第42話 悩む姉

~姉視点~


 恋を自覚した日の夜、お風呂から上がった私はリビングのソファに腰掛け、テレビを見ていた。まぁ見ていたといっても内容は全く頭に入っておらず、私の頭の中は美優のことで埋め尽くされていた。


 まさか私が恋愛感情を持つなんてなぁ…。しかも相手は美優。一か月くらい前までは女の子同士の恋愛すら知らなかったのにね。


「お姉さま、髪を梳かすのでこちらに来てください。」


 でも美優は性格が良くて可愛いし、最近はちょっと小悪魔チックなところはあるけど、それもまた愛嬌じゃん?それに何より、こんな私でも慕ってくれてる。はぁ~~~好き。


「……お姉さま?」


 てか少し冷静に考えてみると、私ってば美優のこと好きすぎない??恋を自覚したの今日の昼前だぞ??もしかして私って重かったりする?いや体重の話じゃなくて。まぁ愛の重さにしろ体重にしろ、普通の人と同じくらいだとは思うけど。むしろ軽めじゃない?


「………。」


 はぁ…これからどうすれば良いんだろう…。義理とはいえ相手は妹だしなぁ…。世間一般的にはよろしくないよなぁ…。


「…お姉さま、無視されると悲しいです。」


 でも好きなんだよなぁ…。世間からの評価と美優を天秤に掛けたら、問答無用で美優の方に傾くくらいには好きなんだよなぁ…。そう考えたら世間の目とかどうでも良くなってきた気がする。むむむ……。


「……このまま無視を続けるならキスしちゃいますよ?」


 てかそんな相手と一つ屋根の下で一緒に暮らしてるって普通にやばくない?そんなのもう家族じゃん。いや家族だったわ。でも私はこの家族では満足できない…!!いやいやいや、流石に気が早いか。


「……舌をいれたディープなやつですよ?いいんですか?」


 そもそも美優って私のことどう思ってるんだろ。流石に嫌われていないのは分かるけど、私のことをお姉ちゃんとして慕ってるだけだろうなぁ。私とは違って普通の家族愛だと思う。


「………むぅ。」


 入院後から距離感が近いとは言え、それがずっと続いてるってことは、姉妹に対する美優の接し方のデフォルトがこの距離感なんだろうし。


 はぁ…私が恋してるって美優本人に知られたら気持ち悪いって思われるのかな…。それはやだなぁ…。


「もう!どうして無視するんですか…!」


「わぁ!!」


 思考の渦にとらわれていると、急にソファの後ろから美優が背もたれ越しにぎゅっと抱きついてきた。びっくりして思わず声を上げてしまう。心臓に悪い。


「な、な、な、なんで急に抱きついてくるの!?びっくりするじゃん!!」


 驚きすぎて口から心臓が出るかと思った。ってかこれ、いわゆるあすなろ抱きじゃん!昔漫画で見たことある!


 思わずキュンとしてしまう。


「それはお姉さまが私のことを無視するからです。私はとても悲しかったのですよ?」


 悲しげな表情で美優が俯く。


「うっ…ごめん。ちょっと考え事してた。で、でも!だからと言って急に抱きついてきたら―――」


「……はむ。」


「ひゃぁぁぁぁあ!!!!!!なに!?なんで耳を食べるの!?!?」


 私が注意しようとしたら耳をはまれた。


「私を無視した罰です。これに懲りたら二度と無視しないでくださいね。次はこれだけでは済ませませんから。」


 美優はそう言いながら私のお腹の裾を捲り、ツーっと指を滑らせてきた。耳をはまれたことで敏感になっており、思わず体がピクンと跳ねてしまう。急激に体温が上がっていくのを感じた。


「~~~~~!!!!!!み、み、み、美優のえっち!!!へんたい!!!すけべ!!!女たらし!!!うわぁぁぁぁぁあん!!!」


 私は顔を真っ赤にさせて自分の部屋に駆け込んだ。バクバクしてる心臓を落ち着かせようと布団に潜るが、目を閉じたところで思い浮かぶのは先ほどの出来事だ。


「もう!!もう!!こっちの気も知らないで…!!美優ったらまったくもう…!!」




 耳から伝わった唇の柔らかさが忘れられない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る