涅槃の章 その弐  修行と言う名のパワハラを受ける弥勒




「うげえぇぇぇ」




 釈迦しゃかによって阿修羅あしゅらから解脱げだつさせられた弥勒みろくうめいていた。



 地球に隕石が激突してから20半年後。



 今日も弥勒は釈迦の修行を受けていた。



「だらしないですねぇ。これくらいで根を上げるとは」


 釈迦はあきれた声を上げる。


 その顔は笑みを浮かべていたが。


「・・・・アンタは良いよな。最初から如来にょらいだったんだから」


 弥勒が釈迦をにらむ。


「おや、責任転嫁ですか? 弥勒菩薩みろくぼさつともあろう方が」


 釈迦は面白がっているように見える。

 そんな態度が弥勒のかんさわる。



 2人と言うか2体の仏はインド半島に居た。


 隕石が激突した後のインド半島には今はホモ・サピエンスは殆どいない。

 激突前の地球の自転軸の傾きは約23・4度であったが激突の影響によって、その自転軸の傾度は少し変わった。

 その結果としてインド半島は生物が暮らしにくい環境となったのである。




「アナタには早く如来になって頂かねばなりませんから」


 釈迦は相変わらず金色こんじきの光りに包まれている。


「そんな簡単にさとりを開けるのなら苦労はしねーよ」


 法衣をまとった弥勒は頭をふる。

 銀色の髪が揺れる。


「しかし、弥勒は菩薩の中では最上位ですからね。もう少しなんですが」


 釈迦はマジメな顔つきになって顎に手をやる。


「そんなの経典の中の話だろ。アンタも言ってたじゃねーか。経典通りに56億7千万年後にアタシが人々を救うって言っても、この太陽系は存在しないって。太陽の寿命は100億年しかねーんだから」


 弥勒はふて腐れたように言う。


「それはそうなんですが、気になる事があるのです」


「なんだよ。その気になる、って事は ?」


 釈迦は弥勒の方を向いて答える。


「20年前に木星の軌道上に現れた物体は本当に「いきなり現れた」んです。しかも、その物体は地球への進路を取っていた。これを偶然と呼ぶのは不可解です」


 弥勒はハッとする


「それって、まさか」


 釈迦は黙って頷く。


「何らかの人為的な意図が介入していた。と考えた方が妥当です」


 弥勒は、あんぐりと口を開く。


「そ、そんな事が出来る人。いや、生命体が存在するのかよっ!」


「存在する可能性は高いです。これは余剰次元よじょうじげんにアクセスしないと理解するのは難しいと思いますが」


 釈迦は優しい眼差しで弥勒を見つめる。


「・・・・それがアンタがアタシを如来にする目的か」


 釈迦は今度は少し淋し気な表情になる。


「そう、ですね。私に残された時間も長くは無いですし」


 弥勒は少し慌てたような口調になる。


「なんだよ。残された時間って」


「何でもありません。さ、修行を続けますよ」


 それを聞いた弥勒は「ヒッ!」っと言う態度になる。


「こ、今度は何をやるんだよ?」


「そうですねぇ」


 釈迦は考え込む。


「今度は大日如来だいにちにょらいにしましょうか」


「ちょっと待て」


 弥勒が釈迦を制するように言う。


「大日如来って太陽じゃねーか。まさか、太陽に飛び込めとか言うんじゃねーだろうな」


「行きますよ」


「カンベンしてくれぇぇぇ」




 弥勒の声が虚しく響き渡るのであった。








つづく




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