いに釈迦はニヤリと微笑む。


「強いですよ。特に多聞天は毘沙門天びしゃもんてんとも言われて特別な存在でもあります。今回は彼らの思念エネルギー、即ちパワーを降臨させます。が」


「あぁっ ? が、って何だよ。が、って ?」


 無理矢理に解脱げだつさせられた弥勒が詰め寄る。


「私はオリジナルでは無いので彼らを降臨させるのに少々、時間が掛かります」


「少々、ってどのくらいなんだよ」


「そうですねぇ」


 釈迦はしばらく考え込む。


「少なくとも1ヶ月くらいでしょうか?」


「おい!」


 思わず弥勒が突っ込む。


「アレが地球に激突するまで2ヵ月しか無いんだぞ。間に合うのかよっ!」


「仕方ないですよ。この現世には存在しない彼らを降臨させ、そのパワーを物理的な破壊エネルギーに変換しなければならないのですから」


 弥勒は憮然ぶぜんとした顔になる。


「アタシには詳しい内容は判らないけど。物理的に破壊するのなら地球に近づいてからでは地球にも影響を与える。1ヶ月半がギリだと思うけど」


 釈迦は頷く。


「仰る通りです。私も善処しますからアナタも頑張って下さい」


「アタシ ? アタシに出来る事ってあるのか ?」


 釈迦は「当然です」と言いたげな顔で告げる。


「アナタは弥勒菩薩みろくぼさつです。余剰次元にアクセスできずとも、それなりのパワーを持っています」


「でも、どうやって物理攻撃なんてしたら良いんだよ」


「それを考えるのも修行の一環いっかんです」


 釈迦はまたも澄ました顔でサラリと言う。

 

 

 そんな釈迦に対して弥勒はアングリと口を開く。



「いくら何でも無責任すぎるだろ! アタシはアンタに無理矢理に解脱させられたんだぞ!」



「アナタも菩薩ぼさつの最上位なのですから。私が戻るまでに少しでもアレの質量を削っておいて下さい」



「そんな、やれば出来る子みたいに言うな!」



 そんな弥勒を微笑ましく見ていた釈迦が真面目な顔つきになる。



「とにかく時間がありませんので私は四天王を探しに行きます。アナタも、これが会者定離えしゃじょうりにならないように頑張って下さい」

 


 そう言って釈迦は姿を消した。


 余剰次元とやらに行ったのであろう。




「チッ、言いたい事だけ言って行っちまいやがった」




 1人残された弥勒は舌なめずりをする。




「アタシだって、人々を救う弥勒だ。いっちょ、やってみるか」




 そう言いながら弥勒は「その物体」に突っ込んで行った。



 






つづく




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